サナは、大商人であるアーヴィンの召し使いである。客先への配達や訪問の際の荷物持ち、店の掃除、キッチンのネズミの駆除……あらゆる雑用をやらされている。
「うう……重い……」
馬車から下ろした荷物に押しつぶされそうになっているサナを、アーヴィンはちらりと見ると「もっとキビキビ動けないのか?」と言った。汗だくで額に髪を貼り付けているサナ。一方、アーヴィンは美しい金髪を風になびかせている。彼の裸を見たことはないが、洒落た服の下には適度な筋肉がついているだろうことを想像できる。
「自分でお持ちになるか、男性を雇ったらいかがですか」
大商人である彼に、召し使いを追加で十人雇うくらいどうということはないはずだ。少なくとも、男の召し使いを追加で一人雇えばいいのにとサナはいつも思ってしまう。だが、それと同時に、自分と入れ替えに男の召し使いを雇うつもりになったらどうしようと心配もしている。ここの給金は非常にいい。普通であれば、召し使いの給金は力仕事もこなせる男のほうが良い。だが、サナの給金は一般的な男性のそれよりも高い。
そして何より、アーヴィンに密かな恋心を抱いているサナとしては、彼の側から離れたくはなかった。
「いいから、さっさとしろ」
今日は、貴族の屋敷にやってきた。出迎えに現れたメイドが、サナを見てくすりと笑った。汗だくで大荷物を運んでいる女は、彼女にとって滑稽な存在だったようだ。サナは恥ずかしさで俯いた。
「何をしている。さっさと行くぞ」
アーヴィンの声に顔をあげると、自分の主人がいつの間にか少し離れた場所にいるのが見えた。サナは急いで駆け寄った。
◆ ◆ ◆
「ふうむ……では、これとこれをいただこう。ところで、これの赤以外の色はないのかな?」
サナが苦労して持ってきた品々が、次々と購入される。ここまで運んできた甲斐があったというものだ。この貴族はまだ年若い男なのだが、かなり金回りが良いようで、いつも大量に買ってくれる。彼は、今でこそ貴族だが、生まれは平民だったという。その関係で、とにかく買い揃えるものが多いのだと、何年か前に言っていた。たしか、音楽の才能をかわれて国王お抱えの音楽家になったときに、爵位をもらったのだとも言っていた。
「残念ながら、色は赤のみなのですよ」
「そうなんだ。なら、赤をもらうよ」
アーヴィンは、サナには向けたことのないような笑顔を浮かべ「ありがとうございます」と頭を下げた。
「……ところで」
貴族は、ちらりとサナを見た。ばっちり目が合うと、貴族は頬を赤らめて、視線を逸らした。
「彼女を……紹介してもらうことはできるかな?」
アーヴィンは笑顔のまま「と、言いますと?」と尋ねた。
「ほら、彼女は君の召し使いだろう。彼女を譲ってくれないだろうか。召し使いとして、うちで雇いたいんだ」
サナはどきりとした。金の亡者であるアーヴィンは間違いなく、サナの紹介料を請求した上で、この男に譲るだろう。こんな形でアーヴィンと離れることになってしまうとは。「嫌です」と言いたいが、その立場にない。
「申し訳ありませんが、彼女をお譲りすることはできないんですよ」
アーヴィンは笑顔だったが、声の調子から反論を許すつもりはないらしい強い意志を感じた。アーヴィンが断るのは、サナにとって予想外だった。それは、貴族の男も同じだったらしく、一瞬驚いた表情を見せたあと、残念そうに「そうか、わかったよ。また、来月も来てくれ。頼みたいものがあったら、また手紙を書く」と言った。
◆ ◆ ◆
屋敷をあとにし、馬車に乗り込んでからというもの、珍しくアーヴィンが何も言わないので何だか気まずい雰囲気が流れていた。いつもであれば、どれくらい儲かったとか、次は何を仕入れようといった独り言をアーヴィンは話し始める。ところが今日はどうしたことか、無言のまま不機嫌そうに窓の外を見ている。
