ななし様のリクエスト作品です。リクエストありがとうございました!
日差しが強くなり、嫌になるほど暑くなってきたころ、魔法学園の休暇が始まった。休暇中は、在学しているほとんどの者たちが、種族を問わず帰郷する。しかし、サナには帰る家がないため、すっかり静かになってしまった寮で過ごしていた。教授たちの何人かは学園に残るし、完全に一人きりというわけでもないのだが、寂しくないと言えば嘘になる。例年通り、今年も寮で過ごすことにした。
サナがラウンジでソファに身体を沈めて本を読んでいると、教授の一人がやってきた。
「ミス・ウルシマ、すまないが買い出しに行ってもらえないかな。アマガエルを五匹買ってきて欲しいんだ」
サナはちらりと教授を見てから「ご自分で行かれたらどうです? ……というか、アマガエルに何するつもりですか……? まさか、また前みたいに……」と言うと、彼は慌てて首を横に振った。
「人聞きの悪いことを言わないでくれ! あれもこれもすべては研究のためで……! ……ぐぬぬ。とにかく! 私は忙しいんだよ。ほら、さっさと行きたまえ!!」
教授はそう叫んだかと思うと、杖を一振り。サナは街の入り口まで魔法で飛ばされてしまった。先ほどまで読んでいた本はどこにもなく、代わりにお金の入った袋を持たされていた。中をちらりと確認する。カエル代以上の金額が入っている。お駄賃ということだろう。サナは「やれやれ」と呟くと、街の入り口にある木と魔法でできたアーチをくぐった。
◆ ◆ ◆
賑やかな街の中、サナはまっすぐに馴染みの魔法使い御用達の店へ向かおうとしたが……。
「だから、金貨なんて使えねえんだって! あんたみたいなお坊ちゃんはこんな露店じゃなくて、高級な……なんか知らねえけど、そういうお似合いの店で買い物してくれよ」
いつも感じのいいフルーツジュースを売っている露店の店主が、心底困った表情を浮かべながら、頭を搔いている。彼と話しているのは……褐色の肌に、滑らかな銀色の髪。一目でこの国の人間ではないとわかる。身に着けている衣服も――この国の常識からすれば、彼のそれは衣服というより、腰布だが――異国のものだ。腕や足首には黄金の輪が輝いている。店主の言うように、相当な”お坊ちゃん”であることは間違いなさそうだ。店主の言葉を聞いて、異国の男は不思議そうに首を傾げた。
「……? 金貨一枚じゃ足りないのか? なら……」
そういって、異国の男は懐から重そうな袋を取り出した。おそらく、中には金貨が詰まっているのだろう。店主は慌てて異国の男の手を掴んで、その袋を再びしまうように促す。
「おま……馬鹿……ッ、そんなもの、さっさとしまえ! ちっげーーーよ!! 足りないんじゃないんだよ、多すぎるんだ! そんなお釣り……この辺の店じゃ、どこも持ってねーよ!!」
慌てふためく店主を、異国の男は大きな目をパチクリさせながら「それなら、釣りを渡さなければいいじゃないか。ほら……」などと宣う。
「はぁ~~!? 滅多なことを言うんじゃねえよ! ただのパインジュースに金貨なんて受け取れるか!」
店主はイラつき始めたのか、地団駄を踏んでいる。見かねたサナは、教授から渡された袋の中から、銅貨を取り出すと店主に渡した。
「私が払うわ」
……厳密には教授からもらったお駄賃だけれど。
店主は「それはそれで困るな……お嬢ちゃん、こいつの知り合いじゃないだろ……」と胸の前で腕を組んで唸る。
「いいの、いいの。おつかいのお駄賃にもらったお金だし……この人、どうみても他所から来た人でしょ。それに……酷い世間知らずみたいだし」
店主は渋々、サナからお金を受け取ると、慣れた手つきでパイナップルを小さなナイフで切り、魔法ミキサーの中に入れていく。
「……いいのか? 俺を助ける義理など、ないだろう」
異国の男が驚いた様子で尋ねてくる。この男を助けたというよりは、厳密には店主を助けたようなものだが、サナは少し得意な気持ちになって「あなた、余所者でしょ? 旅行とかで来てるんじゃないの? 私、この国が好きなのよ。外から来たお客さんには、どうせなら楽しんでもらいたいし」と微笑んだ。
「……そうか。ありがとう」
そういうと、彼はサナの手をとり、キスを落とした。柔らかな唇が手の甲に触れた瞬間、サナの肩がぴくりと揺れた。その様子を見ていた店主が目を見開き「な……お前、何やってんだよ……! この国には、感謝の意を表すとき、手の甲にキスする習慣はねえぞ!」と叫んだ。
男はきょとんとした表情で「そうなのか? 俺の国にもないんだ」という。その言葉に、サナは思わず笑ってしまった。
「ははは……何それ。じゃあ、なんで手の甲にキスなんか……」
