「じゃあ、今日の授業はここまで。もし、何か質問があったら、私の研究室に――」
サナが言い終える前に、学生たちは「ありがとうございましたー」とわらわら教室を出ていってしまう。ここ、魔法学園では、ポーション学に興味のない学生が多い。魔法を極めれば、何でもできるようになるのに、どうしてちまちまポーションなんて作ったりするのか。
魔法学園に教授として着任したときは、あんなにも嬉しかったのに。あの有名な魔法学園で働けるなんて、と。サナはため息を吐きながら、授業に使った道具を片付けた。
◆ ◆ ◆
次の週、サナの教室に大きな変化があった。いつもは教室の後ろの方の席に学生たちがまばらに座っているだけなのだが、今日は違った。一番前の列に数人が着席している。その学生たちは皆、この国では珍しい褐色の肌に白髪。ダークエルフだ。隣国のダークエルフの王子が、今週から留学に来ているということは、学園の教授であるサナも知っていた。
おそらくその王子と、護衛たちだろう。だが、彼らがわざわざ自分の授業に参加するとは思ってもいなかった。この時間は、魔法に関するもっと魅力的な授業が多く行われている。もしかすると、まだどんな授業があるかを理解しておらず、とりあえずサナの授業に出ることにしたのかも知れない。だとしても、純粋に学生が増えることは嬉しかった。
サナは嬉しさのあまり、彼らに声をかけようとして、やめた。学園側からは、他の学生と同じように扱えと命じられている。……まあ、普通の教授と学生であれば、授業前後にとりとめのない会話を交わすこともあるのかも知れないが。
◆ ◆ ◆
授業中、ダークエルフたちがあまりにも熱心にサナの話を聞いてくれるので、かえって緊張してしまった。ようやく授業が終わり、いつもの決まり文句を述べる。
「じゃあ、今日の授業はここまでよ。何か質問があったら、私の研究室に――」
言い終える前に、ダークエルフの一人が教卓の上に分厚いポーション学の教科書をどんと置き、ページの一部を指差しながら「授業中、ずっと不思議でした。どうして火傷治療薬の材料に、ミツアカ草ではなく、キョウジョウ草を使うのですか。確かに教科書でもそのように記載されていますが、ミツアカ草の方が安価です」と一息で話した。サナが驚いて目を丸くしていると、彼は恥ずかしそうに顔を赤らめ、教卓に置いた教科書をぱたんと閉じて、胸の前で抱えた。
「これはとんだ失礼を。申しわけありません。あの……ウルシマ教授、質問をしてもよろしいでしょうか」
「ち、違うの、違うの! ええと、何も違わないんだけど……その、私に質問してくる学生なんて……ああ、そうじゃないわ。とにかく、質問はいつでも歓迎よ!」
サナの言葉に彼は目を輝かせた。再度質問をするために、教科書のページをペラペラと捲り始めたが、なかなか目当ての場所を見つけられない。サナは「83ページよ」と教えてやった。彼はそのページを開くと、再び教卓の上に載せた。
サナは該当箇所を指差しながら「先程のあなたの質問だけれど……間違ってはいないわ。たしかに、ミツアカ草を使った場合も、同等の効果を持つポーションが作れる。ただし、ミツアカ草を使うと、副作用が……」と丁寧に説明してやると、彼は満面の笑みを浮かべて礼を言った。
◆ ◆ ◆
その後も、ダークエルフたちはサナの授業に参加した。最初の授業で質問してきた彼は、イアンといい、彼こそがダークエルフの王子だとわかった。護衛のダークエルフたちが質問をしてくることもあったけれど、最も熱心なのはイアンだった。
数ヶ月も経つと、イアンは護衛も連れずに、サナの研究室に入り浸るようになっていた。
「そう言えば、ウルシマ教授。僕もポーションを作ってみたんです。試してみてくれませんか」
そう言って渡された小瓶には、桃色の液体が入っていた。サナは小瓶を軽く振ったり、匂いを嗅いでみたりした。回復ポーションでも、治療薬系でもないようだ。
「これは……何のポーション?」
