「ウルシマ~~! お前、またやりやがったな! 発注数、間違えているぞ!」
「えッ!?」
部長はカンカンだ。そんな彼の手には、サナがやらかした証拠が。ちらりと見えた発注数は、明らかに桁が多い。少なくとも、3つは多い。
「えッ!? じゃないんだよ!」
「す、すみません……」
サナは素早く頭を下げた。頭の上から「謝れば済む人はいいよねぇ……」という部長の鬱陶しげな声が聞こえてくる。
――そんな風に言わなくても。
視界が少しだけぼやけてきた。泣いてはいけない。泣いたって、事態が改善するわけではないのだから。
「部長、大丈夫ですよ。先方には発注数の修正について連絡済みです。課長の許可を得て、修正版の注文書を送付しました。先方から正しい数量の注文請け書も受領しました」
イケダはそう言うと、完璧な笑顔を見せた。わずかに開かれた唇の隙間から、白い歯がきらりと光ったかのようにすら見えた。サナはイケダのこの笑顔を、心のなかでパーフェクトスマイルと勝手に呼んでいた。このパーフェクトスマイルには、部長の怒りすら鎮める不思議な力がある。
「そうなのぉ? さっすがイケダくん~。ありがとう。……ウルシマ、今度から気をつけろよ。今回はイケダくんのフォローがあったから良かったけど、彼は方方から期待されているんだ。お前の尻拭いをさせられるような立場にないんだよ!」
「はい……」
「イケダくん、今日はありがとう……ううん、今日も、だね」
サナより、3年後輩のイケダに助けられたのは今日が初めてではない。優秀な彼は、自分の仕事のみならず、他人の仕事もよく見ている。今日のようにサナの仕事のフォローをしても、けして自分の仕事を疎かにしない。部長の言う通り、方方から期待されているのは間違いない。
「いいんですよ。気にしないでください。それよりも、落ち込まないでくださいね。明らかに部長は言いすぎですから」
「……。私、この仕事に向いていないのかも。辞めようかな。……って、ごめんごめん、こんな話、後輩にしちゃだめだよね」
こんなことを後輩に話してしまうなんて。サナは誤魔化すように、Bランチのチキンカツを口いっぱいに頬張った。
「辞めてどうするんですか? 結婚するつもりですか?」
「……」
辞めてどうするのかと聞かれても困る。まだ何も決まっていない。イケダの問いに、サナは何も答えられなかった。何より、チキンカツで口の中がいっぱいだった。
「も~う一軒、行こぉ~!」
すっかり出来上がっているサナは、呂律が回らなくなっている。
「先輩、これ以上はやめておきましょう。それより、どこかで休みませんか?」
「休もう~休も~……そこで飲もう~……」
サナはイケダの肩を借りて、なんとか歩けている状態だ。誰がどう見ても、これ以上酒を飲むのは愚かな行為だとわかった。わかっていないのは、サナ本人のみだ。
「なに……?」
「何でもありませんよ。先輩は休んでいてください」
いつの間にか、サナも裸になっている。そして、イケダの細くて長い指が、サナの体のラインを確かめるように撫でている。
「夢……?」
サナの言葉に驚いたイケダの動きが一瞬止まった。しかし、再び指を動かしはじめ、サナの胸をゆっくりと揉む。
「あ……ッ」
「そうです。これは全部……夢なんです」
「そう……だよ、ねッ、あぁ……」
かなり酔っ払っているサナは、夢だと言われても納得できた。というか、夢ではないと困る。夢ではないとすると、後輩とホテルでヤッているということになってしまう。
イケダがサナの胸の先端に舌で触れた。敏感な部分だ。少し触れられただけで、サナの体がビクンと跳ねた。
「あ……ああ……ん」
「これが好きなんですか?」
そう言うと、イケダはサナの右の胸の敏感な先端をペロペロと舐め始めた。左の胸の方は、指で優しく擦る。
「ぁあッ、ああ……あんッ……」
先端部分はぷっくりとし始め、サナの秘所からは愛液が溢れだした。
「ん……んあぁ……ああッ!」
イケダが口に含んだ先端を甘噛みした。それだけで、サナの腰が跳ねる。サナは快感に耐えかねて、イケダを自分の身体から少しでも離そうとしたが、うまく行かない。イケダはというと、お構い無しで吸ったり舐めたりを続けている。
「はぁ……はぁ……イケダく……ん、ぁあッ」
快感に飲まれながらも、抵抗しようと彼の名前を呼んでみるサナ。イケダはニコッと笑うと、乳房から顔を離し、唇を重ねてきた。舌が絡み合い、呼吸を奪われる。恋人のようなキスのせいで、これが夢ではなければいいのになどと考えてしまう。夢ではないと困るのに。
唇は離されたが、二人の間を銀の糸が繋ぐ。
あのイケダが自分に覆いかぶさり、幸せそうな表情を浮かべている。照れているのか、興奮しているのかは分からないが、頬は紅い。なんて自分に都合の良い夢なのだろう。
サナがイケダに見惚れている間に、彼は自身のものを蜜壺に挿れた。
「はぁッ……ああ……だめ、おっきい……」
強い圧迫感。苦しいくらいなのに、身体はその棒をぎゅっと掴んで離そうとしない。イケダが「動きますよ」とささやく。サナは首を横にふる。絶対無理だ。こんなにも苦しいのだから、抜くことすらできないかもしれない。
サナの予想とは異なり、イケダは難なく動き始めた。彼女の腟内が愛液で十分に濡れていたから、イケダはサナが思っていたよりもずっと早く動いた。入り口の方まで引き抜かれたかと思うと、すぐに最奥まで突き上げられる。その激しい動きが、何度も繰り返される。
「ぁああッ! はぁ……あ、ん……激しッ、いッ……ぁああ、ん……あッ」
イケダが動く度に、水気を含んだいやらしい音が立つ。男女の肉体がぶつかり合う音は一定のリズムで繰り返され、それに合わせて快感が体中を駆け巡る。
「あッ、あッ……ぁああぁ……ッは、うぅ……」
イケダの背中にサナの爪が食い込む。現実なら、絶対にこんなことはしなかった。夢の中の彼は、その痛みを喜んでいるようだった。
身体が串刺しにされ、脳天まで突き上げられているかのような感覚に陥る。全身が敏感になり、鳥肌が立つほど気持ちがいい。その後も、容赦のないピストンは小一時間ほど続いた。最後には、たっぷりと中に出された。恋人でもない男にそんなことをされても、特に気にならなかった。夢だと思っていたから、純粋に楽しめたし、幸福感しかなかった。
「いや……待って、今何時!?」
慌てて枕元のスマホを確認する。よかった。まだ出社に間に合う。サナはベッドから這い出ると、支度を始めた。昨晩、どうやって帰ったのか全く思い出せなかったが、ちゃんとパジャマに着替えてから眠ったらしかった。
「いやぁ、めでたいね。イケダくんから聞いたよ。君、寿退社するんだって?」
「へ……?」
困惑していると、パーフェクトスマイルを浮かべたイケダが会話に参加してきた。
「ええ、今朝も話しましたけど、部長、私達結婚するんです」
「ははは、めでたいねぇ」
何が起こっているのか。わけがわからないまま、自席につく。まだ夢を見ているのかもしれない。ふと視線を感じ、顔をあげると、イケダがこちらを見ていた。
その笑顔は、いつものパーフェクトスマイルではなく、昨晩夢で見たものにそっくりだった。