「なあ、ウルシマ。お前、クロヌマに告白してこいよ」
クラスの中心的な人物の一人であるミツカにそう言われたとき、サナはすぐに断った。クロヌマといえば、クラスでいじめられている男子生徒で、サナは喋ったことすらない。不気味な男で、黒い前髪をだらんと顔に垂らしているから、目元はほとんど見えない。
いじめに加担するのは嫌だったし、何より、クロヌマに変に勘違いされるのもごめんだった。
「大丈夫だって。今日はエイプリルフールだろ? さっさと行ってこいよ」
取り巻きが「そうだよ。てか、クロヌマが断るかもしれないじゃん。ウルシマ、別に可愛くないんだし?」と言うと、周りにいた全員がどっと笑った。
「でも……」
サナがそれでも断ろうとすると、ミツカに力いっぱいお腹を殴られた。サナはお腹を押さえながら、その場に座り込む。
「何か言った? ねえ、早く行かないと、もう一発食らわすよ」
サナは言うことを聞くしかなかった。彼女が去ったあと、取り巻きが「ねえ、なんで急にクロヌマに告白なんかさせるの?」とミツカに尋ねた。
「ウルシマのやつ、オガワ先輩に好かれているの知ってる? 生意気じゃん。あんな子がさ。ただ委員会が一緒だからって。あいつには、クロヌマがお似合いなんだよ。このまま二人で付き合っちゃえばいいって思わない?」
なんて自分勝手なのだろう。取り巻きたちはそう思ったが、けして口には出さない。ただ「ミツカ、オガワ先輩のこと好きだもんね~」と作り笑いを浮かべるのだった。
気は乗らなかったが、これ以上ミツカに殴られるのもごめんだ。彼女に命じられるまま、クロヌマに無言で「放課後、図書室の側の階段に来てください」と書かれた紙を渡した。渡すなり、サナはその場から逃げるように走り去ったので、クロヌマがどんな表情をしていたかはわからない。
放課後になると、ミツカがニヤニヤ笑いながらあとをついてきた。ちゃんと告白するか、確認するつもりなのだろう。
「ほら、安心しなって。ウルシマが告って、クロヌマが何か言ったら、ウチらが出ていってネタばらししてやるからさ」
「うん……」
何でもいい。早く終わればいい。
図書室の側の階段で待っていると、クロヌマがやってきた。ミツカは「じゃ、頑張って!」と図書室の中に引っ込んだ。本なんて読まないくせに。
「ウルシマさん……どうしたの?」
「その……クロヌマくん……あの、あのね……」
やはりこんなことは良くない。やめよう。そう思ったが、図書室からこちらを睨んでいるミツカが視界に入った。
……駄目だ。あの女が見張っている。どうして、自分とクロヌマにこんな酷いことをするのだろう。ミツカが口を大きくパクパクさせている。「早く告れ」と言っているようだ。
「実は……前から、クロヌマくんのことが……好きで……それで……」
それ以上は言葉が出てこなかった。付き合ってくれまで言わなくては駄目だろうか。いや、ミツカは「ウルシマが告って、クロヌマが何か言ったら、ウチらが出ていってネタばらししてやるからさ」と言っていた。ここまでで良いだろう。クロヌマが、断る可能性もゼロではないし……。
ちらりとクロヌマを見たが、相変わらず黒い前髪が目元を隠していて、彼の表情は読めない。
もう許して欲しい。サナやクロヌマがミツカに何をしたというのか。サナは再びミツカの方を見たが……すでに彼女はどこかへ行ってしまったあとだった。
ネタばらしをするはずではなかったのか。仕方ない。こうなったら、自分で言えば良い。あの嫌な女ももう見ていないのだから。意を決して「あのね!」と■が言うとほぼ同時に、クロヌマが「どこが好きなの?」と聞いてきた。
「へ?」
「俺のどこが好きなの? 教えてよ」
好きなんかではない。そう言えればよかったのだが、普段からクラスメイトに傷つけられている彼を、自分も傷つけのかると思うと、言えなかった。適当な嘘を吐くほうが、よっぽど残酷なのに。
