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祀り、花嫁を捧げよ(NL/無理やり/人外)

 地方の大学に納品説明を終えたサナは、車で山道を走っていた。すでに日は沈みかけている。今日中に帰れるだろうか。そんなことを考えていると、ピリリ……という電子音がした。ちらりとスマホの方を見ると、上司からの着信だとわかった。サナは道路端に停車すると、電話にでた。

「はい、ウルシマです」

『お疲れ様です。モガミです。納品説明は、どうだった』

「特に問題なく終わりましたよ」

『それはよかった。あの先生、ちょっと癖があるからね。心配していました。でも、何もなかったのなら、よかった。今は帰り? 慣れない山道で、運転大変だろうけど、気を付けて帰ってね。じゃあ、また明日』

「はい、ありがとうございます。失礼します」

 電話を切った瞬間、車がゴロゴロゴロという変な音を立てたかと思うと、エンジンが停止した。

「……は?」

 サナは慌ててエンジンをかけ直す。エンジンが一瞬震えるだけで、一向にかからない。いきなりエンジンがいかれてしまうなんてことは初めてだったが、車の故障は慣れっこだ。社用車は古い型のものばかりで、どれもガタがきている。今乗っている車も、10年以上前のもので、走行距離は10キロを優に超えている。

 ロードサービスに連絡しよう。サナはスマホのアドレス帳に登録された番号を探して、かけようとした。

「あれ?」

 スマホの上の方に、圏外と表示されている。先ほどまで上司と電話できていたのに。妙だとは思ったが、電波を求めて、サナは車を降りた。壊れてしまったのが、比較的広いところで、たまたま路肩に停めているときで良かった。十分に整備されていないこの古い山道では、場所によっては車一台がようやく通れるくらいの幅しかないところもある。そういうところで故障していたら、見通しも悪いので他の車が突っ込んでくる可能性があった。そうでなくても、大渋滞を巻き起こすきっかけになってしまっただろう。社用車にはがっつり社名が記載されているから、「■■■社は迷惑な会社だな」と近隣住民に思われてしまうかもしれない。

 とにかく、最悪の事態は避けられた。サナは車を施錠し、道路を進んでいく。十分ほど歩いたが、スマホの表示は圏外のままだ。この際、電場を探すのは諦めて、通りかかる車にふもとまで乗せて行ってもらおうかとも思ったが、なかなか車はやってこない。

 あたりも暗くなってきた。そんなとき、大きな鳥居が目に入った。神社だろう。そうだ、電話を貸してもらって、ロードサービスを呼ぼう。サナは、鳥居の奥へと足を進めた。

 駐車場はなさそうだし、こんな山奥にわざわざ参拝に来る者もいるとは思えなかったが、参道はよく整備されていた。綺麗な石畳が続く。周りは木々で覆われていて、静寂の中、サナのヒールの音だけが響く。

「どうしました?」

 振り返ると、和服を着た若い男性が立っていた。優しそうな男だった。

「すみません、お電話を貸していただけませんか」

「構いませんよ、どうぞこちらへ」

 男が案内してくれた先には、古びた日本家屋だった。サナは「お邪魔します」と小さな声で言うと、さっそく電話を借りた。スマホに表示されている番号を確認しながら、電話をかける。発信音のあと、電話が繋がった。

『はい、お電話ありがとうございます。こち……ら……ザ、ザ……どうなさいましたか?』

「車が急に動かなくなってしまったんです」

『それはご不安……ザザ、ザー、ザーーーー……』

 通信障害だろうか。サナは「あの、聞こえていますか?」とか「もしもし?」と声をかけてみるが、しばらく耳障りな音しか聞こえてこなかった。サナは仕方がなく、受話器を置いた。落胆するサナに、着物の男が微笑みかける。

「盗み聞きするつもりはなかったのですが……お困りのようですね。車を出して、ふもとまで送りますよ。ただ、夜は霧が濃くて危険なので、明日の朝になってしまいますが。今晩は泊まって行ってください」

 渡りに船だ。サナは申し訳なさそうに頭を下げた。

「ありがとうございます。ほんっとうに、助かります」

 なんていい人なのだろう。明日の午前中の会議には間に合わないが、仕方がない。明日の朝、どこか電波の届くところに出たら、すぐに上司に連絡を取ろう。今時、こんな親切な人がいるとは。

