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怪人(NL/人外/無理やり)

「ねえ、子供の頃ってさぁ……何でもないようなことが怖かったよね」

 いつもの食堂でのランチ。同僚で友人のウツミが唐突にそんなことを言った。サナは「例えば?」とウツミに問いかけた。

「例えばね――そう……私はさ、お隣のおばさんが怖かったの。いつもこっちを睨んでるように見えてさ。でも今ならわかるよ。あの人、目が悪かったんだ。こんな風に目を細めて、ちゃんと私の顔を見ようとしてくれてただけなんだよ。思えば、いつも”おかえりなさい”、”いってらっしゃい”って、優しく声をかけてくれてたんだ。それなのに私ったら、おばさんのこと怖がってさ……悪いことしちゃったなぁ」

「ふうん」

「サナもそういうことあったでしょう?」

「うーん……思いつかないかなぁ」

「子供の時のこと、あんまり覚えていないタイプ?」

「そういうわけじゃないんだけど、人見知りしない子供だったから」

 ウツミはつまらなそうに「知らない大人も怖くなかったってことね」とつぶやいた。

 結局、昼休みの間に、ウツミの言うような子供の頃怖かったものを思い出すことはできなかった。しかし、駅から自宅までの道を歩いているとき、ふと思い出した。

(そういえば、あれが怖かった)

 サナが子供の頃住んでいた■■町で、怪人と呼ばれる存在が居た。白いマスクで顔を隠し、頭にはシルクハット。そして、真っ黒なマントに身を包んでいる。今思えば、あれは不審者だったに違いない。サナは怪人が怖かった。サナだけではない、■■町中の子どもたちがあいつを恐れいていた。怪人は何をするでもなく、突っ立って、こちらをじいっと見つめてくるだけなのだが、それだけでも十分怖かった。

 当然、怪人の正体や目的を知るものはなく、皆、好きなように噂していた。子供を攫うことが目的で、誰にしようか品定めをしているのだというものもあれば、人を食う化け物で、特に子どもの肉を好むのだというものあった。

 だが、実際に子供が行方不明になったという話は聞かなかった。

(一回だけ、度胸試しをしたっけ)

 度胸試しと称して、サナと数人の子どもたちで、怪人に一人ずつ話しかけにいったことがあった。サナも、怪人に声をかけた。「こんにちは」とか「何をしてるんですか」とか「お名前は?」とか。そういった類の質問をした。けれど、怪人はじっとこちらを見つめてくるだけで、何も答えてはくれなかった。他の子も同様だったという。

(我ながら馬鹿なことをしたよね……あれ?)

 薄暗く、人気のない道。少し先に人影が見えた。電柱に取り付けられた灯りに照らされるシルエット――それは、子供の頃に見た怪人にそっくりだった。サナは驚き、一瞬足を止めたが、再び歩き始めた。

(コスプレ……かな)

 そのまま歩き続け、怪人の眼の前まで来た。見れば見るほど、幼少期に見た怪人に似ている。仮面もまったく一緒に見える。怪人の横をすり抜けていこうとしたとき、奴がこちらに顔を向けて言った。

「こんにちは」

 その声は、サナの子供の頃の声にそっくりだった。

「何をしてるんですか」

 サナは急いでこの場を離れようとした。しかし、怪人に腕を掴まれてしまった。

「お名前は?」

「離してください!」

 腕に力を込め、振り払おうとしたが、駄目だった。怪人の掴む力は強く、骨の軋む音が聞こえた。

「痛いッ!」

 サナが苦痛で顔を歪めると、怪人は心配そうに彼女の顔を覗き込んできた。しかし、腕を掴む力を弱めてはくれない。怪人は、サナを後ろから抱きしめるように押さえつける。

「あなたは何者なの……?」

 怪人は何も答えなかった。その代わり、サナの胸を乱暴にもみ始めた。こいつは子供の頃に見た怪人ではなかったのかもしれない。ただの不審者で、痴漢なのかもしれない。

「誰か――」

 助けてと叫ぼうとした口は、怪人の手によって塞がれてしまった。乱暴に胸を揉まれていたはずが、いつの間にか丁寧に愛撫されている。怪人は彼女の胸の感触を楽しむかのように、手のひらで包みこんでゆっくりと優しく揉んでいる。こんな状況だと言うのに、胸の先端が次第に硬くなっていく。怪人は衣服の下に手を滑り込ませ、直に胸に触れた。先端を指の腹で撫でたり、軽く摘んだり。そのたびにサナは甘い声を漏らした。