「……ミステリアスで、大人っぽいところ。クロヌマくんって、他の男子とは違うよね」
「そう。じゃあ、これからよろしくね、ウルシマさん」
そういうと、クロヌマはサナの手を握った。その手は温かくて、汗ばんでいた。普段からいじめられている彼が、話したこともない女子に呼び出されて、緊張しないはずがない。また何らかの形で嫌がらせを受けるのではと身構えていたことだろう。
「う、うん……」
「ねえ、俺、頑張るね。ウルシマさんのために、釣り合う男になるよ。ねえ、どんな男がタイプなの?」
「え……?」
「君が教えてくれた俺の好きなところは雰囲気とか普段の話し方から受ける印象でしょ。だから外見は好みじゃないんだって思ったんだ。俺の全部を好きになって欲しい。だから君がどんな男が好みか知りたいんだ。教えて欲しい。お願い。写真とか見せて欲しい。二次元でも三次元でも構わないから教えて欲しい」
彼はサナの手を握りながら、ほとんど一息でそう言った。クロヌマというこの男は、やはり普通ではなさそうだ。大変なことになってきたかもしれない。
「え、えっと……でも、クロヌマくんだって私のことを完璧だなんて思っていないでしょ?」
「君は完璧だよ! ずっとずっとずっと好きだった。入学してきたときからずっと!!」
全く気が付かなかった。だって、今日まで一度も話したことすらなかったのだから。
「そ、そうなんだ……」
「まさか……っ、両思いだったなんて……とにかく君の好きな男は? 教えて欲しい」
「ええと……」
サナの見せた好みの男の画像が、自分と全く違う系統だったら、釣り合わないからと別れてくれるだろうか。いや、彼の様子だと整形でも何でもして、サナのタイプに寄せてきそうだ。嘘の告白のせいで、彼にそこまでさせてしまったら……。
「そもそも私、クロヌマくんの顔を見たこと無いから……いつも、前髪で隠しているでしょ」
「それは……」
「そうだ、見せてよ!」
クロヌマは少し迷ってから「君がそう言うなら……」と恥ずかしそうに顔を覆い隠していた前髪を左右にわけた。
「かっこいい! クロヌマくん、そっちのほうが良いよ!」
嘘ではなかった。顔立ちは整っていたし、肌も綺麗だったから。それに、無理に別の誰かに外見を寄せるような無茶はしてほしくなかった。
告白は、すべて嘘なのだから。
◆ ◆ ◆
4月2日になっても、サナはクロヌマにあの告白は嘘だと言えずにいた。昨日までは、朝一番に本当のことを言うつもりだったのに、いざクロヌマを目の前にすると言葉がでてこなかった。
健気にも、彼は昨日サナが褒めてくれたからと、前髪を短く切ってきた。クラスのみんなは彼の変貌に驚きを隠せないようだ。クロヌマを表立っていじめていた奴らでさえ、「お前、かっこいいじゃん!」なんて言っている。
ミツカはというと、サナに「かっこいい彼氏ができて、良かったじゃん」と笑うだけで、ネタバラシをしてくれるような様子はない。
言わないと。早く言わないと。けれど、すでに彼を傷つけることは確定している。このままだらだら付き合って、適当に理由をつけて別れるほうが彼を傷つけずに済むのではないか……。
あれこれ考えていると、授業はあっという間に終わってしまった。昼休み、クロヌマが嬉しそうに近寄ってきた。
「いつも学食だよね、一緒に食べない? それとも、友達と約束してる?」
「う、ううん……大丈夫、一緒に行こ……」
これは、彼に本当のことを言うチャンスかも知れない。
◆ ◆ ◆
……。結局、昼休みも彼に本当のことは言えなかった。「君の手料理が食べたいなぁ……」とうっとりと話す彼に「あなたが私の手料理を食べることはありえないの。あの告白はミツカに腹パンされて仕方なくしただけで、私はあなたのことを好きじゃないから」だなんて言えるわけがない。
そうこうしている間に、放課後になってしまった。今日は、図書委員の仕事がある。サナが荷物をまとめていると、クロヌマがニコニコしながら「図書委員の仕事があるんだよね?」と話しかけてきた。
