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05.岩場

「はいはい、信じるよ。魚人が来てこうなったんだよな」

 男性はため息をつきながら、畳を濡れた雑巾でぬぐっている。少しイラつているのか、いつもより不愛想だ。それも深夜にたたき起こされ、部屋をめちゃくちゃにされれば、仕方ないのかもしれないが……。

「畳も布団も弁償します……」

「弁償とかは大丈夫だよ。ただ、魚人が来たってのはなかなか信じられなくてさ」

「本当に来たの! キスされて、胸を触られて……」

「それ以上のこともか? 警察を呼んだ方がいいな」

「や、やっぱりなんでもないです……」

 魚人に襲われましたなんて誰も信じてくれないだろう。サナはため息を吐いた。

「変なこと言ってごめんなさい。私も手伝う……」

    ◆ ◆ ◆

 昨夜のことがあり、男性とはすっかり気まずくなってしまった。結局、男性の名前すらいまだに聞けていない。

「この旅で、何か特別なことが起きるような気がしていたのに……」

魚人との遭遇はたしかに特別なことかもしれないが、望んでいるような特別ではない。

気になるのは、魚人の言葉だ。

『明日モ、アノ岩場ニキテ』

「……」

 魚人は、サナに何か伝えたいことでもあるのだろうか。自分を襲った相手に会いに行くのは馬鹿げているが、気になるものは気になる。

サナはカバンからスタンガンとカメラを取り出すと、あの岩場に向かった。