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シュガール(NL/口移し)

カタラーナ様のリクエスト作品です。リクエストありがとうございました!


 酒場で給仕として一日中働いたサナは、すっかり疲れ切っていた。重い酒を、少なくとも合計で100リットルは運んだ気がする。いつものこととはいえ、もう今日は腕が上がらない。足も棒のようだ。今夜は早めに眠ってしまいたい。サナは自宅の扉の鍵を開けようとして、「……あれ、開いている」と呟いた。

「シュガール……」

 サナは扉を開け、キッチンで当たり前のように何かを作っている男の名前を呟いた。柔らかそうな栗色の髪を揺らしながら、シュガールはゆっくりと振り返った。少し垂れた目を細めながら「……ああ、サナ。やっと帰ってきてくれた……ふふ、君を待っている間、何時間もひとりで雨に打たれているような気分だったよ。でも……君を想って砂糖のように溶けてしまうなら……それも悪くないかも」と微笑んだ。

「来るのは構わないけど、鍵は閉めてよ。不用心でしょう?」

 そう言いながら、サナは鍵をかけた。

「おや、この街に泥棒なんかいないよ、サナ。それとも……僕が鉢合わせたらまずい”誰かさん”が来る予定でもあったのかな?」

 サナはため息を吐いて「あなたが来る予定すらなかったんだけど?」と睨んだ。この男はどこまでもずるい。サナに気があるようなふりをして、嫉妬や独占欲めいたものをちらつかせる。恋人でもなんでもないのに。

 シュガールと初めて会ったのは、サナの勤め先の酒場だった。閉店後、酒樽に抱きついて眠る彼を介抱していたはずだったのだが、気が付けば自宅に上がりこまれていた。この男が酔いつぶれたふりをしていただけだとわかった頃には、もう遅かった。甘い囁きと、繊細な指使いで、すっかり流されてしまった。気を失うほど楽しんだ翌朝、サナがベッドで目を覚ますころ、シュガールは勝手にキッチンを使って朝食を作っていた。それから、シュガールはたびたびサナの家に来るようになり、恋人未満の関係がずるずると続いている。

「……機嫌が悪そうだ。疲れているのかい?」

 シュガールはそういうと、サナに口づけた。これまで、唇だけではなく、身体も幾度となく重ねてきた。だが、サナはシュガールのことをほとんど知らない。甘いものが大好きで、シュガールと名乗っていることくらいしか知らないのだ。どこに住んでいて、普段は何をしているのかすら知らない。何度か聞いてみたことはあったが、妙な回答しか返してもらえなかった。おそらく、はぐらかされたのだろう。そのうち、サナも彼にあれこれ尋ねるのはやめてしまった。シュガールという名前だって、偽名かもしれないのだが、別にそれでも構わなかった。……彼に会えるだけで、嬉しかったから。

「別に……いつも通りでしょう」

 そう答えたサナの顔を、シュガールが困ったような表情で覗き込む。

「何でも話してくれたらいいのに。君の唇は、いつも温かなイチゴジャムのように甘いけれど……同時にとても苦しい味がする」

 自分は何も話してくれないくせに、そんなことを言うのか。サナは就業中にのみ見せる作り笑顔を浮かべると「何でもないってば。それより……何を作っていたの?」とキッチンの方を指さした。

「あぁ……実は、まだ何もできていないんだ。ミルクチョコとキャラメルを溶かして、これから何を作ろうかなって考えていたところで……あ、でもこのまま食べても美味しいよ」

 シュガールはスプーンで溶けたチョコレートを掬って口に運んだ。口の隅に着いたチョコレートを、ぺろりと舐めとる。

「うん、美味しい。君もどう?」

 サナは首を横に振って「私はいい」と断ったが、シュガールはスプーンでチョコレートを掬うと、彼女の口の前に差し出した。

「ほら、口を開けて。あーん……」

 どうしても食べさせるつもりらしい。サナは仕方なく、口を少しだけ開けた。ゆっくりとスプーンが口内に入れられる。温かで甘いチョコレートが、口の中に広がり、思わず頬が緩む。そんなサナを見て、シュガールは嬉しそうにもう一杯チョコレートをスプーンで掬って口に含んだ。そして、そのままサナに口づけると、彼女の舌の上にチョコレートを流し込んだ。唇が離れると、シュガールは悪戯っぽく笑った。シュガールにキスで注ぎ込まれたチョコレートを、ゆっくりと飲み込む。

「ね……美味しいでしょ? 不思議だよね。君と”分け合って”食べると、特に甘くて美味しくなる。ねえ……帰ってきた時はあんなに不機嫌そうだったのに、今は……すっかり蕩けた表情しちゃって……ふふ、このまま君のことを食べちゃってもいいかな?」

 そう問いかけながらも、シュガールはサナの返答を待たない。再び唇を重ね、先ほどよりも深く深く、くちづける。舌が絡み合い、互いの息を奪い合う。唇が離される頃には、二人とも息が荒くなっていた。

 シュガールは、サナの手を取ると、そのまま指先を口に含んだ。少し冷えた彼女の指先を、温かな舌で包む。続いて手の甲や手首、腕、肩へと順にキスを落とす。鎖骨の窪みに舌を這わせ、首筋を指先で撫でながら、サナの衣服のボタンを外していく。柔らかな肌が露わになると、彼はすぐに先端に舌を這わせた。

