「わぁあああッ」
サナは盛大に顔から転んだ。エルヴィラが、サナの足を引っかけたのだ。エルヴィラとその取り巻きはクスクスと笑っている。ジニーは「サナ!」と叫ぶと駆け寄り、サナの身体を起こしてやった。「ねえ、大丈夫?」と心配そうにジニーが尋ねてくる。
「うん……大丈夫……」
じんじんと額が痛む。赤くなっているに違いなかった。攻撃魔法学の教師はため息を吐きながら、「サナ、ジニー、早く席に戻るんだ」と言うだけだった。魔法学園長の娘のエルヴィラはいつだっておとがめ無しだ。
◇ ◇ ◇
放課後、ジニーに呼ばれて魔法薬学の教室へ行くと、すでに部屋にいた彼女は何か作り始めていた。火にかけられた大鍋からは、目にしみる煙が湧き出ている。
「ジニー、それ酷いにおい。何を作っているの?」
「媚薬よ」
「媚薬? 何に使うのよ。好きな子でもできたの?」
「分からない? エルヴィラに使うのよ! あいつがいつも持っているミネラルウォーターに入れてやるの。あのくそ女に、恥をかかせてやりましょう」
「それは名案かもしれないけれど、このにおいをなんとかしなくちゃね。このままだとすぐバレるわ」
部屋は甘ったるい嫌なにおいで充満していた。
◇ ◇ ◇
あの後、二人で試行錯誤を重ね、なんとか媚薬のにおいを消すことに成功した。終わる頃には日付が変わっていた。けして成績が良いわけではない二人にしては、驚くべき成果と言えた。
ミネラルウオーターへの混入は、ジニーがうまくやった。サナとジニーはエルヴィラの変化を待つだけとなった。
エルヴィラは、普段から高い頻度でミネラルウオーターを飲んでいる。そろそろ効いてきてもおかしくは無いのだが、エルヴィラは、いつもと変わらぬ様子で取り巻きたちと談笑している。まさか、においを消すだけでは無く、効果まで消してしまったのだろうか。
ジニーとサナは顔を見合わせた。お互い何を考えているのか分かった。
――失敗だね。
失敗したとしても、別に構わない。媚薬をもう一度作れば良いだけだ。今度はもっとうまくやれるはずだ。二人ともそんなことを考え始めていた頃、エルヴィラがこちらに向かってくるのが見えた。もしや、媚薬を盛ったことがばれたのか。
「何か用?」
ジニーがエルヴィラを睨む。エルヴィラがサナの肩に手を置いた。肩に置かれた手が熱い。媚薬は効いていたのだ! この喜びをジニーに伝えたかったが、媚薬を盛った相手が側に居る間は不可能だ。
「ウルシマを借りていくわよ」
「は?」
ぽかんとしているジニーとサナ。エルヴィラはサナの腕を掴むと、無理矢理立たせ、そのまま教室の外へ連れ去ってしまった。
◇ ◇ ◇
「ちょっと、離してよ!」
サナは必死に抵抗するが、エルヴィラの力は想像以上に強く、ほとんど無意味に思われた。
「離さないわ。あなたたちが私に媚薬を盛ったことは分かっているのよ」
「っ!」
「私に恥をかかせるつもりだったんでしょう? 馬鹿ね。あなたに恥をかかせてやるわ」
サナが連れてこられたのはエルヴィラの部屋だった。学生たちは皆4人部屋だというのに、エルヴィラは専用の立派な部屋を与えられていた。部屋の鍵を閉めると、エルヴィラは魔法撮影機を起動させた。
「さあ、服を脱ぎなさい」
「嫌よ! 絶対、嫌」
今服を脱げば、魔法撮影機で撮影され、記録が残る。撮影されていなくても、エルヴィラの前で服を脱ぐなんてごめんだ。
「ウルシマ、あなたに拒否権は無い。私は、お父様にこれを提出したって良いのよ」
そう言って、エルヴィラは媚薬が盛られたミネラルウオーターのボトルを見せた。それを学園長に渡されたら、サナもジニーも一巻の終わりだ。退学は間違いない。その後一生、魔法学園退学処分の不名誉はついて回る。仕事も選べなくなるだろうし、家族にも迷惑がかかる。自分たちはなんて軽率だったのだろう。今更後悔しても、もう遅いが。
「わかった。脱ぐ。脱ぐけど、それを処分するって約束して」
「いいわ。脱いだら、処分してあげる」
「約束よ」
サナはケープ、スカートと脱いでいった。脱いだ衣服は無造作に床に落としていく。靴下を脱ぎ、サナの手が止まった。
「分かっていると思うけど、全部脱ぐのよ。ブラウスも、下着も」
サナは「言われなくても分かっているわ」と言うと、ブラウスのボタンを外していく。最後までボタンを外すと、袖から腕を抜き、ブラウスも床に落とした。
「ウルシマ、後で見せてあげるわ。すごく良い感じに撮れてるから。ほら、下着も脱いで」
魔法撮影機を覗き込むエルヴィラがくすくすと笑いながら、そう言った。サナは下着も脱ぎ捨てた。腕で胸と股間を隠しながら、泣き出したい気持ちで立っていた。
「よくできました。約束通り、これを処分しましょうね」
エルヴィラは、ミネラルウオーターを飲んだ。ごぼごぼと音を立てて、ボトルの中の液体が減っていく。
――正気か?
