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王子さまを刺しなさい(GL/人外/触手/無理やり)

 ――海の底には、魔女が住んでいる。それはそれは美しいひとで、誰も近寄らない。

「海の魔女は邪悪で、醜い。ごらん、内面の醜悪さが、外見にあらわれているんだ」

 そういって、サナの父は海の魔女を指さした。

 海の魔女の肌は深い海よりも濃く、水光で艶めかしく輝いている。長く柔らかな黒髪は、水中を自由気ままに漂う。腰から下には、鈍い光を放つしなやかで太い触手が何本も生えている。

 ……サナがあまりにも海の魔女を見ていたせいだろう。彼女と目が合ってしまった。その瞬間、心臓を鷲掴みにされたかのように、胸がきゅっと苦しくなったが……海の魔女はすぐにサナから視線を逸らし、どこかへ行ってしまった。

 その後も、サナは海の魔女を何度も見かけた。そのたびに彼女を美しいと思ったし、話しかけたくなった。

 だが、どうしても勇気が出なかった。

 海の魔女は街から離れた城に一人で暮らしている。たまに用事で街に現れるようだが、必要以上に他人と関わろうとはしなかった。サナの視線に気が付いているようではあったが、見つめ返してくれることはなかった。

 ――海の底には、魔女が住んでいる。それはそれは美しいひとで、誰も近寄らない。

「海の魔女は邪悪で、醜い。ごらん、内面の醜悪さが、外見にあらわれているんだ」

 そういって、サナの父は海の魔女を指さした。

 海の魔女の肌は深い海よりも濃く、水光で艶めかしく輝いている。長く柔らかな黒髪は、水中を自由気ままに漂う。腰から下には、鈍い光を放つしなやかで太い触手が何本も生えている。

 ……サナがあまりにも海の魔女を見ていたせいだろう。彼女と目が合ってしまった。その瞬間、心臓を鷲掴みにされたかのように、胸がきゅっと苦しくなったが……海の魔女はすぐにサナから視線を逸らし、どこかへ行ってしまった。

 その後も、サナは海の魔女を何度も見かけた。そのたびに彼女を美しいと思ったし、話しかけたくなった。

 だが、どうしても勇気が出なかった。

 海の魔女は街から離れた城に一人で暮らしている。たまに用事で街に現れるようだが、必要以上に他人と関わろうとはしなかった。サナの視線に気が付いているようではあったが、見つめ返してくれることはなかった。

 ――私はお前になど興味がない。鬱陶しいから近寄るな。

 いつだって彼女は、そんな態度であった。

 それでも、淡い恋心を胸に秘めているサナは、海の魔女が現れるのをいつだって楽しみにしていた。

 だが、彼女が街へ来るたびに人々は騒がしくなった。皆、彼女を恐れ、蛇蝎のごとく嫌い、醜いと謗る。

 サナにはその理由がわからなかった。詳しく話を聞こうとしても、誰もが「海の魔女の話なんて、縁起が悪い」と話したがらなかった。

 そのうち、海の魔女は残酷な契約によって召し使いを得て、本人が街へやってくることもなくなってしまった。サナは、もう彼女の姿を見かける機会さえ失ったのだとばかり思っていたのだが……。

 ◆ ◆ ◆

「ラライが、馬鹿なことをした。人間になりたいなどという、愚かな願いを叶えるために……あの魔女と契約をしてしまったんだ。以前から、あの子が陸や人間に強い興味を持っていることはわかっていたが……まさかこんなことになろうとは」

