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うちの執事は悪い子で(NL)

カタラーナ様のリクエスト作品です。リクエストありがとうございました!


 建国の精霊への感謝の意を表する祭りが近いこの時期は、国中の誰もが忙しく過ごしている。もちろん、サナも例外ではない。高位の貴族ではないし、領地は小さいが、大切な領民たちがいる。

 祭りは各地で行われる。王命であるから、当然、サナの領地でも祭りを行わねばならない。しかし……。

「高い……」

 商会のカタログを眺めながら、サナは独り言ちた。例年のことだが、同日に国中で祭りが開催されるせいで、酒や砂糖などの価格がひどく高騰する。祭りでは、精霊が好んだという酒と菓子が振る舞われる決まりになっている。

 サナは溜め息を吐いた。どうにもならないことに頭を悩ませても仕方がない。

「少し、休憩にしましょう……」

 サナは机の端に置かれたベルを鳴らした。

 少しすると、扉がノックされ、サナの返事を待たずにドアが開かれ、顔をしかめる執事……ロジェが入ってきた。

「サナさま、こんな時間に呼びつけるなんて、さすがは”大領主さま”。ですが……夜更かしは美容の大敵では? 睡眠時間を削ると、太りやすくもなるそうですよ」

 ロジェは嘲るような微笑みを浮かべながら、サナを見下ろす。

「……うるさいわね。いいから、お茶を淹れてくれない?」

「嫌です」

 ロジェはそういうと、サナの机に腰かけ、脚を組む。先の戦争で脚を怪我したという彼は、立っているのが辛いらしい。

「お疲れでしょう? 続きは明日にすればいい。今夜は眠ってください」

「ロジェ……ありが」

「いつまでも起きていられると、迷惑なんですよね。私も眠りたいので」

「……」

 サナはカタログを閉じ、インク瓶の蓋を閉めると「わかった、眠る」と言った。

 ◆ ◆ ◆

 サナがベッドに潜り込むと、ロジェは蝋燭の火をそっと消した。暗い部屋の中、ロジェも自分の寝室へ行くのだろう、扉の閉じる音が聞こえた。

 サナは何度か寝返りをうったあと、「眠れない……」と呟いた。

「羊を数えましょうか?」

 部屋を出て行ったはずの執事の声がすぐそばで聞こえた。サナは驚き、奇妙な悲鳴をあげた。部屋が暗すぎて、彼がどこにいるのかまではわからない。

「ロジェ、どうしてまだ部屋にいるの……出て行ったんじゃなかったの?」

「おや。私、出て行くなんて言いましたっけ。先ほど、換気のために扉を開けはしましたが」

「……」

 この男はいつもこうだ。嫌味を言うし、昔から……サナの命令を聞こうとしない。そのくせ、誰よりも傍に居ようとする。……常に。

「失礼します」

 ロジェはベッドに身体を沈め、静かにサナに覆いかぶさる。

「あなたは……いつも、命令を聞かないわね。いつか、痛い目に遭うわよ」

「それならすでに……いえ、黙ってください」

 彼の唇が、サナの唇を塞ぐ。ロジェは、ベッドの上でも、それ以外の場所でも……好き勝手に振る舞う。この屋敷の主は自分だというような態度こそ見せないものの、サナすら好きに扱う。

(それを許している私も私ね……)

 この厚い胸板を押し返してみたら、この男はどんな反応をするのだろう。きっと、「興が冷めました」などと抜かして、この屋敷の別の場所へ……メイドの部屋にでも行ってしまうのだろう。起こってすらいないことを想像して、胸が苦しくなる。

 唇がゆっくりと離される。彼は、サナの頬を指先で撫でながら、首筋に唇をつけたまま、低く囁く。

「何を考えているんですか?」

 彼が言葉を発するたびに、吐息が首筋にあたり、ぞわりとする。

「……何も」

「嘘はやめてください。仕事のことですか? それとも、別の男のことですか? 私とこうしていながら、上の空だなんて……気に入らない」

「何でもないってば」

「そうですか。話すつもりがないのなら、ずっと黙っていればいい」

 再び、唇が塞がれる。サナの口内で探し物でもしているかのように、舌がゆっくりと粘膜を撫でる。互いの息を奪い、与えあう口づけを続ける。ネグリジェの裾が持ち上げられ、下着の中に指が滑り込んでくる。指は中心を避け、焦らすように触れる。それだけで、蜜が太ももまで濡らしていく。

 シーツが擦れる音、互いの熱い吐息……何もかもが夜に溶けていってしまう中、ロジェの雄の部分が秘所にあてがわれ、そのまま沈められていく。彼の身体が重く、強く、サナを押さえつけ、内側を押し広げ、味わい尽くしたいとでも言うかのごとく、奥深くまで満たす。

 容赦なく打ち込まれている間、言葉を交わすことはない。互いの唇が言葉を奪ったまま、快感に身を委ねていく。貫かれるたび、息をのむような声が、サナの喉の奥で鳴る。肉の剣が動くたび、下腹部から全身へと甘い痺れが響いていく。

 どれくらい律動を受け止め続けただろう。サナの身体はぴくぴくと震え、ロジェの腰に絡ませていたはずの脚も、いつの間にかだらしなく投げ出されている。

 ロジェは目を少しだけ細め、満足そうに微笑むと、熱いものを流し込んだ。

 ◆ ◆ ◆

 静かに閉じられた瞼に軽くキスをして、優しく髪を撫でる。汗ばんだ額を拭いてやりながら、少しだけ抱き寄せる。

「サナさま、おやすみなさい」

 先の戦での功績が認められ、サナ・ウルシマに領地が与えられたと聞いたときは、素直に嬉しかった。

 サナさまは……ウルシマ隊長は、私の所属する隊を率いていた。

 今、思い出しても恥ずかしくなってしまう。あの頃の私は、手柄を挙げることしか頭になかった。隊長の命令を無視して、まんまと敵に捕まり、拷問を受けた。一兵卒が、重要な情報を握っているはずもないのに、あいつらは私を痛めつけ続けた。あの狭い牢の中で、私は悪魔どもに囲まれ、いたぶられながら、ただ……死を待っていた。

 だから、ウルシマ隊長が私を助けにきてくれたとき、彼女が女神に見えた。救出された私の怪我はほとんど回復したが、脚だけはダメだった。日常生活には支障がないが、二度と馬には乗れない。私は、軍を去った。

 そして、サナさまが使用人を募集していることを知り、すぐに応募した。幸い、元部下であることは気が付かれていない。私のような一兵卒のことなど、覚えていなくていい。

 ただ、傍らにいたい。

 わがままを言えば、いつか……サナさまに「あなたがいい」とその美しい声が枯れるまで、言って欲しい。