「先輩、今日も残業? 相変わらず仕事遅いですね」
「……」
後輩のミタは「じゃ、お疲れ様でーす」と言って帰ってしまった。
(ムカつく~! てか今の発言、100%ハラスメントでしょう! ……何ハラになるのかはわからないけれど)
まだフロアには半数以上が残っている。サナが特別仕事が遅いというわけではないはずだ。しかし、後輩のミタはサナよりも多くの業務を抱えているのにも関わらず、何故か毎日定時で上がる。進捗の遅れはなく、むしろ前倒しでどんどん進めているようだ。
サナはすっかり冷めたコーヒーを啜ると、仕事に集中することにした。その日は、19時過ぎに上がれた。
翌日、出社するとすでにミタが居た。
「おはようございます」
「おはようございます。先輩、昨日何時までやってたんですか」
サナは荷物をデスクの上に置くと、「19時過ぎかな」と答えた。
「なんだ、昨日は早かったんですね」
「……」
「でも、あれくらいなら残業しなくても良かったんじゃないんですか?」
(あんたにはあれくらいでも、私にはそうじゃないの!)
サナはイライラしながらPCを起動した。もうこの野郎は無視しよう。相手にするだけ無駄だ。サナと同じくらいの業務スピードの人間は他にもいるのに、どうして自分にだけ絡んでくるのか。
「良ければ……定時内に収まるように手伝いますけど」
「え?」
意外な言葉に、サナは目を丸くした。
「あ……ありがとう」
「意外そうな顔ですね。とりあえず、納期が近い仕事、何件かメールで投げてくれますか?」
「うん……」
サナは困惑しながらも、今日納期の仕事のうちの一つをミタにメールで送った。
「これだけ? もっと送ってくれます?」
「え、いいの?」
その後もミタに促されてサナは追加で何件か送った。これ以上送ると、逆にサナの仕事がなくなってしまう。順調に仕事が進み、今日は定時で帰れそうだ。
(ミタくんのおかげだもん。流石に何かしらお礼しないとまずいよね……)
サナはビル内のコンビニに行くと、適当にお菓子を買い、ミタに渡した。
「……なんですか、これ」
「今日のお礼。ミタくんのおかげで定時に上がれそうだし」
「……じゃあ、もらいますけど。毎回こんなふうにお礼していたら、お財布がもたないんじゃないですか」
「毎回って……これからも手伝ってくれるの?」
ミタは視線をモニタに向けたまま「当たり前でしょう」と言った。その日は、ミタだけではなく、サナも定時までに業務を終えられた。
(飲みにでも誘おうかな……。うーん、セクハラになっちゃうかな?)
帰る支度をしながらそんなことを考えていると、ミタと目があった。
「「あの」」
ミタと声が揃った。気恥ずかしくて思わず笑ってしまう。そこへ、彼の同期女性のミヤザキがやってきた。
「ロウ、お疲れ~。もう仕事終わり?」
「うん」
「一緒に飲みに行かない?」
ミタがちらりとサナのことを見る。それをミヤザキは見逃さなかった。
「えー、嘘! ロウ、〝この人〟に無理やり飲みに誘われてるの? ちょっと、やめてください。強制的に飲みに行かせるの、パワハラなんですよ! 場合によっては、セクハラにも該当するかもしれません」
「はぁ? そんなことは……」
サナは否定しようとしたが、彼女はペラペラと喋り続けていて、口を挟めない。
「ミヤザキ、お前失礼」
「そうかもだけど、でも本当のことじゃん!」
ミヤザキが大声を出したせいで、フロア中がこちらに注目している。
(うう……皆見てる。皆、ミヤザキさんの言うことを真に受けていたらどうしよう……)
「全然本当のことじゃないし、職場でそんな大声を出すなんて馬鹿じゃないの?」
「なんでよ! 私はロウのために言っているのに!」
ミタの言葉に、ミヤザキはヒートアップした。サナがため息を吐き、「私、帰ります。お疲れ様でした」と言うと、ミヤザキは満足そうに笑った。
あの後、二人は飲みに行ったのだろうか。どうでもいいことだが。
(私って……若い子から見たら、若い男の子に鼻の下を伸ばしているようにみえてるんだなぁ)
