狼の耳を持つ獣人との戦いに、人間が負けてしまったのは、つい去年のことである。勝利を収めた彼らは、自分たちのことを狼耳族と名乗り、人間のことを醜い耳族と蔑むようになった。
サナは、醜い耳族ーー人間の姫であったが、戦争に負けた今となっては、他の人間同様、奴隷のような扱いを受けていた。違いといえば、主人だろう。運がいいのか悪いのか、サナの主は狼耳族の王だった。サナも含めた奴隷たちに下着は与えられず、最低限の薄い布で肉体を隠す。鉄の首輪を着けられ、たいてい主人のそばで正座している。主人によっては、機嫌が悪かったからとか、退屈だったからという理由で奴隷に暴力を振るうものもいたが、奴隷には何をしても罪に問われることはなかった。
サナの主人であるルフオムは、暴力こそ振るわなかったものの……。
「今朝、弟の奴隷を見たんだが、お前と違って美人だったよ。弟はあれを気に入っているらしくてね。随分可愛がっていた。お前が美人だったのなら、俺だって可愛がったさ。弟のように、妻にすることも考えたかもしれないな。いや……流石に醜い耳族とだなんて、考えられないな。はははは……」
「……」
サナは俯いた。ルフオムの弟のところの奴隷は、サナの妹だ。サナの妹はルフオムの言う通り美人で、気立ての良い娘だ。上手くやってくれているようで良かった。
「何か言ったらどうだ?」
「……」
サナには……奴隷には発言権が与えられていない。それを忘れているかのようなルフオムの言動には、心底うんざりしていた。この男のそばから、一日でも早く離れたい。
ルフオムは、サナの首輪に繋がっている鎖をぐいっと引っ張った。
「おい、何か言え」
サナは「禁じられていますので」と小さく答えた。話したのはいつぶりだろう。声は僅かに掠れていて、震えていた。
「俺が話せと言ったら、話せ。次無視したら、殺す。いいな?」
「……かしこまりました」
そのとき、執事が助け舟を出した。
「ルフオム様、お言葉ですが、あなた様の奴隷を散歩に出してやったらどうでしょうか。同族と触れあえば、元気になるでしょう」
獣人たちのいう散歩とは、中庭に何人かの人間を放ち、好きにさせることを指す。サナもその散歩が好きだった。
「そうだな。連れて行け」
ようやくあの男の側を離れられる。それだけで嬉しくてたまらなかった。
中庭に出ると、サナは思いっきり伸びをした。ここでは、一時的とは言え首輪も外してもらえる。外とは言え、周りは壁で囲まれているが、それでも太陽を拝める。
「サナ姫、ご無事でしたか!」
サナの側に一人の男が近づく。まだ人間の王国があった時代、彼はサナを守ると誓った騎士だった。サナは自然と笑みを浮かべていた。
「久しぶりね」
散歩から戻ったサナを待っていたのは、不機嫌なルフオムだった。最悪だ。嫌な男が眉間に縦シワを刻んでいる。
「随分楽しそうだったな」
「はい。ありがとうございました」
「お前は……普段からあんな風に笑うのか? それともあの男はお前にとって特別な存在なのか?」
そんなことを聞いてどうするのだろう。あの男と番にしてやるとでも言い出すつもりだろうか。この男は、どこまでサナの尊厳を傷つければ気が済むのだろう……。
「彼は私の騎士でした」
そう答えた瞬間、グラスが砕け散った。すぐに、ルフオムが持っていたワイングラスを握り潰したのだとわかった。
「今決めた。あの奴隷は殺す」
「な、なぜです、彼は何もーー」
「庇うのか?」
ルフオムがなぜ物騒なことを言い始めたのかは不明だが、何とか落ち着かせたい。そして、哀れで無実な騎士を殺すなんてことは考え直して欲しい。何と言えばいいのだろう。言葉を選んでいると、ルフオムに腕を掴まれ、強引に彼の自室へ連れて行かれた。そのままベッドに押し倒されたとき、初めてルフオムを恐ろしいと思った。嫌悪感を抱くことはあっても、恐怖を感じるのは初めてだった。
「お前は役に立たない奴隷だと思っていたが、今しがた活用方法を思いついた」
「……やってみればいいわ」
たとえどれほど恐ろしくても、屈することは姫としてのプライドが許さなかった。ルフオムが、サナの裸体を隠していた布を引き裂いた。そして、むき出しになった両の乳房を揉み始めた。
「お前は本当に可愛くない」
「なら、私のことを捨てるなり、殺すなりすればいいわ……くッ」
ルフオムがサナの首に歯を立てた。サナの白い首にはくっきりと歯型が残り、僅かに血が滲んでいる。サナの目からぽろりと雫が溢れる。
ルフオムはサナの胸の柔らかさを楽しむかのように揉みながら、先端を口に含んだ。口内での愛撫は温かく、心地が良い。サナは小さく呻いてしまい、慌てて自身の口を手で塞いだが、もう手遅れだった。勝ち誇ったような微笑みを浮かべたルフオムが、サナの股に顔を埋めた。温かく湿った舌が、サナの誰にも見せたことすらない場所に触れる。舌で割れ目をなぞられると、それだけでゾクゾクした。