男がふいに距離をつめてきたかと思うと、耳元で「……したかったから。嫌だったか?」と熱っぽく囁く。サナの頬が紅色に染まる。……それを見ていただけの店主の顔まで真っ赤だ。
「おおおお俺の店の前でいちゃつくんじゃねえよ! ほら、これ持ってとっとと失せろ! 一杯は、俺からのおごりだ! ほら、行けよ!」
そう言って、店主は二人に一杯ずつパインジュースを手渡した。
◆ ◆ ◆
男とサナはパインジュースを飲みながら、噴水広場のベンチに並んで腰を下ろしていた。
「そういえば……旅行中……だよね? どうしてこの国に? どこか案内しようか?」
男は僅かに微笑み、「実は……仕事で来たんだ」と短く答えた。どんな仕事をしているのか、気にならないわけではなかった。だが、男は黙ってしまった。もしかすると、詮索されたくないのかもしれない。
……それにしても、目のやり場に困る格好だ。男の上半身を飾るのは、金製の宝飾品のみ。鍛えられた肉体は露わになっている。道行く人々が、彼の格好に驚き、顔を紅潮させながらも、目を逸らせずにいる。そのとき、パインジュースのカップについた水滴が一滴、たらりと彼の腹筋に垂れた。思わず、ごくりと喉が鳴る。
まずい。このままだと、変な気を起こしそうだ。サナはパインジュースを飲み干した。ベンチから立ち上がり、空になったカップをゴミ箱に捨てる。ベンチの男に向き直ると「じゃあ、私はもう行くね」とサナは言った。そんな彼女の腕を、男は優しく、けれど逃がさないように掴むと「もう少しだけ、いいだろう……?」と微笑んだ。
◆ ◆ ◆
賑やかな市場や噴水広場から少し離れた路地裏。そこでは甘ったるい静寂が流れていた。サナは男に身体を壁に押し付けられたまま、唇を重ねていた。遠くで、商人たちの活気のある声がする。
額がこつんとあてられ、小さな口づけが繰り返される。男は、サナの体温や吐息を味わうかのように、唇で吸いつき、甘い音を立てる。キスの合間に耳を舐め、首筋をそっと吸う。彼はサナの太ももや腰を優しく撫でながら、熱を帯びた眼差しで欲望を訴えてくる。
「……いいのか?」
男は低く、耳元で尋ねる。気が付けば、二人とも人が来ない場所を探していた。そして、路地裏に着くなり、どちらからともなく唇を重ねていた。……この男が欲しい。断る理由はなかった。サナが静かに頷くと、男はサナのスカートの内側に手を滑り込ませた。
すでに下着が濡れていることに気が付くと、男は僅かに口角を上げた。彼はサナの片脚を抱え上げると、彼女の下着をそっとずらした。すでに硬く脈打つ己をとりだすと、男はその先端をサナの入り口に押し当てる。
「はぁっ……ん……」
入り口を押し広げ、先端部がぬるりと入った瞬間、男は小さく呻いた。そのままゆっくりと、サナの奥まで、男の雄の部分が押し込まれていく。身体の芯から蕩けてしまうような快感に、サナは息を荒くする。
「く……すぐに出してしまいそうだ……」
男は自嘲気味にそう笑うと、貪るようなキスをしながら、腰をゆっくりと動かし始めた。熱く、硬い肉棒がサナを何度も突き上げる。男の腰の動きはどんどん激しさを増していく。ぱん、ぱんという肌と肌のぶつかり合う音が、路地裏に響く。
「んん……あ、ぁう……あっ、ああ……」
サナは声を抑えながら、密かに絶頂を迎えていた。その瞬間、わずかに奥がきゅっと締まる。それに気が付いた男は、満足そうに微笑みながら、腰の動きを速く、深くした。
「……俺もイく……っ」
重ねられた唇が震え、腰が跳ね……サナの蜜壺の中で肉棒がびくんとしたかと思うと、奥に熱いものが放たれた。
◆ ◆ ◆
あの後は、特に何もなく――男は「この国には、また仕事で来る。……会いに来るよ」という言葉を残して、行ってしまった。どうやら、忙しい男らしい。サナはというと、魔法学園に戻る寸前におつかいのことを思い出し、アマガエル五匹を購入した。
「ずいぶん遅かったじゃないか。心配していたんだよ」
言葉でこそ教授はそんなことを言ったが、彼の目はすでにアマガエルに釘付けだった。
◆ ◆ ◆
夏の休暇も終わり、慌ただしく日々を過ごしているうちに、男のことなど少しずつ忘れていった。月経がしばらく来ていないと気が付いたのは、冬の休暇が始まるころだった。教授に魔法で診てもらうと、お腹の中には三つの鼓動が確認できると教えてくれた。
男の正体を知ったのも、ちょうどその頃だった。教授の机上に置かれた新聞の一面に、あの男の写真が載っていた。
『■■■王国の第一王子、来訪』
仕事とは……つまり、外交だったということか。知らない間に、とんでもない相手の子を身籠もってしまった。明るみに出れば、大事になってしまうだろう。サナは、自分の腹部をそっと撫でた。