サナは複雑な気持ちで眠りについた。
翌朝、出社するとすでにミタが仕事を始めていた。
「おはようございます」
「おはよう」
「昨日のこと……ミヤザキが失礼なことを言ってすみません。嫌な思いをしましたよね」
(ミタくんが謝るってことは、二人は付き合っているんだろうなぁ……)
サナは少し笑って「気にしていないよ」と言った。
お昼前、ミタが「あの!」とサナに声をかけた。
「びっくりした。どうしたの?」
「昼、一緒に食べませんか」
ミタが昼食に誘ってきたのは初めてだ。しかし、昨日のこともあるのだし、気まずくて一緒に食べたいとは思えない。
「ごめん、今日は友だちと食べる」
「先輩、友達なんていないじゃないですか」
流石にサナにだって、昼食を一緒に食べる友達くらいいる。だが、最近は良くないことと思いつつも、自席で仕事をしながら食事をとっていた。
「……」
「すみません、こんなことが言いたかったわけじゃないんですけど」
その時、ちょうど12時になった。サナは「じゃ、昼休みだから」と言って、貴重品をまとめると席を立った。食堂に行くと、友人のナナコが一人でスマホをいじりながら食事をしているのが見えた。定食の乗ったトレイを持って、ナナコの向かいに座る。
「お、若い男の子を狙ってるウルシマさんじゃん。もうお尻は触ったー?」
ナナコはそう言って笑う。
「触ってないよ! ……昨日のアレ、聞いていたの? 言っておくけど、全部ミヤザキさんの勘違いだからね」
「わかってる、わかってる。だってあんた、年上好きじゃん。ガチで狙うなら独身の課長でしょ。でもさ~私はわかってるけど、皆が皆そうではないから、これから大変かもよ。昨日、マジでフロア中の人間がアレを聞いていたから」
「だよね~、もう転職するしかないのかな……」
食堂から自席に戻ろうと、エレベーターに乗った。嫌なことに、偶然ミタと乗り合わせてしまった。しかも二人きり。気まずい……。
「……今日、空いていますか?」
「空いていない」
サナはミタに即答した。
「先輩って、女性が好きなんですか? それとも年下に興味がない? いや、この年齢まで恋人もいないんだから、そもそもそういったことに興味がないんでしょうか?」
「はぁ? 何なの? もう話かけないで!」
その時、エレベーターがぐらんと揺れ、電気が消えた。
「な、何?!」
「落ち着いてください。こういうときは……駄目だな、電気が通っていない。でも大丈夫ですよ、すぐ助けが来ます」
(最悪……)
「さっきは、すみませんでした。……というか、俺ってずっと失礼ですよね」
「自覚あったんだ。仕事が遅いとかなんとか……ほんっと、失礼なヤツ。それこそハラスメントだよ」
ミタは黙ってしまった。電気が消えたエレベーター内は暗く、彼がどんな表情をしているか分からない。
「素直に手伝わせてくれって、定時に上がって一緒に飲みに行きましょうって言えればよかったんですけどね」
「え? ミタくんって、ミヤザキさんと付き合っているんじゃないの? 彼女と飲みに行ったほうがいいでしょう。上司とならまだしも、プライベートの時間を使ってまで先輩とコミュニケーションをとっても良いことないよ」
「ミヤザキはただの同期です。先輩って、鈍いですね」
「……さっき、失礼なところを反省したのかと思ってた。……わっ!」
胸に何かが触れた。
「先輩は、俺に触れたいって思わないんですか」
「ちょ……もしかして今触ってるの、ミタくん? ……ぁあっ」
後ろから、胸を揉まれている。首すじに彼の吐息がかかる。
「てっきり性欲のない人かと思っていましたが、もうこんなに乳首がたってる。意外に淫乱なんですね、先輩」
ミタが、サナの胸の頂きを服越しに指で擦る。
「んん……ミタくん、あん……ん、っん、ぁあ、駄目……ッ、やめて……」
「そんなエロい声で呼ばれてやめられるわけないでしょう。でも、名前で呼んでほしいな……」
ミタはサナの溢れた愛液で濡れた太ももを撫でた。
「名前って……そんな……」