「うん、そうなの。だからごめんね。今日は一人で帰って」
「そっか……それって、待ってちゃだめかな?」
「え?」
「俺も図書室で君と一緒に居ちゃだめ?」
まだ皆が教室に残っている状態でそんなことをクロヌマが言うものだから、周りが囃し立てる。サナは「大丈夫だけど……」と恥ずかしそうに呟いた。
◆ ◆ ◆
今日は、サナが一人で本の管理を行う日だ。管理と言っても、主な仕事は、本の貸し出しを希望する生徒がいればカウンターにあるパソコンとバーコードリーダーを使ってその処理をすることだ。あとは、逆に返却された本が傷ついたり汚れたりしていないかを調べてから、貸し出したときと同様に処理をして、元の場所に戻す作業がある。
だが、図書室には、サナとクロヌマだけだった。テストはまだずっと先だし、勉強に力を入れている子のほとんどは塾や家庭教師を利用しているから、自習する人間すらいない。
言うなら、今だろう。サナは図書委員の仕事をすべて終わらせてしまうと、スマホをいじりながら待っているクロヌマの方を見た。ごくりと唾を飲み込む。
「あのね、クロヌマくん」
「なぁに?」
クロヌマは、サナに声をかけられただけで嬉しそうだ。先程までいじっていたスマホをテーブルに置くと、サナをまっすぐ見る。
「あの……昨日の告白のことなんだけど……あれは……その……」
「……」
サナが何を言おうとしているのか、クロヌマには予想ができてしまったのだろう。彼の顔から少しずつ笑顔が消えていく。
「嘘、なの……私は、クロヌマくんのことを好きなわけじゃなくて……」
その瞬間、クロヌマが思いっきりテーブルを殴った。音に驚いて、サナの身体がびくっと震える。
「……君は俺のことを好きなんだよね?」
「……ごめん……本当にごめんなさい……」
「俺のこと好きなんだよね? 俺のことが好きだって言ったじゃん。ねえ、君が言ってくれたのは昨日のことだよ。ミステリアスで、大人っぽいって。俺のことかっこいいって言ったじゃん」
サナは俯いた。彼が怒るのも仕方がない。自分はそれだけのことをしたのだ。許してはもらえないかもしれない。しかし、これ以上、彼を騙し続けることもできなかった。
「ごめんなさい……」
謝ることしかできなかった。
「……だめ。謝ってもだめだよ。君は俺に告白した。俺達、もう恋人なんだよ。そうだ、まだ手も繋いでないし、キスもしてなかったね」
クロヌマは微笑みながら、こちらに近づいてくる。あっという間に手と手を重ねられ、そのまま唇を重ねられてしまう。クロヌマの舌が口内に侵入してくる。サナを味わうように、舌が動かされる。彼を突き飛ばすべきだったのだろう。だが、例の告白の後ろめたさから、サナは彼を拒絶できなかった。それが、何もかもの間違いだった。
唇が離されると、クロヌマはサナに優しく微笑みかけた。
「大好きだよ……」
クロヌマが、サナのボタンをいくつか外す。服の中に手を入れられ、下着の上から胸を揉まれる。
「やめて……お願い……ごめんなさい……」
無理やり口づけられても、身体に触れられてもクロヌマを拒みきれなかった。すべて、自分が蒔いた種だったから。サナはただ頭を横に振ることくらいしかせず、彼を押しのけようとはしなかった。
「なんで? 俺達両思いでしょ。あ、もしかして怖い? 大丈夫だよ、優しくするから……」
下着越しに胸の先端を指先で擦られると、サナから甘い息が漏れる。クロヌマはその様子に喜びを感じているようだった。彼が再び口づけてくる。サナはひたすら後悔していた。どうしてミツカの言うことを聞いてしまったのだろう。何発どこを殴られても、あの女の言う事を聞かなければよかった。クロヌマに、どうしてすぐに本当のことを話せなかったのだろう……。
「本当にごめんなさい……」