 着物の男は、トワと名乗った。苗字なのか、名前なのかも分からなかったが、サナも聞かなかった。トワは一見どこにでもいる普通の若者だが、落ち着きがあり、妙な色気があった。

 家屋の中は外観同様古びてはいたが、綺麗だった。サナは、客間と思われる部屋に案内された。壁には書や日本画がかけられ、部屋の中央には一枚板の立派な座卓が置かれていた。
「どうぞ、休んでいてください。疲れたでしょう。今、何か食べるものを用意します」

 サナはトワに促されるまま、座布団に腰かけた。トワは奥へ引っ込んでいった。縁側の向こうには、どこまでも暗い森が広がっている。夜風が心地よい。旅館でもやればいいのにと思うような場所だ。

 スマホを改めて確認したが、相変わらず圏外と表示されている。サナはため息を吐いた。仕方ない。こんな山奥なのだから。やがて、トワが食事を持って戻ってきた。

 食事をいただいた後、サナはお風呂まで貸してもらった。湯に浸かると、すっかり疲れが取れた。トワには感謝してもしきれない。部屋に戻ると、既に布団が敷かれていた。トワは「おやすみなさい。それでは、また明日」と言って、部屋から出て行った。

 ◆ ◆ ◆

 サナは目が覚めると、身体を起こし、ぐっと伸びをした。よく眠れた。だが、あたりはまだ真っ暗だった。スマホを確認すると、朝の7時過ぎ。何かがおかしい。混乱した頭で布団を抜け出すと、部屋を出て、そのまま外の様子を窺う。あたりは夜のように真っ暗で、深い霧が立ち込めている。昨日見た鳥居や参道すら見当たらない。

「お目覚めですか」

 トワに突然声をかけられ、驚いたサナは小さな悲鳴をあげた。

「ご、ごめんなさい。驚いてしまって。あの……外が……おかしくないですか。どうしてこんなに真っ暗なんでしょう。ああ、そうだ、ふもとには何時に送って行ってくれますか?」

 不安のせいか、言葉がまとまらない。トワは微笑んだ。

「こんな風に霧の濃い日は、車を出せません。危ないですからね。暗いのは、霧のせいですよ」

「でも、日は昇っているはずですよね?」

 サナの問いに、トワは微笑むだけで何も答えなかった。

 気味が悪い。サナは、昨晩知り合ったばかりのトワというこの男を、不気味に感じはじめていた。色々と親切にしてくれたから、つい心を許してしまった。だが、この男のことを何も知らないことに気が付く。どうして神社に居たのか、なぜ不便なこの場所に一人で暮らしているのか。

 てっきり、トワのことを神主だと思っていた。だが、神主が常駐する神社は少ない。ましてや、こんな山奥の誰も訪れないであろう神社に、神主が住み込みで居るなんて奇妙だ。不審者かもしれない。

「あの……車に忘れ物をしてきちゃって。大事なものなんです。その……取りに行ってきますね」

 トワは微笑むだけで、何も言わない。サナは彼から逃げ出すようにして、外へ出た。深い霧の中を、やや足早に進む。

「あれ……」

 トワのいる家に背を向けて、まっすぐ歩いていたはずだ。それなのに、目の前にあの日本家屋があるのはなぜだろう。よく似た家の可能性も考えたが、中から笑顔のトワが出てきた。つまり、あの家だ。

