アレク様が体中にキスを落とす。少しくすぐったいけれど、すごく愛されていると感じる。そばにいるだけで、満たされる。やはり好きなのだ。どうしても、嫌いになれなかった。弟と口を利くなと理不尽なことを言われても、あの薄暗い最悪の地下牢に閉じ込められても。
『わからないのか? 兄さまは、お前を本気で愛したりなどしない。知らないわけじゃないだろう。兄さまには婚約者がいるんだぞ』
いつかのシオドア様の言葉をふいに思い出す。
頭では、ちゃんとわかっている。王族は、庶民を本気で愛したりしない。
「愛しています」
嫌な気持ちをかき消すために愛の言葉を発した私の声は、思っていたよりもずっと震えていた。今にも泣きだしそうだった。けれど、嘘でもいいから「愛している」と言ってほしかった。
「僕もだよ」
そう言って、アレク様が本当に愛おしそうに私を見つめるから、私は錯覚してしまう。本当に彼が私を愛しているのではないかと。
明日、アレク様が婚約者と結婚してしまってもいい。私とのことは遊びでも構わない。今だけ、アレク様は私のもの。私にはそれで十分だ。
「アレク様、ベットに行きませんか」
アレク様は驚いたような表情を浮かべた。アレク様にそんなつもりはなかったのかもしれないと思うと、わずかに胸が苦しくなる。一人浮かれて、恥ずかしいことを口走ってしまったのかもしれない。たとえ今この瞬間ですら、アレク様は私のものにできないのかもしれない。そう思うと、ぽろぽろと涙が零れ落ちてきた。