「んっ……」

「ふふ……感じているのを隠せない君が、最高に可愛い……」

 シュガールは大きな手で包み込むように胸を柔らかく揉みながら、先端を吸い、ゆっくりと円を描くように舌先で撫でる。サナがぴくりと震えれば、彼は満足気に目を細める。甘い快感の波がいくつも押し寄せてきて、立っていることすら難しくなってきたサナが、だらりとシュガールにしがみつくように抱きつくと、彼はそんな彼女を抱き上げ、「ベッドに行こうか」と耳元で囁いた。

 ベッドの上へサナをそっと下ろすと、シュガールは彼女の脚を開いた。指先で膝裏をなぞり、太ももに舌を這わせる。下着越しに秘所をちゅっと吸われ、サナの身体がびくっと震える。

「は……んん……シュガール……んっ」

 シュガールによって、ゆっくりとサナの下着がずらされる。

「うわ……もうこんなにとろとろになってる……僕のキス、そんなに良かった?」

 サナが小さく「まあね」というと、シュガールは嬉しそうに笑う。舌先で肉芽を舐めた後、入り口の周りに舌を這わせる。温かな舌で触れられるたび、奥から蜜が溢れる。もう一度、肉芽を舌先でくすぐるように触れたあと、中にぐっと舌を奥まで入れた。

「んっ、あぁ……っ」

 サナの腰がびくんと跳ねる。柔らかな内側の壁を舌で撫でられると、甘い痺れが身体の内側を中心に広がっていく。

「あ……シュガール……ッ!」

 サナが背中を大きく反らせ、達してしまうと、シュガールはベルトを外し、怒張した己を取り出した。耳元で甘く熱く「何もかもあげるから、全部ちょうだい……」と囁きながら、熱を優しくも深く、沈めていく。根元まで沈めきってしまうと、シュガールは緩やかに腰を動かし始めた。じゅぷ、じゅぷという愛液越しに肉棒と蜜壺の内側が擦れ合う音が淫靡に響く。

「はぁ……やっぱり、サナの中……好きだなぁ。熱くて、柔らかくて、僕を吸い上げる……」

 ゆっくりと入り口付近まで引き抜き、最奥まで突き上げる。緩慢だが、動きは大きく、最奥に当たるたび、サナの喉からはくぐもった声が漏れる。甘く、深く溶け合ってしまうような感覚。どこまでが自分で、どこからがシュガールなのか。互いの存在の輪郭がぼやけて、完全にひとつになってしまったかのようだ。

「あっ、シュガール、好き……ん、はぁっ……」

 快感と幸福感に包まれたサナの口から、普段はけして口にしないようなシュガールへの想いが零れた。彼はけしてそれを聞き逃さない。唇を塞ぎ、舌を絡めながら「僕も、大好きだ」とキスの合間に囁く。

「ごめん、もう限界……」

 シュガールはそう言いながら、汗で濡れた額と額を合わせながら、腰をびくっと震わせた。子宮口にぴたりと肉棒の先端をくっつけたまま、白濁とした液体を注ぎ込む。二人は抱き合ったまま、そのまま眠りについた。

 ◆ ◆ ◆

 翌朝、サナが目覚めると、ベッドにシュガールの姿はなく、例のごとくキッチンのほうで物音がする。キッチンへ行くと、バターと何やら甘い香りが漂っている。

「おはよう、サナ。朝食、食べるよね?」

「おはよう、シュガール……」

 テーブルには、バターがたっぷりと使われたクロワッサンに、スライスしたバナナ……それだけで十分なはずだが、恐ろしいことに蜂蜜がたっぷりとかけられている。極端に甘いものが好きな彼らしい。サナは椅子に腰を下ろすと、クロワッサンを手にした。蜂蜜を少し皿の上に落としてからかぶりつく。

「……ところで、シュガール。あなたって、どこに住んでいるの? 何をしている人なの?」

 サナの問いに、シュガールがきょとんとする。

「あれ……? 前にも言わなかったっけ。住んでいるのは、お菓子の家だよ。それから……僕は、悪い魔法使い」

 まただ。またそうやって、適当なことを言って、はぐらかす。サナがため息を吐くと、シュガールは優しく微笑んだ。

「あ。信じていないね? いつでも来ていいよ。おいでよ、”俺”のお菓子の家へ。もし来てくれたら……もう二度と帰してあげないけれど」

 シュガールに合い鍵は渡していない。しかし、彼はいつもサナの家のドアを開けてしまう。現れるときも、いなくなるときも、いつも突然だ。だから、魔法使いというのは、本当なのかもしれない。そうでなければ、説明がつかないから。

 シュガールが魔法使いでも構わないが、次、また同じようにサナの前に現れてくれる保障はどこにもないのだ。気まぐれか、恋心か……真意は不明だが、シュガールは足繫く通ってきてくれてはいるものの、それもいつまで続くかはわからない。それならば、いっそ、この男の“お菓子の家”とやらに行ってしまった方がいいのかもしれない。

 黙ったまま、思考を巡らせるサナを、シュガールは穏やかな表情で見守る。だが、その瞳はどこまでも貪欲で、サナをけして逃がすつもりはない……そんな鈍い光を放つものだった。