「あなたはだんだん眠くなーる!」
クラスのお調子者のフユキが、何やら教室で騒いでいる。見ると、彼は糸のようなものを握っている。糸の先にはコインがついていて、それを左右に揺らして催眠術の真似事をしているようだ。みんなはかかったふりをしては、ゲラゲラ腹を抱えて笑っている。
「わぁ、本当に眠くなってきたーー! あ、サナ! お前もやってもらえよ」
タナカがサナの背中をぽんと叩いた。サナは「私はいいよぉ」と首を横に振ったが、みんなに押されて、いつの間にかフユキの前に来ていた。彼とサナは幼馴染みだが、最近はすっかり話さなくなっていた。昔はずっと一緒にいたものだが、お互い異性として意識するようになってしまってからは、なんとなく気まずくて避けるようになった。
「よっしゃ! サナ、行くぞ! コインをじーーっと見てくださぁい!」
フユキはニヤリと笑って、サナに糸のついたコインを向けた。クラス中が期待と不安の入り交じった視線をフユキとサナに向ける。普段、こんなふうに注目されることのないサナには酷く居心地が悪かった。
「じゃあいくぜ。あなたはだんだん眠くなーる……」
「……」
「眠くなーる!」
「……えーと……うーん、眠く、なった、かも?」
クラス中がどっと笑った。「それ絶対、眠くなってないじゃーん」と誰かが言った。その言葉にフユキは一瞬悲しそうな表情をしたが、すぐにいつもの彼に戻り、「まあ、催眠術にかかりやすいやつと、そうじゃないやつがいるらしいから、仕方ないな! お前らは全員かかりにくいみたいだ。良かったな!」と笑った。
サナには、彼が無理して笑っているように見えた。
「ねえ、もう一回、催眠術をかけてみてよ!」
「は? なんでだよ」
「なんでって……今なら疲れてるから、催眠術がかかりやすいかもって思って」
「うーん」
フユキは腕を組んでしばらく黙っていたが、例の紐付きコインを取り出すと、サナに向けた。
(よし! 昼間より上手にかかったふりをして……)
「あなたはだんだん眠くなーる!」
「……」
「あなたはだんだん眠くなーる!」
コインが揺れる。右に左に、一定のリズムで揺れる。それを見ていると、本当に眠くなってきた。
(あれ……本当にまぶたが重い……)
「はは、かかったフリしてくれてありがとうな……って、本当に寝た?」
フユキは目を大きく見開いた。
「サナ……? おい、サナ? 本当に眠ったのか?」
「……」
「マジかよ……それなら……」
フユキがニヤリと笑った。
「起きろ」
サナの目がぱちっと開いた。
(あれ、本当に寝ちゃってたんだ、私)
「スカートを捲ってパンツを見せろ」
(はあ? 何言ってるの?)
しかし、サナの手が彼女の意志に反して勝手に動き出し、スカートの裾を掴んだ。そのままゆっくりと持ち上げていく。
(なんで!? 催眠術が本当にかかってるってこと?)
スカートの下から、サナの白い太ももが現れる。フユキはゴクリと唾を飲む。彼女のシンプルな水色のパンツが丸見えだ。
「フユキ! 催眠術は終わり!」
「マジでかかってるの? それとも自主的に見せてる?」
「マジでかかってるんだって!」
「マジか……でも、俺、催眠術の解き方がわからないんだよね」
「はあ!? 何とかしてよ!」
「色々やってれば、解けるかも」
「ふざけないでよ! とにかく、スカートをもとに戻させて!」
今もサナはスカートを捲りあげ、水色のパンツをフユキに見せた状態のままだ。フユキはニヤニヤしながらサナにゆっくりと近づいた。
「パンツを脱げよ」
「馬鹿っ……!」
サナは身体のコントロールを完全に失ってしまったようだ。あっという間に、いつ誰が来るかもわからない廊下でパンツを脱いでしまった。
「じゃあ、脱いだパンツを俺に渡して」
「何言ってんの!?」
しかし、サナはあっさりとフユキに脱いだばかりのパンツを手渡してしまう。パンツを受け取ったフユキは、それをカバンにしまった。
「ちょっと! 返してよ」
「自分で渡したんじゃん。さ、そろそろ帰ろうぜ」
案の定、サナの身体は勝手に歩き始めた。
帰宅ラッシュの時間と重なったせいで大混雑の電車内、サナはフユキを睨みつけた。しかし、フユキはどこ吹く風でスマホを弄っている。サナもいつもならスマホを弄っているが、今はそれどころではない。いつ、誰に、サナが下着を身に着けていないことがバレるか気が気ではない。
そのとき、誰かがサナのおしりに触れた。フユキだった。
「触るとわかるな」
穿いていないことがわかる、と言いたいのだろう。サナが睨みつけても、フユキはニヤニヤ笑うだけだ。
「なんでパンツを穿いてないの? 変態?」
白々しいにもほどがある。サナは言い返す気にもなれなかった。
一番腹が立つのは、パンツを穿いていない状態に慣れつつある自分だ。不快には感じず、身体が火照って仕方がない。先程フユキに触れられてから、その火照りは一層強くなった。
(こんなの変だよ……)
フユキはスカートの中に手を這わせてきた。フユキの指が、サナの秘所に触れた。ぬちゅっという、指が愛液に触れる音が聞こえたような気がした。
「あ♡」
思わず甘い声が漏れる。催眠術と関係があるのかないのか、身体はフユキからの愛撫に素直な反応を見せる。
「ふっ♡ ああぁ♡」
「ちょっと、声でかいって」
「あああっ♡」
フユキは電車の揺れを利用して、敏感な部分を優しく刺激する。サナは声を漏らさぬよう必死に堪えるが、それでも声が漏れ出てしまう。
「ん〜〜〜〜っ♡ んぁっ♡」
直ぐ側に立っていた女性が心配そうに「大丈夫?」と声をかけてくれた。サナはこくこくと頷くことしかできない。今も愛撫を続けられているから、口を開けば喘ぎ声がでてしまう。サナは脚を閉じようとするが、身体が言うことを聞かない。
(あ♡ 周りの人にバレちゃうよぉ♡♡)
『次は■駅に停車します。降り口は――』
聞き慣れた女性のアナウンス。
「あ、次降りる駅だ」
フユキはわざとらしくそう言うと、手をサナから離した。
(意地悪……まだ5分は着かないじゃん!)