「あ、あの方は太っ腹ですね。今日も、いっぱい買ってくださいましたね。ね?」
サナが気を利かせてほとんど中身のない話題を振ってみたが、アーヴィンは無反応だった。
「……私、アーヴィン様のことを誤解していました。てっきり、お金のためなら、私をあの方に譲ると思っていました」
「……お前はどうなんだ? あの方の召し使いになりたいのか?」
アーヴィンは窓の外を見たままだ。まさか返答があると思っていなかったサナは驚きつつ「どうでしょう……」と言った。仕える相手を選べるような立場ではないから、回答に困る。「できれば、アーヴィン様の召し使いでいたいです」と言えてしまったら、楽なのに。主が顧客との関係を重視して、やはりあの貴族にサナを譲ろうと言うのであれば、それに従うだけだ。それがかねてよりサナの望んだことであったという風に振る舞うしかない。
「給金を倍にしてやろうか。それとも仕事がきついなら……」
「へ? 駄目ですよ! 今ですら十分いただいているのに、倍だなんて……」
突然のオファーに戸惑ってしまう。ただの召し使いにいくら金を使うつもりなのか。
「じゃあ、何が不満なんだ? それとも、あの方を気に入ったか?」
「不満なんてありませんし、そんな恐れ多いこともあり得ませんよ。今日は、どうされたんですか。何だか、変ですよ」
何かおかしな勘違いをされているような気がする。可能であれば誤解を解いておきたかったが、アーヴィンは相変わらず窓の外を見たまま、心ここにあらずといった様子だった。
◆ ◆ ◆
その晩、サナは珍しくアーヴィンの自室へ呼び出された。
「失礼します」
ノックの後、ドアを開けて入室する。アーヴィンは何やらソファで書類仕事の途中だったようだが、サナを見ると笑顔で迎え入れた。彼の機嫌は直ったらしい。サナはほっと胸を撫で下ろした。
そう言えば、アーヴィンの自室に入るのは初めてだ。部屋には二人がけのソファが一つと、ベッドが一つあった。儲かっている商人らしく、部屋にあるものはどれも高そうなものばかりだ。
「待っていたぞ、サナ。座ってくれ」
アーヴィンは自分の座るソファを指差した。サナは素直にソファに腰を下ろす。彼はソファに座ったまま、コーヒーテーブルに広げられた書類を片付けながら「実は、新しく扱おうと思っている商品があるんだ」と言った。
真面目な顔で話すアーヴィンに、サナも身を正す。自室に呼ばれたのだから、おそらくプライベートな話をされるものだとばかり想像していた。例えば、今日のことについて改めて話し合いたいとか、無いとは思うけれどやや強引に迫られるとか……。あれこれ想像、もとい妄想を膨らませていただけに、少しがっかりしてしまう。
(はは……それはそうよね……)
アーヴィンはまとめた書類を持って立ち上がると、棚に片付けた。そして、書類の代わりに棚から木箱を取ってくると、コーヒーテーブルの上に置いた。
「開けてみろ」
アーヴィンは木箱を指差した。木箱は重厚感のある作りで、高級品だろうことがわかる。サナは恐る恐る木箱を開けてみた。中には小瓶と男性器を模したもの、それから楕円形の何かが入っていた。
「これは……?」
「大人の玩具と媚薬だ。以前から、ご婦人方が扱ってくれとうるさかった」
性的な欲求を満たすための、こういった物の存在くらいは、サナも知っている。だが、実物を目にするのは初めてだった。
「へえ、たくさん売れるといいですね」
初心な女だと思われたくないサナは平常心を装う。
「ああ。そのためには、この品物をよく知っておく必要がある。お前にこれを試してもらいたい。もちろん、無理強いはしない」
そう言って、優しく微笑むアーヴィン。だが、彼の瞳には何か別の感情が交じっているようにも見えた。
「……ええと」
迷う。召し使いとして、主人の命令には従うべきだろう。だが、まだ心の整理がつかず、黙り込んでしまう。主……想い人の前で性的なものを試して見せるだなんて。考えただけで口から心臓が飛び出しそうだ。