 そういうと、父は深いため息を吐いた。

 ラライとは、サナの末の妹である。人魚の世界では、外見が人間に近ければ近いほど、美しいとされる。ラライは限りなく人間に近い見た目をしていた――下半身を除いて。

 おそらくラライは、海の魔女に人間の脚をもらいへ行ったのだろう。だが……その代償に何を差し出したのかまではわからない。

「あの子は人間の男に恋をしてしまったんだ。だから、どうしても地上へ行きたいと……。ああ、サナ。何とかあの子を連れ戻してくれないか。酷いことになる前に……」

 少しだけ、サナの胸が苦しくなった。想い人へ逢いに行くためだけに、妹はそこまでしたのか、と。けして自分にはできないことだ。

 そしてやはり、父は自分よりも美しい妹の方が大切なのだ、と……。

「お父さま、ご安心ください。何とかしますから……」

 こんな風に作り笑顔を浮かべるのは、もう何度目のことだろう。

 ◆ ◆ ◆

 サナは、海の魔女が住む、街はずれの古城へ向かった。

 誰も近寄らない、恐ろしい魔女の住み処であるはずのその場所は、海のどんな場所よりも美しかった。サナが暮らす海の王城よりも、ずっと。

 庭園はよく手入れされ、色とりどりの海藻や魔法の植物が揺れている。黒曜石に似た漆黒の石材で造られているその城は、陽光が当たるたび、小さな虹の泡を吐き出す。立派な主塔は、地上どころか天すら貫かんばかりであったが、その先端は紫がかった霧に包まれ、よく見えない。

 ……なんとなく、あそこが魔女の寝室なのだろうと思った。

 サナが庭に足を踏み入れると同時に、魔法植物の茂みの影から、腰がほとんど直角に曲がった枯れ木のような老人が現れた。執事服に身を包んだその老人は、どこからどう見ても人間だった。彼こそが、魔女の召し使いだろう。

 老人は曲がった腰をさらに倒して、深々と頭を下げた。

「これはこれは、姫君。本日はどのような御用で?」

 気の毒になるほどのしゃがれ声だ。顔をあげた老人の瞳は、なぜか水面を彷彿とさせた。

「その……先日、妹がここへ来ませんでしたか」

 老人は「ええ、ええ。いらっしゃいましたよ。二、三日前のことですかねぇ……ご主人さまの魔法で人間の脚を手に入れたら、彼女はすぐに陸へ向かわれましたよ」と、答えた。

「……。私も陸へ行きたいのです」

 サナの言葉に、老人の瞳が僅かに揺れた。だが、老人は笑顔を崩さず、「そうですか。では、ご主人さまのもとへご案内いたしましょう」といい、歩き出した。サナは老人の小さな背中を見つめながら、彼のあとに続いた。

 ◆ ◆ ◆

 サナが通されたのは魔女の城の謁見室……豪奢な玉座には、久方ぶりに見る、あの美しい魔女が座す。彼女は頬杖をつき、触手で器用にワインをグラスに注ぎながら、「それで、何の用だい?」とサナに尋ねた。初めて聞く彼女の声に、耳がくすぐったくなる。

「お初にお目にかかります。先日は……妹がお世話になりました。その……単刀直入に申しますと、私も陸へ行きたいのです。今日はそれをお願いしに来ました」

「おや、姉妹そろって陸へ行きたいだなんて、酔狂だこと。……ちなみに、陸へ何をしに行くんだい? お前も、人間の男に心を奪われたのかい?」

 魔女が妖艶に問いかけた瞬間、背後でがしゃんという音が聞こえた。振り返ると、老人が大慌てで割れた茶器を拾い集めていた。サナが手伝おうとすると、老人は首を横に振った。

「お客様にお手伝いいただくわけにはいきません。どうぞ、お気になさらず」

「でも……」

「私が、ご主人さまにお叱りを受けてしまいます」

 それでもサナが片づけを手伝おうか迷っていると、魔女が舌打ちをした。

「お姫さまは知らないのかもしれないけど、時間は有限なんだよ。私も暇人ではなくてね。用がないのなら、さっさと帰りなよ。それとも、どうして陸へ行きたいのか答える気になったかい?」

 サナは急いで魔女に向き直ると「陸へは……妹を連れ戻すために行きたいのです」と答えた。

 魔女は僅かに目を細める。

「ふうん、そうかい。妹のため、ねえ……それはご苦労なことだ。いいだろう、お前にも人間の脚をくれてやる。陸へ行って、妹を連れ帰ってくるがいいさ」

「あ、ありがとうございます……!」

「ただし……」

 魔女はどこからともなく取り出した煙管を咥え、魔法で火をつける。

「お前の声と、表情をもらうよ。いいね?」

 魔女の言葉を聞いた老人が「ご主人さま、この娘から二つも奪うなんてあんまりではありませんか! いつもなら……」と叫んだ。

「お黙り。……ねえ、お姫さま。お前の妹はね、私と馬鹿な賭けをしたんだよ。私のところへやってきて、自分の想いは必ず届くはずだなんて夢物語を延々と語ってね。面白いねえ、お前の妹は。……ちょっと挑発してから、面白い賭けを提案してやったら……簡単にのってきたよ。三日以内にあの娘が想い人とキスできるかどうかっていう……賭けだ。ふふ、ちゃあんとキスができれば、私が追加でひとつ、あの娘の願いを叶えてやる約束になっている。でも……もし、三日以内にあの娘が想い人とキスができなかった場合は……あの娘は泡になって消える。ああ、愉快だねえ」

