当サイトは18歳未満の閲覧を固くお断りしております。

寿退社(NL)

「ウルシマ~~! お前、またやりやがったな! 発注数、間違えているぞ!」

「えッ!?」

 部長はカンカンだ。そんな彼の手には、サナがやらかした証拠が。ちらりと見えた発注数は、明らかに桁が多い。少なくとも、3つは多い。

「えッ!? じゃないんだよ!」

「す、すみません……」

 サナは素早く頭を下げた。頭の上から「謝れば済む人はいいよねぇ……」という部長の鬱陶しげな声が聞こえてくる。

 ――そんな風に言わなくても。

 視界が少しだけぼやけてきた。泣いてはいけない。泣いたって、事態が改善するわけではないのだから。

「部長、大丈夫ですよ。先方には発注数の修正について連絡済みです。課長の許可を得て、修正版の注文書を送付しました。先方から正しい数量の注文請け書も受領しました」

 イケダはそう言うと、完璧な笑顔を見せた。わずかに開かれた唇の隙間から、白い歯がきらりと光ったかのようにすら見えた。サナはイケダのこの笑顔を、心のなかでパーフェクトスマイルと勝手に呼んでいた。このパーフェクトスマイルには、部長の怒りすら鎮める不思議な力がある。

「そうなのぉ? さっすがイケダくん~。ありがとう。……ウルシマ、今度から気をつけろよ。今回はイケダくんのフォローがあったから良かったけど、彼は方方から期待されているんだ。お前の尻拭いをさせられるような立場にないんだよ!」

「はい……」

 今日の失敗を思い返しながら、食堂でぼんやりと食事をとっていると、「ここ、いいですか?」と向かいにイケダが座った。

「イケダくん、今日はありがとう……ううん、今日も、だね」

 サナより、3年後輩のイケダに助けられたのは今日が初めてではない。優秀な彼は、自分の仕事のみならず、他人の仕事もよく見ている。今日のようにサナの仕事のフォローをしても、けして自分の仕事を疎かにしない。部長の言う通り、方方から期待されているのは間違いない。

