昨日と同じように静かな岩場。魚人の姿はどこにもなかった。昨日のように岩に腰かけ、海を眺める。
『アノ……』
魚人が海面から頭を出している。サナはすかさず魚人の姿をカメラに収めた。
「昨日みたいに変なことをすれば、この写真をあの大騒ぎしている連中に渡す。そうなったら、魚人ブームはもっと長くなる。あなたも困るでしょう」
「ア……ウウ……昨日、オネガイシタカッタ。写真消シテッテ……」
「はあ? そんなこと一言も言わなかったでしょ」
「ダッテ、逃ゲヨウトスルカラ……」
「キスして胸まで触ったくせに、言い訳しないで」
「俺今発情期……コウヤッテ離レテバ、平気。本当ニゴメンナサイ」
魚人は昨夜、たしかにサナを襲ったが、途中でやめたのも事実だ。あの瞬間、我に返ったのだろう。
「……。私もいきなり写真撮ったりしてごめんなさい。昨日のも、さっきのも消す」
「アリガトウ……サヨウナラ」
魚人は海へと姿を消した。
この岩場には来るべきじゃなかったのかもしれない。ここはきっと、このあたりで魚人がくつろげる最後の場所だったのだ。
「もうここには来ないよ」
サナは海に向かって呟いた。魚人に聞こえたかは定かではない。