「どうしました?」

 トワの言葉を無視して、再び家を背にし、サナは走り出した。おかしい。どうなっているのだろう。

 深い霧の中をまっすぐ進む。だが、案の定、またあの家の前に出てしまった。サナは泣きそうな表情でトワに訊ねた。

「なんだか……おかしいんです、何か……わからないけど、あの……」

「何もおかしくありません。花嫁はこの家から離れられない。そういう呪いがかかっているんですよ」

「花嫁……? 呪い? 何を言っているんですか?」

 サナの声は震えていた。

「あなたは神の食べ物を口にし、身を清め、一晩ここで過ごした。花嫁の条件をすべて満たしたんです。ですから、もうどこにも行けないんですよ」

 わけがわからない。トワは不気味な笑みを浮かべている。なぜか急に眠くなってきた。サナは睡魔に抗おうとしたが、意識を保てなかった。

「優しくしますよ……待ちわびた花嫁なんですから」

 サナはその場に倒れた。

 ◆ ◆ ◆

 目を開けると、裸のトワが上に乗っていた。身体がだるく、頭がぼうっとしている。サナも衣服を身にまとっていない。

「目が覚めたようですね。さっそく、子作りをはじめましょう」

 トワの手が、サナの乳房に触れる。サナは身をよじるが、トワは微笑むだけで逃がしてくれなかった。彼は首筋にキスを落としながら、胸を丁寧に愛撫する。

「や、やめ……」

 次第に身体が敏感になっていく。彼の指先が触れるたびに、甘い声が漏れた。胸を優しく揉まれ、焦らすように色付く部分を指先でなぞられる。唇を重ねられ、口内に舌が滑り込んでくる。激しく口づけられ、息を奪われる。唇が離れた瞬間、トワはサナの胸の先端を指ではじき始めた。

「ああ、あっ……」

 サナは、快楽に身を委ねつつある。理性こそ残っているものの、身体はトワを受け入れようとしている。その証拠に、下腹部が疼いて仕方がない。蜜壺に溜まった愛液があふれだし、太ももまで濡らしている。

 トワは、サナの秘部に手を伸ばすと、指先で割れ目を押し広げた。彼は肉芽を剥き出しにすると、そこに舌を這わせ、丁寧に愛撫する。

「ひゃぁ、あっ……ん、ぁあ」

 サナはとろんとして、情けのない声をあげる。トワは強く何度も肉芽を吸い始めた。強烈な刺激に、どうにかなってしまいそうだった。快楽に耐え切れず、サナは叫び声を上げた。下半身が震え、膝がガクガクと震える。トワは口角をあげながら、肉芽を吸い続ける。

 サナは自身の口を手で塞ぎ、必死で声を抑えようとした。だが、腰は大きく跳ね、甘い叫び声は抑えきれなかった。サナは潮を迸らせ、達してしまった。頬を赤らめるサナをちらりと見て、彼は笑った。

 肉芽を吸ったまま、蜜壺に二本の指が挿し込まれた。トワはゆっくりと指を動かし始める。つい先ほど達したばかりのサナを、強制的に再度高みへと引き上げる。指先がサナの内側を撫でるたび、彼女は嬌声をあげる。理性など、どこかへ消え失せた。ただ快楽に身を委ね、身体を震わせて何度も達する。

「っん、あっ、ああ……んっ、は……ぁう……はっ」

 トワの手は止まらない。胸を愛撫され、肉芽を吸われ、蜜壺をかき回される。どれほどそうされていたかはわからない。肩で息をしているサナに、トワは優しく微笑んだ。

「そろそろ、良いでしょう」

 肉芽から口を離され、指が蜜壺から引き抜かれる。サナはぐったりとしている。身体は汗でびっしょりだ。呼吸はまだ整わず、目は潤んでいる。

 トワはサナの脚を持ち上げると、秘所へ肉棒を近づけた。先端が、指で散々かき回され、ぱっくりと口を開けたままになっている秘所にあてられる。

 サナにはもう、抵抗する気力さえ残っていなかった。トワは薄ら笑いを浮かべたまま、ゆっくりと挿入していく。身体の内側が、太く硬い異物に押し広げられていく。痛みこそ無いが、すべては入らないだろう。そう思ったが、トワは強引に根本まで己を沈めた。

「あ……ああっ、ん……や……」

 彼がゆっくりと腰を動かし始める。もう何も考えられない。ここがどんな場所だろうと、トワが何者だろうと構わない。仕事のことだってどうでもいい。今はただ、この快楽の波に身を任せ、飲まれていたい。

 穏やかな動きを続けていたトワだったが、突然変わった。

 腰使いは荒々しく、激しいものになった。サナの蜜壺は容赦なく突き上げられ、身体は激しく揺さぶられる。甘美な叫びをあげながら、サナは何度も達した。視界はぼやけ、身体は痺れたかのように力が入らない。

