明日はバレンタインデー。家庭科室には女子生徒たちが集まっていた。サナはため息をついた。
「え、えっと……みなさんは?」
放課後、家庭科室は家庭科部が使用することになっている。集まっている女子生徒たちの90%は家庭科部のメンバーじゃない。
「チョコづくりにきたの!」
「そうそう、コンロとかいっぱいあるし」
家庭科部の部長であるミライが手招きしてくる。
「遅かったじゃん! サナも、チョコ作るでしょう? ほら、ユキウラくんに……」
「や、やめてよ……! みんないるのに」
サナは後輩への思いをミライに打ち明けたことを後悔していた。幸い、集まっている皆はチョコづくりに夢中だ。それでも誰かが聞いていたんじゃないかとひやひやする。
「なんすか、こいつら」
背後から突然ユキウラの声が聞こえ、驚きのあまりサナは軽く飛び上がった。その様子を見てニヤニヤするミライを肘で軽く小突く。小突かれてもミライはにやけ顔をやめられなかった。
「えーと……、みんなチョコ作りに来たんだって。ね、ミライ」
ミライはニヤニヤするばかりで何も言わない。
「部長、どうしちゃったんすか」
「たぶん、チョコの食べ過ぎ、かな」
「ふーん」
ユキウラは心底どうでも良さそうだ。おそらく、チョコにも興味なんてないのだろう。第一、どうして体格のいい彼が家庭科部……文科系の部活に入ったのかも謎だ。聞けば、プライベートではボクシングをやっているらしい。
「ユキウラくんも、チョコ作る?」
「俺が? なんで?」
(なんでって言われても……。せっかくなんだし、何か一緒にできればいいなと思っただけなんだけど……)
サナは頭をフル回転させ、それらしい誘いの言葉を考える。
「あ、明日はほら、バレンタインデーじゃん? チョコ作って、好きな人に渡しなよ」
サナは自分の言葉に胸が苦しくなった。ユキウラの好きな人のことなんて考えたくもない。ましてや、そいつに渡すためのチョコを一緒に作るなんてあまりにも辛い。
「やだ」
「へ?」
「古臭い考えかもしれないっすけど、チョコは渡すより、もらいたいです」
「そ、そっか」
(うう……。〝好きな人いないんで~〟とか言ってくれればなぁ……。たぶん好きな人は居るんだろうな。しんど……)
サナはミライによろよろと歩み寄ると、彼女の肩に顔を埋めた。
「ど、どうした?」
「しんどい……私、帰ってもいい?」
「いいけど、大丈夫? 駅まで一緒に行こうか?」
「ううん、ありがとう。大丈夫だよ」
サナは荷物をまとめると、家庭科室を後にした。
「俺も帰ります」
振り返ると、ユキウラがいた。
「一緒に帰りましょ。家近いし、いいっすよね」
「あ、うん」
(そうなんだ。家近いんだ。今まで知らなかったなあ)
少しだけ元気が出てきたサナは、微笑を浮かべた。ユキウラが自分のすぐ隣を歩いていている。それだけで幸せな気持ちになった。
「突っ込んだ話聞いてもいいですか?」
「え? 何かな?」
「ウルシマ先輩って、女の方が好きなんすか?」
思いもよらない質問に、サナはきょとんとした表情を浮かべた。
「たぶん……私は男の人の方が好きだと思うよ。なんで?」
「部長と付き合ってんのかと思ってました。さっきもいちゃついてたし」
ミライといちゃついた記憶はない。ミライのことは親友だと思っているし、よく一緒に居るのは確かだが。
「ミライとは付き合ってないよ」
「ふーん」
(な、なに……? 聞いておいて興味なしですか?)
