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07.正体

駅前のお土産屋を見てから旅館に戻った。件の男性を見つけると、サナは話しかけた。

「明日チェックアウトしたいんです」

「なんで急に? 何か気に障るようなことでも……」

「変な風に聞こえるかもしれないけれど、魚人に静かに過ごしてほしくて」

「魚人は君がいてくれた方が喜ぶ」

「そうですかね。わかりませんよ、あなたは魚人じゃないんだから」

男性は唇を噛んだ。

「俺が魚人だって言ったらどうする?」

「どうしちゃったんです?」

 サナは最初苦笑いを浮かべていたが、男性の真剣な表情から冗談ではないことを悟った。
 
「……まだここにいてほしい。自分を面白がって探し回っているよそ者がたくさんいるんだ。怖いんだよ」

「本当に魚人なの……?」

    ◆ ◆ ◆

「母さんの話によれば、俺の父親が完全な魚人だったらしい。俺は……普段は人間だけれど、顔の大部分が濡れると魚人の姿になってしまう。試したければ、試すと良い」

 そう言って男性は、コップの入った水を渡した。サナは首を横に振った。

「信じるから。そんなことさせないで」

「ありがとう。俺も実はあまり、魚人で居たくないんだ。喋りにくいし、人に見られるわけにはいかないし、いつもより自分を抑えられなくなる。でも、しばらく海に入らないと、体中が痛むようになる。どうしてかはわからない。体が海を求めるんだ」

 そう言って、男性は拳を強く握りしめた。

「本当に済まない。君を襲うつもりはなかった」

「気にしないでとは言えないけれど……。発情期で仕方なかったんでしょう」

「それだけじゃない。この時期に魚人のことなんか興味のない観光客。わざわざなんで来たんだろうってずっと気になってた。昨日、君から汐の香りがして……それからずっとつらかった。君自体が海のように思えてつらかった」

 サナはそっと男性にキスをした。

「ねえ、名前を教えて。ずっと聞いてなかったの」

「言ってなかったっけ、ごめん。ソウタって言うんだ」

「ソウタくん、X町を案内してよ」

「ああ、一緒に行きたいところがたくさんあるよ」