田舎の奥深い山の中。着崩した赤い着物の角を生やした男が、幸せそうな顔でサナの髪を撫でている。
「この前の熊は美味かったな。何度も言うけど、村に住めよ。いつまでも人間のばあさんを騙して暮らすわけにはいかないだろ」
サナは彼と初めて会ったとき、嘘を吐いてしまった。自分も鬼だが、まだ角が生えていない。人間の老女を騙して、孫と偽り家に住み着いていると。
サナは正真正銘人間だし、家に居るのは実の祖母だ。何度も本当のことを言おうとした。しかし、鬼ではないとわかったとき、彼に嫌われるのではないか、最悪の場合、殺されてしまうのではないかと思うと怖くて言い出せなかった。そして、もう一つ彼に伝えられていないことが――。
「俺の家に住めばいい。お前の角が生えたら……」
「角は……あと何年も生えてこないと思う」
また嘘を吐いてしまった。角は何年経っても生えてこないと分かっているのに。
「俺も周りの連中より、生えてくるのが遅かった。そのうち立派なのが生えてくるよ」
そう言って鬼……ミカヅキはサナの額を撫でた。
(私が本当に鬼だったらよかったのに)
村でミカヅキと仲良く暮らす自分を想像してみる。山奥で人間を避け、ひっそりと暮らす自分たちを。
「角は生えてないけど、私はもう大人よ」
ミカヅキと唇を重ねる。身体だって、もう何度も。サナだって、できることなら彼と一緒に居たかった。けれど、角の生えていない鬼は結婚できないのだと、ミカヅキが教えてくれた。
ふれ合うだけのキスは段々深くなり、互いの舌が絡み合う。何度もこんなキスをした。そして何度もこのあと……身体がそれを覚えていて、下腹部がきゅんと切なくなる。
「ふ……ぁふ、う……」
呼吸が荒くなっていく。ミカヅキの手が、サナの胸に触れた。焦らすように頂には触れず、その周囲を撫でたり揉んだりする。
ミカヅキが口を開くと、鋭い犬歯がのぞいた。真っ赤な舌が、サナのむき出しになった乳を這う。
「ぁ……あ……」
こんなところに人は来ない。来ないと分かっていても、外だ。自然と声を抑えてしまう。遠くの方で鳥が鳴いている。
ミカヅキが先端を口に含んだ。口の中で転がすように舐められる。誰も聞いていないことを祈りながら、サナは小さな悲鳴を何度もあげた。
「もう……挿れて……」
サナは立ち上がり、木に右手をついた。左手で下着を下ろす。立ったまま、後ろから挿れてもらう。何度もするうちに、これが外でやるときは一番良いのだとわかった。
肉と肉の間から、愛液があふれ出て、ぬらぬらと鈍く光っている。
「なんだよ、いつもより気が早いな」
「……今日は早く欲しいの」
今日は早くして、早く終わらせてしまいたかった。
熱い肉棒が尻に当たる。それが一気に根元まで挿れられる。
「ぁああッ!」
挿れられた瞬間、軽い絶頂を迎えてしまう。すぐに激しいピストンが始まるものだと思っていたが、彼は一向に動こうとしない。
「何……? どうしたの?」
サナは振り向きもせずに、ミカヅキに尋ねる。
「今日、何か変じゃないか?」
「変かな。確かに、少し嫌なことがあったけど」
「ならいい……」
まだ何か言いたげだったが、彼は動き始めた。ミカヅキは一心不乱に腰を振り続け、何も考えないようにすることにした。
サナの温かな中にある自身に集中する。締め上げられながら突き上げる。肉と肉が擦れるたびに快感が生じる。頭の中が空っぽになって、サナだけを感じる。
「ああっ、あ……あん、ぁあっ」
ぱちぱちと肉のはじける音がテンポ良く鳴り続ける。サナの荒い息づかい、嬌声。
「ぅうっ、あ、ああっ、ん……」
サナは何度も何度も突き上げられて、限界だった。もう何度も絶頂に達している。内股が震え、立っているので精一杯だ。木にしがみつき、快感に耐えることしかできない。
「……」
何の前触れもなく、サナの中に熱い精液が吐き出された。いつもより早い。
「ごめん……やっぱり気になる。今日のお前は変だ」
「あのね……ぁあッ!」
まだ硬さの残る肉棒が引き抜かれて、感じてしまう。だらりと白濁とした液体がサナの太股を伝う。
サナはまた、ミカヅキの顔を見られない。
話さなくてはいけない。自分は鬼でないこと……明日には夏休みが終わり、祖母の家を出て、ここから遠い自分の家に帰らなくてはいけないこと。サナは話せるだろうか。サナはゆっくりと口を開いた。