 魔女は心の底から面白くて仕方がない様子で自分の腹を撫でながら、喉をくつくつと鳴らす。

「三日以内って……残りの時間は……?! 時間は、あとどれくらい残っているんですか?」

「二時間」

 魔女が、ふうっと白い煙草の煙を吐き出す。

「……いったい、どうすれば……」

 魔女がゆっくりと玉座から立ち上がる。灰色の触手が一本、サナのほうへ伸ばされる。ぬるりとしたそれが、サナの頬を撫でる。

「ふふふ……お姫さまも、私と賭けをしないか?」

 別の触手がサナに何かを手渡した。硬く冷たい何か……見ると、それは鞘に収められた短剣だった。

「これを使って、あの娘が惚れた男を刺しなさい。あの娘の王子さまをね……。そうしたら、お前の妹は泡にならずに済む。……簡単だろう、お姫さま」

「そんなこと……」

「できないのかい? 妹が泡になってしまっても構わないと? ……もし私だったら、見ず知らずの人間の男を刺すほうを選ぶけれど……お姫さまは、妹が消えてなくなる方がいいんだねえ」

「でも、他に方法は……」

「ないよ」

 残された時間はあと二時間。サナに選択肢はない。

 魔女がにやりと笑った。

 ◆ ◆ ◆

 表情を奪われたサナの顔は、不安の色が滲むことすらない。声も奪われた彼女からは、嘆きの言葉ひとつ、零れやしない。

 唯一の救いは、哀れな魔女の召し使い――あの老人が一緒に陸へ来てくれたことだろう。老人が用意してくれたドレスと呼ばれるものに身を包み、慣れない人間の脚でぎこちなく歩くサナを、彼はそっと支えてくれた。サナよりも小さく、すっかり腰も曲がっているというのに、老人の歩みは力強い。

 ……この心優しい老人に感謝の言葉を伝えたいと思っても、叶わない。

 サナの考えを読んだかのように、老人は柔和な笑みを浮かべた。

「……足元にお気をつけて。問題はあなたの妹君が見つかるか、ですが……」

 意外にも、ラライはすぐに見つかった。彼女は岩場に腰をかけ、海を見つめていた。ずっと泣き続けているのだろう。頬は涙で濡れ、目は腫れあがっている。

 サナが彼女の肩にそっと触れると、振り返ったラライは目を見開いた。ラライも声を奪われているから言葉を発することはできないが、サナを強く抱きしめた。サナの脚と、海の魔女の召し使いの老人を見て、大体の状況は理解したらしい。

「あなたの王子さまは……」

 老人のかすれた声に、ラライは首を横に振った。そして、サナにくしゃくしゃになった紙を手渡す。広げてみると、それは新聞の記事だった。

『セイン王子、依然として行方知れず』

 ラライの想い人とは、人間の国の王子だったようだ。新聞の記事には、セイン王子がもう一週間も行方不明なのだと書いてあった。

 ――どうしよう。それじゃ、ラライは……。

 ラライは泣き続けている。何かを伝えようと口をぱくぱくと動かすが、当然、言葉にはならない。

「……サナさま、私を刺してください」

 老人がぼそりと言った。わけがわからず、サナは首を傾げた。ラライも驚いたようで、ぴたりと泣き止んだ。

「私が……セイン王子です。人魚の姫君に心を奪われた、哀れな男です。ラライさま……船上からあなたを見たとき、私はあなたの虜になってしまいました。砂浜であなたにまた会えたらと考えていたとき……あの魔女が来たのです。私に優しく声をかけ、私の話に耳を傾けてくれました。そして、彼女はこんな提案をしてきたのです」

 ――ああ、何て美しい。それは間違いなく、真実の愛だね。私なら、おまえを海中に連れていけるよ。私で良ければ、力を貸すよ。愛し合う二人が別々の世界で暮らしているなんて、こんな悲しいことはないからね。……でも、この魔法は難しい魔法だ。だから、代償が必要なんだよ。海中で暮らせる身体にしてやる代わりに、若さをもらうことになる。それでもいいかい……?