サナの瞳から涙がこぼれ落ちた。クロヌマはそれをぺろりと舐める。頬や首筋にキスを落としながら、クロヌマの手がスカートの下に滑り込まされた。彼の指先が下着の上からサナの肉芽を撫でる。
「あっ……クロヌマ、く……」
「ねえ、名前で呼んでよ。ミヅキって……」
「ミヅキくん……ああっ、これ以上は……」
身体が敏感に反応し始める。ついに下着の中へと手が侵入してきた。大切な部分に直接触れられ、快楽に身を委ねそうになる。だが、自分たちは本当の恋人ではない。こんなことは間違っている。
クロヌマの指が、サナの蜜壺に入ってきた。サナの柔らかく濡れた内側を優しく撫でられる。
「あ……はぁっ、ミヅキくん……ぁあ……やめ……ああっ!」
「しーっ……いい子だから、静かにしてね。人が来ちゃうよ」
恥ずかしさで顔が熱くなる。サナは必死に首を横に振る。それでも、クロヌマの手は止まらずにさらに奥深くへと入り込んでくる。そして、彼は素早く指を動かした。
「あああッ、はっ……ぁああぁッ!」
サナの身体がビクンと跳ねた。頭の中が真っ白になる。
「イッちゃった? ふふ、大好き」
クロヌマはぐったりとしたサナをテーブルの上に仰向けに寝かせると、脚を大きく開かせた。自分のズボンを下ろし、血管の浮き出る肉棒をサナの秘所にあてがった。
「や……だめ……ッ」
サナの抵抗も虚しく、愛液で満たされた蜜壺へと肉棒は沈んでいく。
「ウルシマさんの中に入ってる……すごい……気持ちいいよ。きゅっ、きゅって締めつけてくる……」
「い、いやぁ……や……ぬ、抜いてぇ……痛いッ、痛いの……」
結合部からわずかに血が滲んでいる。クロヌマは最奥まで貫くと、そこで動きを止め、サナの頭を撫でながらくちづけた。
「ごめんね、すぐに気持ちよくなるはずだから、我慢してね」
クロヌマは優しく囁く。
「ゆっくり動くから……」
言葉通り、ゆっくりと動き始める。痛みは徐々に消え、快感だけが残った。
「あっ……ああっ、はっ……」
突かれるたびに快感が走り、サナの口から甘い声が漏れる。
「あ、そうだ」
何かを思いついたらしいクロヌマは腰の動きは止めずに、そばにあった自分のスマホを手に取った。
「いけないいけない。君との初エッチは絶対動画を撮るって決めてたんだよね。あとで一緒に見ようね」
本当にクロヌマはスマホで撮影を始めた。
「嫌……だめぇ、お願いっ、ああっ、んっ」
クロヌマはサナの言葉を無視して、一心不乱に腰を振り続けた。そして、最後には最奥で白濁とした欲望をサナの中に解き放った。
◆ ◆ ◆
翌日、サナはクロヌマと登校していた。
「ねえ、今度の休みは一緒に出かけない? 映画とか見に行こうよ」
「いいね。サナちゃんは、見たい映画ある?」
「そうだなぁ……」
サナはクロヌマに嘘の告白をした。だから、自分に嘘を吐くのだって、難しいことではない。サナは、最初からクロヌマのことが好きで、望んで彼に告白したのだと思い込むことにした。
だって、どうせもうこの男からは逃げられないのだから。
クロヌマがおもむろに自分のポケットに入れたリモコンを操作すると、サナの下着の中にあるローターが震えだす。
「んっ、あ……あたらし……映画っ、の……」
「ん? なぁに? 何ていう映画?」
クロヌマは微笑みながらリモコンを再び操作する。ローターの振動が強まる。
「あっ、ん、ああっあ゛ッ……はぁっ……あっ! あぁあああっ!」
サナは立ったまま達してしまった。ようやく、クロヌマはローターを止めてくれた。
「可愛い声だね。ふふ、それで、何の話だっけ……ああ、そうそう。映画だったね。サナちゃんが見たい映画を見ようよ。俺は、サナちゃんが居れば、それだけで幸せだし楽しいからさ……」
この男を好きだったら良かったのに。サナは脚をガクガクさせながら、クロヌマに抱きついた。
「だ、大好き……だよ、ミヅキくん……はぁっ、はぁ……」
「うん、俺も大好きだよ、サナちゃん……」