「サナ、この話はなかったことにする。無理を言って悪かった。他の者に頼むとしよう」
この家の召し使いの女はサナだけだが、メイドはたくさんいる。他の女が、アーヴィンと二人きりで色っぽいことをする……想像したくもない。少し残念そうな表情で立ち上がろうとするアーヴィンを、サナは慌てて止めた。
「待ってください! 試してみます! 試させてください!」
意を決して答える。アーヴィンはほっとした様子で「ありがとう。助かる」と苦笑した。
「じゃあ、媚薬から試してもらえるか」
アーヴィンは木箱から小瓶を取り出した。中には桃色の液体が入っている。彼がキャップを開けると、甘酸っぱい香りがふわりと漂った。
「口うつしで飲んでもらう。いいな?」
サナは頷いた。アーヴィンは微笑み、小瓶の中身をスポイトで吸い上げる。そして、その先端を自分の口元へ運び、媚薬を口に含んだ。
サナはゆっくりと目を閉じた。柔らかな唇が触れる。口内に甘酸っぱい味が広がっていった。アーヴィンの温度が伝わり、心臓が高鳴る。
(……キスみたい。アーヴィン様は……どう思っているんだろう)
何も感じていないかもしれない。彼は、お金のためなら大抵のことはする。貴族のご婦人から「この場で媚薬を試したい」と言われたら、同じように口うつしで飲ませるに違いない。
唇が話され、液体はすぐに喉の奥へ消えていく。サナが目を開くと、少し心配そうにアーヴィンが「どうだ? 何か変化はあるか?」と尋ねてきた。
「いえ……。今のところは何も」
強がりでもなんでもない、本当のことだ。
(全然何とも無い。この薬は偽物なのかも……)
アーヴィンはがっかりするかもしれないと思ったが、特に何も感じていない様子だ。
「さて、次はこれだ」
アーヴィンは木箱から男性器を模したものを取り出した。
「裸になって、股を開いて座るんだ」
サナは言われるがまま、衣服をすべて脱ぐと、ソファに再び腰掛け、大きく脚を開いた。
(は、恥ずかしい……)
誰にも見せたことのない場所を、アーヴィンに見られている。顔が熱い。
「このままでは駄目だ」
アーヴィンはそう呟くと、サナの股に顔を埋めた。
「アーヴィン様!? な、何を? っ!!」
アーヴィンの舌と思われるものが、サナの秘所に触れた。
「んん……あっ、ぁう……」
ぷっくりと膨らみ始めた肉芽をアーヴィンが丁寧に舌で愛撫する。サナは喘ぎながら、彼を止められずにいた。召し使いのこんなところを舐めるなんて、止めなければいけない。頭ではわかっているのに、身体はやめないでほしい、もっとしてほしいと言っている。
「こんなものでいいだろう」
アーヴィンはそう言うと、顔を上げた。サナはとろんとした瞳で彼を見た。
(もうちょっと……してほしかった……)
「さて、これは魔法のアイテムなんだ。こっちを挿れて……」
アーヴィンはそう言うと、男性器を模したものをサナの股にあてがった。そして、ゆっくりと彼女の中に沈めていく。
「ひっ……あぅ……」
アーヴィンのせいでぐちょぐちょだったそこは、あっという間に玩具を飲み込んだ。
「こっちの丸いので、動かすんだ」
木箱からアーヴィンが楕円形のものを取り出したかと思うと、何やらカチリという音がし、サナの中にある玩具が振動しはじめた。
(……っ)
身体がビクッと跳ねる。軽い絶頂感に襲われ、呼吸が荒くなっていく。
「どうだ? 気持ち良いか?」
「……ふぁ……っはい。気持ち……い、いっ……ぁ……です……」
だんだん身体が火照り始める。心臓が激しく鳴り、息が上がる。何故だかわからないが、身体が熱い
「か、身体が……あぁあっ、アツ、い……」
「ああ、媚薬が効いてきたようだ」
再びアーヴィンが例の楕円形のものを操作すると、振動がさらに強くなった。
「ああああっ……」