「んっ、ん……ふ……」

 サナの身体が時折びくんと跳ねるのを面白がるように、怪人はサナの胸を愛撫し続けた。だんだん腰に力が入らなくなってきた。脚と脚の間がぬるぬるとしてくる。

 怪人はサナの口を塞ぐのをやめたが、彼女にはもう叫ぶ気力が残っていなかった。サナの腰を掴んだまま、乱暴に衣服や下着をずらす。白くて柔らかな尻がむき出しになった。裂け目を開くように尻を鷲掴みにすると、怪人は膨張した己をそこにあてた。蜜壺からこぼれる愛液を塗り伸ばすように肉棒をぐりぐりとあてる。サナが「だ、駄目……!」と叫んだ瞬間、ずぶりと肉棒を突き刺した。

「んん……ん゛っ……ぁああっ、だめぇ……」

 怪人はサナの腰をしっかりと掴んだまま、腰を動かし始めた。肉と肉のぶつかり合う音が、人気のない道に響く。突き上げられるたびに、サナは艶っぽい悲鳴をあげた。

「ん゛っ……ぁあああ゛っ!」

 ぐりんと、怪人の男根のかえし部分がサナの中をえぐる。最も深い所を突かれながら、サナは快感に耐えていた。

「あっ、ああ……んっ、ぁああっ、はっ、あっ、ああ……」

 一定のリズム……それもかなりの速度で怪人はサナを突き上げ続けた。ついにサナは獣のような叫びをひとつあげて絶頂した。絶頂とともに、足元のアスファルトに潮がびちびちゃと撒き散らされた。それでも怪人は止まることなく、やはり一定のリズムでサナを突き上げ続けた。すっかり快感という大海に飲み込まれ、溺れていたサナにとっては、この怪人が幼少期に見たものと同じものか否かといったことはどうでもよくなっていた。

「んん……ん゛っ……ぁああっ、はぁっ……ん、また……イクッ!」

 サナは腰を掴まれたまま、遠吠えをする犬のように顔を天に向け背中を反らせた。後ろの穴までもが物欲しげにひくつき始めている。

 腰を打ち付けられるたびに、尻の肉が揺れ、手を打つような音が立つ。そして、これまでで一番深く突き上げられたとき、中に熱いものが広がるのを感じた。白濁とした液で、どんどん中が満たされていく。中に収まりきらない白く泡立った粘液が、サナの太ももを伝って垂れていく。

 その後、どうやって家に帰ったか。サナははっきりと思い出せない。ただただ、恐怖と恥ずかしさでいっぱいだった。

 そして、ベッドの中で、子供の頃、怪人に話しかけたときのことを思い出した。何も答えてくれなかった。そう思っていたが、本当は違う。怪人はこう言っていた。

「子どものころの君も可愛いね」

 翌日の昼休み。いつものようにウツミと食堂でランチ。

「子供の頃、怖かったものを思い出したよ」

 ウツミは「なになに?」と身を乗り出してまで尋ねてきたが、サナは詳しく話すつもりにはなれなかった。昔、不審者らしき人がいて、怖かったとだけ話した。昨夜のことは絶対に話せない。

「ふうん、確かに子供は怖いかもね」

「ウツミ……でもさ、思うんだよね。子供の頃は怖かったのに、今思えば何でもないものって……ただ忘れちゃっただけか、怖くないって思うために記憶を書き換えてたりするんじゃないのかな」

 仕事が終わり、家までの寂しい道を歩くウツミ。彼女は、サナの言葉が引っかかていた。

 ――怖くないって思うために記憶を書き換えてたりするんじゃないのかな。

 どうだろう。“あのおばさん”は目が悪かっただけ。自分が十代後半になって、目が悪くなったときにその答えに行き着いた。けして自分を睨んでいたわけではない。そう思うようになってから“あのおばさん”を見ていない。

(確かめる必要はない……っていうか、確かめようがないんだよなぁ。おばさん、私が小学生の頃に死んじゃったし……)

 あれこれ考えているうちに、家についた。ドアの前でカバンを開き、鍵を探す。

「おかえりなさい」

 ウツミが顔をあげると、“あのおばさん”が直ぐ側に立っていた。

「あ……ああ……」

 声は優しい。愛おしくて仕方のないものにだけ、かけるような声だ。しかし、彼女の表情は――。