同僚のイヌカイとデートをするのは、これで6回目だ。いつも、食事して終わり。その後、飲みに行こうとか、家に来ないかと言った話にはならない。今日なんて、まだ日が落ちていないのに解散だ。
「ねえ、帰りたくないよ!」
「困ったな……」
イヌカイの気持ちがさっぱり分からない。ちゃんと付き合っているわけでは無いし、身体の関係も無い。それなのに、デートには誘ってくる。
「イヌカイさんの家、行きたい」
「今日は、ダメなんだ」
「どうして!?」
思わず大きな声を出してしまった。一瞬、周囲の人たちがサナとイヌカイに注目した。恥ずかしさと、イヌカイに拒絶された悲しさでサナは俯いた。
「その……そんなに来たいなら、俺の家に行こうか」
そして、二人はイヌカイの家へ向かった。イヌカイがキッチンに飲み物を取りに行っている隙に、サナはソファに身体を横たえると、眠ったふりを始めた。こうしてしまえば、帰らなくてすむ。イヌカイともっと一緒に居られる……。
だが、サナはイヌカイが戻ってくる前に、本当に眠ってしまった。
目が覚めると、イヌカイの姿が無い。電気はついておらず、窓から漏れる月や町の光がわずかに部屋を明るくしていた。サナはふらふらと立ち上がると、イヌカイを探した。一人暮らし用の物件である。それほど広くは無い。イヌカイが居ると思われる部屋はすぐに見つかった。鍵がかけられていて、中から彼のうめき声が聞こえる。
「ねえ、大丈夫? どうしたの?」
返答は無い。部屋からはうめき声だけが聞こえてくる。とても苦しそうだ。救急車を呼ぶべきか迷う。
「大丈夫だよ……」
いつものイヌカイからは想像もできないほどの弱々しい声だった。そんな声で大丈夫だよと言われても、ますます心配になる。
「ねえ、ここ、開けて……」
「だめだ……。もう君は、帰ってくれ……」
苦しそうだ。こんな状態の彼を置いて帰るつもりにはなれなかった。サナは「帰らないよ。ここを開けて。心配なの」と呟いた。
返事は無い。声が小さくて、聞こえなかったのかもしれない。
「イヌカイさ……」
もう一度声をかけようとしたとき、乱暴にドアが開け放たれた。現れたのは、見慣れたイヌカイではなく、イヌカイの服を着た何かだった。漫画や映画に出てくる狼男にそっくりな生き物が、目の前に立っている。何に興奮しているのか、肩で息をしながら、耳まで裂けた口元からだらだらと涎を垂らしている。
「グルルルル……」
顔を背けたくなるほどの獣のにおい。たとえ、目の前に居るものの正体がイヌカイだとしても、今は逃げた方が良さそうだ。唇の隙間から覗くあの尖った歯は、獲物の腹を割き、肉を食い千切るためのものだ。
サナは怪物と目を合わせたまま、ゆっくりと後ずさる。廊下に出るためのドアのノブを手探りで探すと、怪物を刺激しないようにできるだけ静かに回す。はあはあ、はっ……。
怪物の呼吸は相変わらず荒い。今にも飛びかかってきそうだ。ドアをゆっくりと押そうとするが、びくともしない。何かが引っかかっているようだ。サナは一瞬、怪物から目を離してしまった。
怪物がそれを見逃すはずも無い。怪物の大きな手が、サナの胸ぐらを掴み、そのまま軽々と持ち上げると、ソファの上に投げた。
「わ……」
怪物が、仰向けにソファで横たわるサナに覆い被さる。
「イヌカイさん……だよね、落ち着いて……」
怪物が濡れた生暖かい舌で、味見でもするようにサナの頬をべろりと舐めた。言葉は通じないようだった。サナには刺激しないよう、おとなしくしておくことしかできなかった。
サナが抵抗しないことを良いことに、怪物もといイヌカイは、力任せに彼女の衣服を引きちぎった。派手な勝負下着が露わになる。この高級ランジェリーまで引きちぎられたらたまったものでは無い。サナは慌てて下着を脱いだ。その姿を、イヌカイは舌なめずりしながら黙って眺めていた。「ひゃっ……」
サナが一糸纏わぬ姿になると、イヌカイはサナの首元をぺろぺろと舐め始めた。くすぐったい。イヌカイはサナの体中を舐め始めるつもりらしかった。首元から、鎖骨、胸……。胸を舐められると、今までとは違う感覚に襲われる。
「ん……はあ……」
こんな状況だというのに、身体は感じてしまう。イヌカイとこういう関係になることを望んではいたが……。
「ちょっと……!」
いつの間にか、イヌカイがサナの股に頭を突っ込んでいた。しきりに匂いを嗅いでいる。イヌカイがどうして怪物のような姿になってしまったのかは見当もつかないが、彼は元の人間の姿に戻るのだろうか。戻ったとき、怪物だった時の記憶はあるのだろうか。
サナは抵抗もできず、自分の顔を覆うことしかできなかった。イヌカイの息が、秘所に当たる。太股に触れる体毛が、むずむずする。一秒でも早くイヌカイが元の彼に戻ってくれれば良いのだが。「い゛ッ!?」
先ほどまで匂いを嗅いでいたはずのイヌカイが、我慢できなくなったのか、パンパンに膨張した自身をサナにねじ込んだ。
「あっ……あ゛……」
人間とは比べものにならないほどの力で、腰を打ち付ける。陽物が蜜壺の一番奥に力強く食い込まされたかと思うと、強い力で引き抜かれる。その際に、雁首の〝かえし〟が激しく肉壁を擦りあげる。
「い゛ぐッ、あああ゛ーーーーッ」
サナは獣よりも獣らしく吠え、達した。その様をイヌカイが満足そうに見下ろしている。イヌカイが犬のように舌を出して息をしていると、口がさらに横に広がり、まるで笑っているように見えた。「ぁあ゛ッ、ん…………ふ……あっ、あ……」
イヌカイは止まらない。ずっと一定のリズムで腰を振り続けている。サナは快感に耐えるように、イヌカイの背中にしがみつくように抱きついた。イヌカイは犬のように喉を鳴らしている。その後、イヌカイは30分ほど腰を振り続け、いつの間にか失神したサナの中に白濁とした欲を存分に吐き出した。
朝、サナが目を覚ますと、そこはベットの中だった。ベットから身体を起こし、立ち上がろうとしたが、昨日の影響か足腰に思うように力が入らなかった。仕方なく、サナは再びベットに横になった。
少しして、イヌカイがやってきた。彼は昨夜のことについて謝罪の言葉を述べると、自分は人狼の家系なのだと話し始めた。
「うちはみんなそうなんだ。月の見える夜は必ずああなる」
子供の頃、家族で住んでいたときは互いに傷つけないようにと、夜はそれぞれ部屋に鍵をかけて過ごしていたという。
「こんなことを言うと嫌われるかもしれないけど、昨日は最高だった」
「うん……」
イヌカイは夕べのように口を横に広げて笑い、「今日も泊まる?」と言った。