媚薬と知りながらも、がぶがぶ飲むエルヴィラ。サナは本当に余計なことをしてしまったと後悔し始めていた。
「はあ……全部一気に飲むのは無理だわ。ほら、後はあなたが飲みなさい」
差し出されたボトルを、サナは受け取った。床に零してしまいたかったが、そんなことをしたら、今度は何をされるか分からなかった。
大丈夫。ジニーと自分が、完璧な媚薬を作れる訳がない。飲んでも大丈夫。
意を決して、サナはボトルに残った僅かばかりの媚薬を飲み干した。その様子を見たエルヴィラは満足そうに微笑み、サナの手から自分のボトルを取り返した。
ほら、やはり効かないじゃ無いか――そう思った瞬間、急に体温が上がり始めた。心臓がバクバクして、身体が熱い。泣きたくないのに涙が出てきて、死んでしまうのでは無いかとすら思われた。
「エルヴィラ……」
どうしてあなたは大丈夫なの。
「よく効くわよね、これ。作り方を教えて欲しいくらいだわ」
「……」
「つらいでしょう。いいのよ、私のベットに横になっても」
エルヴィラのベットに触るなんて死んでもごめんだったが、もうこれ以上立っていられなかったサナは、彼女のベットに倒れ込むように横になった。仰向けになると、背中に触れるシーツの冷たさが心地よかった。
魔法撮影機の方に足を向けて横になったため、潤う秘部がしっかりと映っていたが、もうどうでもよかった。エルヴィラががさがさと何かしている。それももう、どうでもよかった。
「楽しいのはこれからよ」
いつの間にか全裸になっているエルヴィラが、サナにまたがる。そして、サナの顔に彼女の秘部が近づいてきた。
「!?」
どういうつもりだと叫ぼうとした瞬間、身体がびくんと跳ねた。エルヴィラがサナの股に顔を埋め、秘部をぺろぺろと舐めている。
エルヴィラは、サナをとことん辱めようとしている。やられっぱなしでは面白くない。そう思ったサナは頭を持ち上げ、目の前にある彼女の剃毛された秘部を舐め始めた。そこは舐める前からすでに湿っていて、ぬらぬらと光っていた。
舌を蜜壺に可能な限り沈め、内側も舐めてやると、身体の上のエルヴィラが小刻みに震えるのが分かった。
「ふ、は……はあ……」
ぐちゅ、ぬちゅという水気の含んだ互いを舐める音と、二人の荒い吐息だけが聞こえる。エルヴィラの身体はサナの身体よりもずっと熱かった。
媚薬はちゃんと効いていた。
「ウルシマのくせに……っ、ああッ!」
エルヴィラは身体をぶるっと震わせたかと思うと、力が抜けてしまったのか、彼女の全体重がサナにかかる。
「重っ、ちょっと! 降りてよ」
エルヴィラはサナの上からよろよろと退くと、そのままふらふらの足で立ち上がった。
「重い?」
不機嫌そうな声でエルヴィラが問う。俯いているせいで、彼女の顔は髪で隠れ、どんな表情を浮かべているかは分からない。
「だって、いきなりだよ? 潰れるかと思ったよ」
エルヴィラはけして太ってはいなかったが、人体というのはそれなりの重さがある。
「酷い!」
そう叫びながらエルヴィラが顔を上げた。彼女は泣いていた。
「ちょっと……」
泣くほどでは無いだろうと思う反面、可哀想に思い、そっと彼女を抱きしめた。
「ごめん」
「うぅ~」
その後、しばらく彼女が泣き止むことは無かった。
◇ ◇ ◇
サナが教室に戻ると、ジニーが駆け寄ってきた。
「大丈夫だった!?」
「うん」
ジニーは「何があったの? 本当に大丈夫なの?」と心配そうだ。同じく教室に戻ったエルヴィラの方を見る。ばちっと目があった。しばらく見つめ合った後、どちらからともなく、目を逸らした。