サナは苦笑いを浮かべた。横をちらりと見ると、ユキウラはなぜか少し嬉しそうな表情をしていた。
「ユキウラくんはどうして帰るの?」
「俺、人見知りなんで。あんな知らない人間でいっぱいの場所、耐えられないっす」
「そっかぁ……。人見知りだったね」
「俺、目つき悪いし。普段は人なんか側に来ないんですけどね」
他の新入生が強引な部活の勧誘に困り果てている中、校庭の隅でひとりしゃがみこんでいたユキウラを思い出す。ガラが悪く見える彼に話しかけるものは誰もおらず、彼の具合が悪いことに気が付くものも居なかった。サナを除いて。
「私はユキウラくんの目つきが悪いとか、思ったことないけどなぁ」
ユキウラは、「そう言ってくれるのはウルシマ先輩だけですよ」と言って笑った。
「ところで、ウルシマ先輩はチョコを誰かに渡すんですか?」
「え? え、えっと……そ、そうだなぁ……」
サナの顔がみるみる赤くなっていく。あなたに渡したいです、なんてことは口が裂けても言えない。顔が熱い。頭まで熱を帯びているようで、うまい言葉が見当たらない。
そんなサナの様子を見てユキウラは不愉快そうに眉をひそめた。
「渡すんすか?」
「えっと……」
ユキウラはサナの腕を強引に引っ張ると、あまり使われていない階段に連れ込んだ。暗くて、不便な位置にあるこの階段は、中央の階段に比べてほとんど使われていない。ましてや、放課後のこの時間に通る人は皆無と言っていい。
「誰っすか? ウルシマ先輩のクラスの人? それとも部長?」
ユキウラがサナをじりじりと壁際に追い詰める。
「ゆ、ユキウラくん……」
「で? 誰?」
「ユキウラくんだってば!」
「ま、マジっすか?」
ユキウラはにやけ顔を隠すために手で口を覆った。耳まで真っ赤な彼。
「もしかして、ユキウラくん、私のこと好き……?」
「……。ウルシマ先輩こそ、俺のこと好きなんすか?」
二人して顔が真っ赤になる。ユキウラは真っ赤な顔のまま、サナに近付く。ユキウラの唇がサナの唇に触れたかと思うと、すぐに離れた。
「すみません……」
ユキウラは申し訳なさそうにうつむいた。サナは思い切って、自分からユキウラにくちづけた。ユキウラがぐっとサナの体を抱き寄せる。彼の息遣い、体温に頭がとろけそうだった。
キスはだんだんと深くなっていき、二人の息遣いも荒くなっていく。お互い興奮している。互いの服をどちらからともなく乱す。剥き出しになった首や鎖骨、様々なところにキスを降らせる。
「ゆ、ゆきうらく……やっぱこんなところじゃ……」
「すみません、もう我慢できない……」
滅多に人が来ないとはいえ、絶対に誰も来ないとは言い切れない。だが、一度入ってしまったスイッチを切る方法は一つしかない。
ユキウラが、サナのスカートの下に手を滑り込ませる。火照った太腿に、ユキウラの指先が触れる。指が太腿をゆっくりと撫でながら、上へ進んでいく。
「……っ」
指先が、下着越しに肉芽に触れた。
「あの……パンツ、濡れてます。脱いだ方がいいかも」
「そ、そうだね」
サナは何がそうなんだと内心自分にツッコミを入れながら、下着を脱ぐ。脚と脚の間がすーすーする。サナは、ぐっと力を込めて足を閉じた。
「足、広げてください」
「え? で、でも……変な感じで………」
「いいから」
そう言うとユキウラはしゃがみこみ、サナの脚を無理やり広げた。そして、スカートの中に顔を入れるようにして……。
「ちょっと、ユキウラく……」
敏感な場所に、濡れた何かやわらかいものが触れた。
「そんなところ……」
太腿に当たるユキウラの髪がくすぐったい。ユキウラに舐められた場所がさらに熱を帯びていくのがわかる。自分でも知らない体の内側から、どんどん愛液がこぼれ出ていく。
「ぁあ、はっ……はぁ、は……っ」
「どうしよう……舐めきれないっす」
「そ、それは……ユキウ……あ、ぁあ……だ、だめ……」
舌の動きは止まらない。サナは立っているのもやっとになってきた。
「そろそろ、いいですよね」
そう言うと、ユキウラはズボンのポケットからゴムを取り出した。
「それ、用意してたの?」
「う。なんつーか。もうすぐバレンタインだし、少しくらい期待しても許されるかなって。まさか、本当にこうなるとまでは思ってなかったっすけど」
照れくさそうに、ユキウラがそっぽを向く。
「ウルシマ先輩。後ろ向いてください。手すりに、手をついて」
「こ、こうかな……?」
ユキウラはスカートを捲し上げると、両手でサナの臀部を掴んで少し押し広げた。秘所が丸見えになる。濡れた肉が、ぬらぬらと光っていて、時折ひくひくと動く。
「いれますよ」
ユキウラは蜜壺の入り口に肉棒を押し当てると、そのままぐっと力を込めた。すっかり濡れたサナのそこは、すんなりと肉棒を受け入れる。あっという間に奥まで入ってしまった。
「あっ、あ……ゆ、ゆき……あ、ん……」
「やば、きもち……」
彼はそのまま、ゆっくりと腰を動かし始めた。肉棒が肉壁に擦れるたび、快感が電流のように体を駆け巡る。サナは手すりに掴まっているのがやっとだった。
「あん、ふっ……はっ、はあっ、はあ……ああ、あ……」
肉のはじける音が階段に響く。誰か見に来るんじゃないかというスリルが興奮度を増す。
「……はぁ、はぁ、あぅ……ぁああっ」
スリルも相まって、サナはあっという間に達してしまった。
「俺もそろそろイッていいっすか……」
「だ、だめ……っあ。ああ! ……もっとぉ……っ!」
「そう言われても……」
ユキウラの動きがだんだん早くなっていく。
「ぁあっ! う……ぅっ…あ、ぁん……は、はっ……」
サナの中で、肉棒がびくんと動くのを感じた。
◆ ◆ ◆
「で? 明日くれるんすか、チョコ」
「無理だよ。もうこんな時間だし、くたくただよ。来年、あげるから許して」
「えー……。じゃあ、明日もさせてくれたら、許します」
サナは腰をさすりながら苦笑いを浮かべた。