「自分がどんな姿になっても、ラライさまにまた会えるならそれで構わないと思ったのです。それに……あの恐ろしい女を”いい人”だなんて思ってしまった。若さを奪われるという意味を、ちっとも理解していなかったんです。……あの厭な魔女と契約した私は、老人となり、奴隷のような扱いを受けました。それでも良かったのです。ラライさまと同じ世界に居られるだけで幸せでした。ラライさまが人間になりたいと魔女を訪ねてくるまでは……」

 老人の瞳から、大粒の涙が零れた。

「ラライさまも私を想ってくれていると知って、どれほど嬉しかったことか。……そして、心のどこかで、こんな老人の姿になったとしても……ラライさまは、私に気が付いてくれるのではないか……そんな淡い期待を抱きました。……どうかしていました。わかるはずもないのに。……魔女が恐ろしくて仕方がない私は、ラライさまをお助けできなかった。だから……どうぞ、遠慮なく、刺してください」

 ラライは首を横に何度も振り、口を大きく動かし、何かを主張している。

 ――あなたがセイン王子なら、今、キスをすれば……。

 そう言っているような気がした。老人は悲しそうに笑った。

「私は魔女の奴隷です。魔女の所有物なんです。服や手袋の上からなら大丈夫ですが……他人に触れられないのです。触れられることもできない。試してみるといい」

 ラライの瞳が揺れる。彼女は震える手で、セイン王子の頬を撫でようとしたが……小さな光が生じ、それを阻む。ラライは何度も彼に触れようとしたが……触れられなかった。

「恐ろしい魔女なんですよ。全部わかっていて、ラライさまに賭けを持ちかけたんです。……絶対にあなたが勝てない賭けをね。……サナさま、早く私をその短剣で刺してください。ラライさまのために」

 サナは短剣を鞘から抜いた。

 ――この人を刺さないと。そうしないと、ラライは……。

 セイン王子に短剣を向けたとき、彼の前にラライが躍り出た。涙をぼろぼろと零しながら、彼女は大きく、何度も何度も首を横に振る。

 ――どいて、ラライ……。

 妹の目をまっすぐに見つめ、そう訴えるが、ラライは退かない。悲しみは言葉にならず、表情にも現れない。だが、無表情のサナの頬を、涙が滑り落ちていく。

「ラライさま……二人とも……いいえ、三人とも、あの魔女との賭けに負けてしまいましたね」

 ラライとセイン王子が泡となって消えていく。その魂が天へ召されたかどうかは、わからない。

 サナは使い道のなくなった短剣を握ったまま、一人、海を見つめていた。

 ――ラライを救えなかった。父に、何と言おう。

 サナから話を聞いたあの男は、きっとこう言うだろう。

「お前が代わりに泡になればよかったのに」

 ――だって、お父さまはいつも……。ああ、もう私が帰る場所なんてどこにもないんだ。いっそこのまま、人間として陸で暮らそうか。

 人間のルールなんて知らないし、話すこともできない、にこりともしない女。そんな女が陸で暮らすのは簡単なことではないだろう。けれど、父のいる海へ帰るよりはずっとましだ。あるいは……。

 サナはそっと短剣の刃を自身の首にあてた。このまま搔っ切って、何もかも終わらせてしまおうか。

 ラライを……妹を愛していた。その妹を失ったというのに、父がどう思うか、何を言ってくるかばかりが気になってしまう自分に嫌気がさした。こんな自分には、海へ帰る権利も、陸で暮らす権利もないような気がしてきた。

 涙はもうずっと止まらない。けれど、この涙が妹を失った悲しみによるものなのか、救えなかったという後悔によるものなのかはわからない。……もしくは、父に怒られたくない、嫌われたくないという子どもじみたそれなのか。

 ――ごめんなさい。

 心の中で、誰にも届かない謝罪の言葉を呟く。

 指先が震える。こんなことをしたいわけではないけれど、他にどうしたらいいかわからない。

 サナが短剣を持つ手に力を込めた瞬間……。

「それを返してもらおうか、お姫さま」

 海の魔女が指を鳴らすと、サナの手の中にあったナイフが泡となって消えた。

「ふふふ……私の一人勝ちだねえ。まあ、最初からこうなることはわかっていたけど。でも、お姫さまには謝らないといけないね。ずいぶん急いでいるようだったから、賭けについて説明するのを忘れていたからさ」