「……ッ!」
舌がぷっくりとした肉芽に触れる。ゆっくりと集中的に舐められると、先端はどんどん熱を帯びていく。サナは自身の口を手で押さえながら、愛撫に耐えていた。早く終われ。そう願いながら。
サナの願いとは裏腹に、ルフオムは愛撫を続けた。サナの身体が時折びくんと跳ねるようになってきた頃、ベッドのシーツは彼女の愛液でびしょびしょだった。
「あっ、お……お許し、あっ、ああ……お許しを……あん……」
「これを鎮めてくれたら、終わりにしてやってもいい」
そう言って、ルフオムは天を突くように膨張した自身を取り出した。サナは身体を起こすと、ルフオムのそれを両手で握り、ゆっくりと上下させた。嫁いだ後、旦那をどのように喜ばせるかといったことを、家庭教師が教えてくれていて良かった。あくまで教えてもらったのは知識だけで、この男は旦那でも何でもないが、こうして役立っている。しばらく手を動かし続けると、ルフオムは小さく唸り、先端から白っぽい粘液を勢いよく飛ばした。
「終わりにしてくださいますね?」
「何を言っている。まだ鎮まっていない」
ルフオムの言葉通り、一度果てたはずのそれは、野太い血管を浮き上がらせている。サナは大きく口を開けると、男根を咥えた。唇に力を入れて、かえしの部分を刺激してやると、ルフオムが気持ちよさそうに吐息を漏らす。咥えきれない根元の方は両手で扱く。だが、それでもルフオムは満足できなかったようで、サナの後頭部を掴むと、そのまま自分の方へ引き寄せた。喉の奥まで挿入されたサナは満足に呼吸ができなくなり、やめてくれというようにルフオムの身体を叩いたが、彼は彼女の頭を掴んだまま離さない。それどころか、サナの頭を固定したまま、腰を振り始めた。
「ぐ……ぐふっ、ぶ……ぐぶ……」
何度か腰を振った後、肉棒がビクンと跳ねると、サナの食道めがけて精液がどくどくと注がれた。口から肉棒が引き抜かれると、サナは激しく咳き込み、唾液と精液が入り混じったものをベッドの上に吐き出した。涙目でぐったりとしているサナを四つん這いにさせると、ルフオムはまだ鎮まることのない自身を彼女の中に沈めた。
「あーーーーっ! ぉ゛お゛ッん、ぐ……」
根本まで一気に挿入され、サナはそれだけで達してしまう。ルフオムは彼女の臀部を両手で鷲掴みにすると、腰を激しく振り始めた。肉と肉がぶつかる音とベッドのスプリングが軋む音、それからサナの荒い息。
「さっきまでの威勢はどうした? 早く鎮めてもらえるか」
「ん~~! あ゛ッ……あ゛ッ……ん゛っ……ああ゛っ……あん……」
「もう聞こえていないか?」
激しく突き続けられ、もう何度達したことかわからない。サナはもう誇り高き亡国の姫君ではなく、ただただ快感を求めるだけの雌と化していた。
「ん……ぁああっ、うう……イクッ……あーーーーっ! ゔ……イ゛グッ……」
「これではどちらが奴隷かわかったものじゃない。そろそろ俺も……」
ルフオムの肉棒が少し大きくなったかと思うと、サナの中にたっぷりと精液を注ぎ込んだ。ゆっくりとルフオムがサナの中から自身を引き抜く。それと同時に、白濁とした液体がサナの蜜壺からボタボタとこぼれ落ちた。
「悪い、まだ鎮まらないようだ」
隣でぐったりと眠るサナを見つめながら、ルフオムはため息を吐いた。何もかも上手くいかない。こんなはずではなかったのに。
サナと初めて出会ったのは、森の中だった。狼に姿を変え、自然の中を走るのが好きだったルフオムは、運悪く猟師の罠にかかってしまった。狼の姿のままで罠から抜け出すことは不可能だし、痛みのせいで上手く獣人の姿に戻ることもできない。そこに現れたのが、サナだった。彼女は罠を外すと、ルフオムの傷の手当をしてくれて、頭を撫でてくれた。そのとき、彼女のことを好きになってしまった。サナが姫だと知ったのは、それから少ししてからのことだった。ルフオムはすぐにサナの父に姫について相談しに行ったが、「獣人など汚らわしい生き物に、大切な娘をやるわけがない」とろくに話も聞いてくれなかった。だから、戦争をしかけてやった。獣人を差別する人間たちに不満を抱いているものは多かったから、狼耳族はみんな前向きで、醜い耳族との戦争を反対する者は皆無だった。でもそれが何もかも間違いだった。戦争には勝ったし、サナも手に入った。しかし、心までは手に入らなかった。弟のようには上手くいかなかった。初めは優しくしたが、心を開いてもらえなかった。その後は、八つ当たりで辛く当たり続けた。そんなことをしても嫌われるだけだと頭ではわかっていても、やめられなかった。果てには、無理やり彼女を奪ってしまった。ルフオムは、サナと愛し合うことを夢見ていたのに。
ルフオムはサナの頭を撫でた。
「君が起きたら、今までのことを謝りたい。愛しているんだ」
サナは起きていたが、眠っているふりを続けるのだった。