「はは、あててみてください。ポーション学の教授なら、わかるでしょう?」
イアンは挑戦的な笑みを浮かべた。サナはムキになって……ポーションをぺろりと少し舐めた。
その瞬間、からだがかっと熱くなった。鼓動が早くなる。
「これは……媚薬?」
サナがそう言うと、イアンは「あたりです、さすがですね!」と悪戯っぽく笑った。サナはふらふらしながら、治療薬……中和剤……何でも良いから、とにかく作ろうとした。だが、イアンが後ろから抱きしめて邪魔をする。
「な、何を……放して……」
「だって、媚薬の効果を消そうとしているんでしょう? そんなの困ります。身体の火照りなら、僕に任せてくださいよ」
ダークエルフは、人間よりも力が弱いはずだ。だが、彼の力は思ったよりもずっと強く、振り払えなかった。すぐ後ろで、イアンの声がする。
「僕に身を任せてください……」
「ダメよ、こんなの……間違っている……」
サナの言葉を無視して、イアンは彼女の胸を優しく揉む。服の上から硬くなった先端を探し当て、指先で弾いたり、撫でたりする。
「ひゃっ……やめ……」
サナの身体がびくんと跳ねる。さらに、耳や首筋に舌を這わせたり、キスを落としたり……。
「は……はぁ……んん……ぁああっ、あっ、はぁ……」
身体は火照り、イアンを求めている。だが、まだ頭ははっきりとしていて、こんなことはあってはならないのだと警告を出し続ける。
イアンはぐったりとしたサナをテーブルの上に座らせると、その正面に立ち、唇を重ねてきた。口内に侵入してきた舌が、歯列をなぞり、頬の内側を擦る。何とも言えない幸福感に支配され、サナは抵抗をやめてしまった。呼吸を忘れたように、深く長いキスを続ける。
どのくらい時間が経っただろうか。ようやく離れた二人は、息を切らしながら見つめ合っていた。滑らかな褐色の肌と白い髪は、それぞれ艶があり柔らかそうだ。思わず触れてしまいたくなる。意志の強そうな瞳はまっすぐとサナを見ている。彼が瞬きをするたびに、長い睫毛が揺れる。
「もうだめよ……これ以上は。すぐに出ていくのよ……そうしたら、誰にも言わないから」
サナの声は言葉とは裏腹に熱っぽく、少し震えていた。
「僕には、こんな状態のウルシマ教授を一人にすることなんて……できませんよ」
そう言うと、サナのスカートを捲り上げ、ショーツをずらす。濡れているそこは、イアンの指先で優しく撫でられると、すぐに反応を示した。
「大丈夫ですよ。すぐに良くなりますからね……」
イアンが自分のズボンを下ろし始めたのを見て、急いで止めようとするが、手が震えて上手く動かない。イアンはそんなサナを見て笑うと、己のモノを彼女のそこにあてがった。サナ自身は抵抗するが、身体は勝手に受け入れようとしている。先端が、ゆっくりと中へと挿入されていく。
「ぁあああッ」
そのまま奥まで突き込むと、イアンは腰を振り始めた。何度も激しく打ち付けられるたびに、サナの声が部屋に響いた。
「あっ、あん……ん、ああっ……あ゛ッ……ん゛っ……」
教授としての威厳や誇りを捨てたかのように、サナは乱れた。もはや理性など残っておらず、ただ快楽に身を委ねる。何度も達して、気がつけばイアンを抱きしめ、自ら唇を重ねていた。
イアンの動きは激しさを増していく。サナが達するのと同時に、最奥で肉棒がびくんと震えた。サナの火照った体内よりも熱い液体が、どくどくと注ぎ込まれる。
「ウルシマ教授……次の授業も楽しみにしています」
そう言ってイアンはサナにキスをした。
◆ ◆ ◆
次の授業にも、何事もなかったかのようにイアンは現れた。
自分にあんなことをしておいて、よくも。サナはイアンを睨みつけた。だが、イアンは全く気にしていない様子で、それどころかウインクなんてしてくる。
授業が終わると、例のごとくイアンが近づいてきた。
「ウルシマ教授、よろしいですか」
「……ええ、何かしら」
「またポーションを作ったんですよ。何のポーションか、当てていただけますか?」
イアンが意地悪そうに笑った。