 サナは首を横に振った。確かに、魔女と契約はしたが、賭けをした記憶はない。

「だから言ったろ。説明するのを忘れてしまったって。こういう賭けだったんだよ。お姫さまがセイン王子を刺せたら、お姫さまの勝ち。妹どころか、セイン王子も泡にならず、それどころか二人で仲良く暮らせて、めでたしめでたしだったんだ

よ? でも、お姫さまがセイン王子を刺せなかったから……私の勝ち」

 海の魔女の触手がサナの頬を撫でる。けして色づくことはなくなった頬を温かな涙が伝っていった。

 ◆ ◆ ◆

 海の魔女はサナを、あの美しい城の、霧に包まれた主塔の最上階にある寝室へ魔法を使って一瞬で連れて行ってしまった。光沢のある黒のシーツが敷かれたベッドにサナを放り投げると、老いた召し使いもとい――セイン王子が用意してくれた衣服を器用に脱がしていく。

 一糸纏わぬ姿となったサナの滑らかな肌を、海の魔女の触手が這う。

「ずっと……お前の視線を感じていたよ、サナ。てっきり、お前は私に気があるものだと思っていた。けれど……お前はけして私に声をかけようとはしなかった。結局、他のやつらと同じだったんだ。私を……私を……醜くて邪悪な魔女だと思っているんだろう!」

 海の魔女は瞳を潤ませ、肩を震わせている。その顔には、怒りと悲しみが入り混じる。

 ――そんなことはない、私はずっと……。

 伝えたい言葉があっても、もうサナはそれを口にできない。海の魔女に微笑みかけて安心させてやりたいと思っても、表情を失ったサナには叶わない願いなのだ。

「お前の声と表情を奪ってよかったよ。私を拒絶する言葉も、罵る言葉も発せない。嫌悪感に満ちた表情を私に向けることもできない……ふふ、ふふふ……」

 サナの瞳から大粒の涙が零れ落ちる。それを海の魔女は長い舌で舐めとった。

「ふふ……怖いかい、お姫さま。可哀想に……。でも、もうお前は私のもの。永遠に、私のもの……」

 海の魔女の触手が、サナの乳房を優しく揉み上げる。海の魔女は「どこにも行かせない、もう誰にも会わせてやらない……」と低く囁きながら、サナの首筋に幾度も口づけを降らせる。時折、海の魔女はサナの肌を強く吸い、赤い痕を残していく。

 海の魔女の触手がサナの肉芽に触れた瞬間、彼女の身体が震えた。触手についた吸盤で肉芽を吸い上げられ、サナが身体をよじる様子を、海の魔女は鈍く光る目を細めて見ている。

「~~~ッ!」

 声にならない音が、サナの喉から漏れる。

「ふふふ……可愛い」

 別の触手が、サナの蜜壺にずぶりと挿し込まれる。

「――――ッ!!」

 サナの身体が大きく跳ねる。海の魔女は肉芽を責め続けながらも、身体の内側を調べつくすかのように触手を動かす。蜜壺からは淫靡な水音が立ち、かき混ぜられて泡立った愛液が溢れ出ている。

 やがて、サナは背中をのけぞらせながら、達してしまった。

 海の魔女は呪いめいた愛の言葉を囁きながら、サナの内側と外側を擦りあげる。

 サナはもう何度達してしまったか、わからない。

 頭がぼうっとして、身体にも力が入らない。サナはいつの間にか、眠るように気を失ってしまった。

 ◆ ◆ ◆

 目覚めたとき、サナは海の魔女の腕の中だった。しっかりと抱きしめられ、身動きすら取れない。

 ――私は、逃げるつもりなんてないのに。だって……。

 サナはそっと海の魔女の頬に口づけた。

 ――あなたを愛している。

 海の魔女の腕の中、サナはゆっくりと目を閉じる。そして、もし、自分が勇気を出して海の魔女に声をかけていたら、今頃、どうなっていただろうと、考えても仕方のないことに思いを馳せる。

 ――やっぱり、全部私のせいなんだろうな。

 海の底には魔女が住んでいる。それはそれは美しい人で、物言わぬ女をその腕に常に抱く……とても恐ろしい魔女が。