 息を切らしながらも、トワは一心不乱に腰を振り続ける。肉棒が蜜壺の最奥まで到達するたび、サナは大きな嬌声をあげた。

 そして、とうとうトワは最後の一突きを放った。これまでよりもずっと力強く、深くまで突き上げ、同時に熱く、濃厚な精液をサナの中にぶちまける。

「この時を、ずっと待っていたんです……ずっとずっと」

 まだ吐精は終わらない。重量感のある白濁とした体液が、サナの中を満たしていく。彼女は薄れゆく意識の中で、霧が晴れていくのを見た。

 ◆ ◆ ◆

 モガミは自分の部下を探しに、田舎町に来ていた。おそらく、彼女と最後に話したのはモガミだ。そのせいで、モガミは警察に取り調べを受ける羽目になった。だが、警察はモガミを容疑者と思っているような様子はなく、聞かれるのは電話でのサナの様子ばかりだった。警察は、自殺を疑っているようだった。

 しかし、モガミは警察と同じようには考えられなかった。彼女は、近々重要なポストにつく予定だった。自殺するとは思えない。それに、山中に乗り捨てられた社用車。その中には彼女のバッグも残されていた。彼女は車に戻るつもりだったはずだ。サナは何らかの理由でスマホを持って車を降りて、そのまま煙のように消えてしまった。

 モガミは、彼女が最後に立ち寄った納品先の大学を訪れた。

「そうか。ウルシマさんが行方不明に……」

 大きな窓のおかげで明るい、古い本の匂いがする研究室。教授は何やら考え込んだあと、「神隠しにあったのかもしれない」と呟いた。何を馬鹿な。人が一人消えてしまったというのに、ふざけている場合か。モガミは怒りを抑えつつ、教授に「どうしてそう思うのですか?」と尋ねた。

「昔、このあたりには恐ろしい神様がいたんだ。山に入った者をすべて殺してしまうような神様がね。村人は旅の僧侶に頼み込んで、その神様を封じ込めた。”あなたを祀り、花嫁を捧げる”と騙して、僧侶の張った結界の中に封じ込めたんだ。けれど、人間ごときが神様を封じ込めるなんて簡単にはできない。できるはずがないんだよ。僧侶は亡くなり、他にも大勢亡くなったという。”必ず花嫁を捧げる”と巫女が神様と約束を交わし、ようやく鎮まったんだ。巫女は賢くてね。花嫁を差し出すまでの期限を決めなかった。だから、神は鎮まったまま、人々は花嫁を捧げないまま過ごしていた」

「馬鹿な話を……」

 思わずモガミはそう言ってしまった。まずい、というように口を押さえたがもう遅い。だが、教授が怒り出すようなことはなかった。ただ静かに、彼は煙草に火を点けた。

「そうかい? まあ、そう思うのが普通だろう。だがね、ウルシマさんが乗っていた車があったという場所……その神を鎮めた社の側だったはずだ。気の毒に、彼女が花嫁として迎えられてしまうとは。ウルシマさんはこの土地の者ではないのに」

「あなたは、その社にウルシマがいるとお考えで?」

「ああ」

 モガミは少し考えたあと、念の為にその場所を探すのも悪くないと思った。荒唐無稽な話だとは思うが。
「社の場所を教えていただけますか? 一応、探してみま――」
「だめだ」

 教授は不機嫌そうに火を点けたばかりの煙草を灰皿に押し付けて消した。

「話を聞いていなかったのか。恐ろしい神様なんだよ。花嫁を取り上げてみろ。今度こそどうなるかわからない。そして何より……信仰心が薄れてしまった現代において、またあの神様を鎮められるような僧侶や巫女は居ない。怒らせたら終わりだ」

「ですが……」

 モガミが何かを言いかけたとき、何かが折れるような音がして、彼の頭がぐるんと二回転した。彼の身体が地面に倒れる。教授は震えながら、自分を落ち着かせるため、煙草に火を点けた。

 これは祟りだ。記録よりも、ずっと恐ろしい神ではないか。彼女を探そうとしただけの者が祟られ、殺された。もしや、長い時を経て、よりおぞましい存在になってしまったのか。それとも、何百年もの間待ちわびた花嫁を奪われまいと怒り狂っているのか。

「わ、私は探さない。絶対に……!」

 神によく聞こえるように、教授は大きな独り言を口にする。サナのことを気の毒だとは思う。だが、モガミのようになるのはごめんだ。

 深く煙を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。

 吐き出された煙草の煙は少しあたりを漂ったあと、完全に消えてしまった。香りだけを残して。