突然の刺激に声を上げてしまう。身体がビクッと跳ね、振動による快感と媚薬の効果で頭がぼうっとする。正常な判断力は失われつつある。
(これ以上は……おかしく、なっちゃ……)
サナは、アーヴィンに助けを求めるように視線を向けるが、彼は愉快そうに微笑む。
「どうだ? 気持ち良いか? これからもこういった商品を試せるぞ。俺の召し使いでいる限りはな」
「ああぅ……でも……私……」
「なんだ? 聞こえないぞ」
アーヴィンはさらに振動を強めた。
(ああ……変になる……)
限界を超えそうになると、アーヴィンは振動や動きを弱める。身体中が熱を帯び、息が止まりそうだ。意識が遠のきそうだが、サナは必死に耐えた。
「耐久性も確かめたい。もう少し頑張ってもらえるか?」
「あっ、っん、はぁ……はいっ……」
甘い悲鳴をあげながら返事をし、サナは目をそっと閉じた。快感に飲まれないようにしたかったが、そんなことは不可能だった。
(もう無理……)
全身が痙攣し、とうとう快楽の波に飲み込まれた。サナは叫び声を上げ、身体を大きく跳ねさせた。
「はっ、イクッ……ぁああっ、あーーーーっ!」
長い余韻が残り、呼吸が落ち着くまでに時間がかかった。アーヴィンは心配そうな表情でサナを撫でた。
「感想を聞かせてくれ」
「すごく……良いものです」
サナの股間から、愛液とともにずるりと玩具が吐き出された。何だか身体がだるくて、熱い。アーヴィンの方を見ると、ズボンの股間部分が膨らんでいることに気がついた。
「よろしければ……アーヴィン様のものを私の中に入れてもらえませんか」
「サナ……良いのか。お前は、あの男のことが好きなんじゃ……」
「私……私が好きなのはアーヴィン様だけです……そうでなければ、こんなこと……いくら主に頼まれても断りますよ」
アーヴィンは優しく微笑むと、自分の服を脱ぎ始めた。露わになった肉棒は、先端から透明な液体を垂らしている。
(大きい……)
先程の玩具とは比べ物にはならない大きさに言葉を失う。サナはただ、頷いた。アーヴィンはサナを抱きあげると、ベッドの上に仰向けに下ろした。彼女は、脚を開いてアーヴィンを迎え入れる。アーヴィンは優しくサナの太ももを持ち上げると、自身を押し当てた。
「痛かったら、言ってくれ。やめられるかは、わからないが……」
「はい……」
先端がゆっくりと入ってくる。媚薬の効果で身体が火照っているためか、思ったよりも痛みは少なかった。徐々に深く挿入され、サナの奥まであっという間に到達する。
(アーヴィン様のが……私の中に……)
お互いの心臓が早鐘のように激しく鳴り、呼吸が乱れる。アーヴィンはゆっくりと動き始めた。
「あっ……! はぅ、あっ、ぁう……あっ、はっ、はぁっ……」
肉棒がサナの中で動く度に、背中がビクッと跳ねる。押し寄せる快感の波に抗うように、夢中でアーヴィンにしがみついた。彼も興奮した様子で、一定の速度で動き続けた。
「サナ、好きなんだ。誰にも渡さない……」
「私も……好きです」
お互いの想いを口に出し、興奮した二人の行為はさらに激しさを増していく。サナは奥まで突き上げられるたびに、快感と幸福感で全身が震えた。
何度も絶頂を迎え、意識が遠のいていく。頭の中が真っ白になり、ただアーヴィンの名前を呼ぶことしかできなくなった。
「あっ、アーヴィン様……ぁあ、は……んっ、好きです……」
「俺もだ、サナ……!」
最後に強く抱き合い、二人は同時に果てた。身体の内側に、温かいものを感じながら、サナはゆっくりと目を閉じた。
◆ ◆ ◆
次の日、彼のベッドの中で目が覚めた。アーヴィンは愛おしげにサナを撫で、「これからは、もうずっと屋敷の中にいろ。お前を誰にも見せたくない」と囁いた。
「でも……それでは仕事になりません……」
「じゃあ、仕事の内容を変えよう。今日から、な」
アーヴィンはいたずらっぽく笑うと、サナに覆いかぶさった。