「呼んでくれたら、もっと気持ちよくしてあげますけど」
「……」
「もしかして、俺の名前を知らないとか? そんなことないですよね」
ミタは「ショックだなぁ」と言いながら、サナの首筋を噛んだ。
「……ロウ、くん……」
「ふふ、いいですね。いっぱい呼んでください、サナさん」
熱っぽい声で囁かれると、ぞくぞくしてしまう。身体が彼を欲している。
ミタの長い指が下着の中に侵入し、サナの敏感な肉芽に触れた。すっかり固くなったそこを、指でつまんだり擦られたりすると、立っているのもようやくのほどの快感に飲み込まれる。
「うう……はぅ、ロウく……あん……あっ、ああ……気持ち、い……あん」
「サナさん、エロすぎ。本当はもっと……すみません、余裕がないので挿れますね」
サナの下着がおろされる。サナは壁に取り付けられた手すりに手をつくと、ミタに尻を突き出した。
「はぁっ……頂戴……」
「何を? はっきり言ってください。そのほうが、大きくなりそう」
「う……ロウくんの……を、私の中に……」
「ロウくんの、何?」
ミタの熱い棒の先端が、サナの蜜壺の入り口にあてられた。
「……ロウくんの、ちんぽを……私の、ま……まんこに挿れて……」
「わかりました」
ミタは腰を前に押し出した。愛液で満たされた蜜壺は、肉棒をあっさりと受け入れた。ミタはピストンを始めた。突かれるたびに、蜜壺から愛液が零れ出る。
「はぁっ……大きい……はぅ、あん……ふ、はぁ……あっ、グリって……だめ……ぇ……」
「サナさんのまんこ……暖かくて、柔らかくて……気持ちいい」
ピストンはどんどん激しさを増していき、より速く、深くなっていく。
「イクイク……イクッ……んん……あん……ぁああっ」
サナの身体はビクビクと震え、エレベーターの床に潮がびちゃびちゃという音を立ててまかれる。
「誰の何でイッたんですか?」
「ああ゛っ……ロウくん゛の、んん……ち、ぁああッ、ちんぽ……あっ、あん……はぁっ……」
「こんなにすぐにイッちゃうなんて……淫乱まんこですね。先輩に見せてあげたいな……俺のちんこでめちゃくちゃにされて、気持ちよくなっちゃってる先輩の姿」
「あん……ん~~! うう……はっ、ん、ああっぁあああ……」
もう何回絶頂を迎えたか分からない。脚はがくがくと震え、頭の中は真っ白だ。
「気持ちよさそ……俺も、いいですよね……」
ミタはそう言って、最後に深く突き上げると、白濁とした熱い液をサナの中にぶちまけた。
「ぁああっ、ロウくんの……はぁ……びゅーって……お、はぁっ……うう、ま、まだドクドク……うう……出て……」
「はぁ……先輩、そんなこと言わなくて良いんですよ。また……たっちゃうでしょう」
ミタのそれは再び固さを取り戻しつつあった。
「すみません。どうしても我慢できなくて漏らしてしまいました」
ミタは大真面目な顔で、そう言った。救助に来た業者の人間も、会社の連中も、深くは聞いてこなかった。ミタの言い訳を信じたかどうかは不明だ。
翌朝、出社してきた彼女は、俺の顔を見ただけで顔を赤らめて俯いてしまった。どうしよう、すごく可愛い。昨日、拒否されなくて本当によかった。ランチも飲みも断られ、あれすら断られていたら、俺はどうにかなっていたに違いない。
新入社員時代、ビルの中で迷子になっていた俺を走って探し回ってくれたサナさん。俺のミスなのに、課長に「自分のミスです」と主張して庇ってくれたサナさん。挙げたらきりがないけれど、いろいろなことをしてもらった。そのうち、自然と彼女を目で追うようになった。すると、彼女が俺にしてくれたことの大半は、他の誰かにもしていることに気がついて……。
彼女の特別になるには、どうしたらいいのだろう。色々試行錯誤しているうちに、気がついたら、彼女に失礼な言葉を投げるようになっていた。サナさんは当然、俺のことを睨む。普段、彼女は誰かを睨んだりしない。ネガティブな態度ではあるけれど、俺だけの特別だ。
しかし、それだけでは満足できなくなってしまった。
「昼、一緒に食べませんか」
俺の言葉に、彼女は――。