「いいんですよ。気にしないでください。それよりも、落ち込まないでくださいね。明らかに部長は言いすぎですから」

「……。私、この仕事に向いていないのかも。辞めようかな。……って、ごめんごめん、こんな話、後輩にしちゃだめだよね」

 こんなことを後輩に話してしまうなんて。サナは誤魔化すように、Bランチのチキンカツを口いっぱいに頬張った。

「辞めてどうするんですか? 結婚するつもりですか?」

「……」

 辞めてどうするのかと聞かれても困る。まだ何も決まっていない。イケダの問いに、サナは何も答えられなかった。何より、チキンカツで口の中がいっぱいだった。

 その日は、珍しくイケダが飲みに誘ってきた。断る理由はなかった。日頃のストレスもあるのか、サナはすでに一軒目でべろんべろんだった。

「も~う一軒、行こぉ~!」

 すっかり出来上がっているサナは、呂律が回らなくなっている。

「先輩、これ以上はやめておきましょう。それより、どこかで休みませんか?」

「休もう~休も~……そこで飲もう~……」

 サナはイケダの肩を借りて、なんとか歩けている状態だ。誰がどう見ても、これ以上酒を飲むのは愚かな行為だとわかった。わかっていないのは、サナ本人のみだ。

 くらくらする。頭が痛い。視界もぼんやりとしている。これは夢だろうか。あのイケダが裸だ。そして、サナの衣服を脱がそうとしている。

「なに……?」

「何でもありませんよ。先輩は休んでいてください」

 いつの間にか、サナも裸になっている。そして、イケダの細くて長い指が、サナの体のラインを確かめるように撫でている。

「夢……?」

 サナの言葉に驚いたイケダの動きが一瞬止まった。しかし、再び指を動かしはじめ、サナの胸をゆっくりと揉む。

「あ……ッ」

「そうです。これは全部……夢なんです」

「そう……だよ、ねッ、あぁ……」

 かなり酔っ払っているサナは、夢だと言われても納得できた。というか、夢ではないと困る。夢ではないとすると、後輩とホテルでヤッているということになってしまう。

 イケダがサナの胸の先端に舌で触れた。敏感な部分だ。少し触れられただけで、サナの体がビクンと跳ねた。

「あ……ああ……ん」

「これが好きなんですか?」

 そう言うと、イケダはサナの右の胸の敏感な先端をペロペロと舐め始めた。左の胸の方は、指で優しく擦る。

「ぁあッ、ああ……あんッ……」

 先端部分はぷっくりとし始め、サナの秘所からは愛液が溢れだした。

「ん……んあぁ……ああッ!」

 イケダが口に含んだ先端を甘噛みした。それだけで、サナの腰が跳ねる。サナは快感に耐えかねて、イケダを自分の身体から少しでも離そうとしたが、うまく行かない。イケダはというと、お構い無しで吸ったり舐めたりを続けている。

「はぁ……はぁ……イケダく……ん、ぁあッ」

 快感に飲まれながらも、抵抗しようと彼の名前を呼んでみるサナ。イケダはニコッと笑うと、乳房から顔を離し、唇を重ねてきた。舌が絡み合い、呼吸を奪われる。恋人のようなキスのせいで、これが夢ではなければいいのになどと考えてしまう。夢ではないと困るのに。

 唇は離されたが、二人の間を銀の糸が繋ぐ。

 あのイケダが自分に覆いかぶさり、幸せそうな表情を浮かべている。照れているのか、興奮しているのかは分からないが、頬は紅い。なんて自分に都合の良い夢なのだろう。

 サナがイケダに見惚れている間に、彼は自身のものを蜜壺に挿れた。

「はぁッ……ああ……だめ、おっきい……」

 強い圧迫感。苦しいくらいなのに、身体はその棒をぎゅっと掴んで離そうとしない。イケダが「動きますよ」とささやく。サナは首を横にふる。絶対無理だ。こんなにも苦しいのだから、抜くことすらできないかもしれない。

 サナの予想とは異なり、イケダは難なく動き始めた。彼女の腟内が愛液で十分に濡れていたから、イケダはサナが思っていたよりもずっと早く動いた。入り口の方まで引き抜かれたかと思うと、すぐに最奥まで突き上げられる。その激しい動きが、何度も繰り返される。

「ぁああッ! はぁ……あ、ん……激しッ、いッ……ぁああ、ん……あッ」

 イケダが動く度に、水気を含んだいやらしい音が立つ。男女の肉体がぶつかり合う音は一定のリズムで繰り返され、それに合わせて快感が体中を駆け巡る。

「あッ、あッ……ぁああぁ……ッは、うぅ……」

 イケダの背中にサナの爪が食い込む。現実なら、絶対にこんなことはしなかった。夢の中の彼は、その痛みを喜んでいるようだった。

 身体が串刺しにされ、脳天まで突き上げられているかのような感覚に陥る。全身が敏感になり、鳥肌が立つほど気持ちがいい。その後も、容赦のないピストンは小一時間ほど続いた。最後には、たっぷりと中に出された。恋人でもない男にそんなことをされても、特に気にならなかった。夢だと思っていたから、純粋に楽しめたし、幸福感しかなかった。

 翌日、サナが目を覚ますと、そこは自宅だった。窓から射し込む朝日が、顔面に直撃している。サナは唸りながら、布団で顔を覆う。

「いや……待って、今何時!?」

 慌てて枕元のスマホを確認する。よかった。まだ出社に間に合う。サナはベッドから這い出ると、支度を始めた。昨晩、どうやって帰ったのか全く思い出せなかったが、ちゃんとパジャマに着替えてから眠ったらしかった。

 出社すると、ニコニコの部長が話しかけてきた。

「いやぁ、めでたいね。イケダくんから聞いたよ。君、寿退社するんだって?」

「へ……?」

 困惑していると、パーフェクトスマイルを浮かべたイケダが会話に参加してきた。

「ええ、今朝も話しましたけど、部長、私達結婚するんです」

「ははは、めでたいねぇ」

 何が起こっているのか。わけがわからないまま、自席につく。まだ夢を見ているのかもしれない。ふと視線を感じ、顔をあげると、イケダがこちらを見ていた。

 その笑顔は、いつものパーフェクトスマイルではなく、昨晩夢で見たものにそっくりだった。