(はあ……身体が熱い。公園でもいいから、したいのに……)
「あのさ」
彼の家がもうすぐだというところで、ようやくフユキが口を開いた。
「何?」
「今日、親居ないんだよね。先週から二人で旅行に行っててさ」
「ふうん」
サナは、あくまで興味がないと言った風を装った。何を思ったかフユキはコイン無しでサナに向かって「家にきたくなーる」と言った。サナは思わず吹き出した。
「わかった、わかった。行くよ」
フユキはニッコリと笑った。彼の家に着くと、二人は二階に上がった。フユキの部屋に通されたサナは、最後に入ったときからすっかり部屋の雰囲気が変わっていることに驚いた。それもそうか。最後に入ったのはもう5年も前になる。子供向けアニメのおもちゃで溢れかえっていた部屋は、すっきりとした大人の部屋になっていた。
「じゃあ、催眠術の続きやるね」
「なんで?」
「いいじゃん、いいじゃん」
何がいいのかはさっぱりだったが、フユキは紐付きのコインを取り出し、サナに向けた。コインがゆらゆらと揺れる。右に左に揺れているさまを見ると、徐々に頭がぼーっとしてきて、身体がうまく動かせなくなってくる。しかし、サナはこの感覚が嫌いではなかった。
「あなたはだんだん淫乱になーる」
「なにそれ」
思わず笑ってしまう。あまりにも馬鹿げているからだ。
しかし、またしてもサナの身体は勝手に動き出し、パンツを穿いていないというのに股をフユキに向けて大きく広げたかと思うと、シャツを脱ぎ始めた。
「本当に淫乱になってる……」
「だから、催眠術はもうやめようよ!」
フユキはあらわになったサナの胸にふれると、ゆっくりとやさしく揉み始めた。
「は……あん♡ んん……♡」
催眠術で淫乱になったサナは、異常に興奮していた。胸を揉まれているだけで、蕩けてしまいそうだった。
(なにこれやばい♡ 早く欲しい……早く挿れて欲しいよぉ……♡)
サナの太ももを、愛液が濡らしている。
「ねえ……ふ♡ はぁっ……お願い♡ ……はっ、ぁう……ん……挿れて……♡♡」
「すっかり淫乱になったね。俺って催眠術の才能があるのかも。それとも……サナって、元々淫乱だったのかなぁ」
「はぁ……っいいから……!」
フユキはサナをベッドに押し倒すと、ズボンを下ろし……。
(すごい……♡ フユキの……♡)
初めて見るフユキの勃起したそれが欲しくてたまらない。
「早く……♡♡」
「わかってるって」
フユキは熱を帯びた自身をゆっくりとサナの中に挿れていく。
「あっ、ああ♡ ……あ♡♡」
あっという間に根本まで入ってしまった。フユキはゆっくりと腰を動かし始めた。
「すげー、ぬるぬるしてて気持ちいい……」
「あっ、あん♡ ……あっ、ああ……♡♡ っん、うう……ん……♡」
奥を何度も何度も突かれる。サナは、快感に飲み込まれながら、フユキにしがみつく。ぐちゅぐちゅと卑猥な音が結合部から発せられる。
「やばい、すぐイクかも……」
「だめ♡♡ ……っん、もっと♡ ……ぉあうう♡ ……んっ♡♡」
「そう言っても……エロすぎるって」
フユキの動きがだんだん速くなっていく。絶頂が近いのだろう。
「あ゛っ♡! ん、あん♡ ……ん、あーーーーっ♡♡! ぁああっ♡♡♡」
子宮に注ぎ込まれる熱いものを感じながら、サナも絶頂を迎えるのだった。硬さを失った肉棒が、サナの蜜壺から引き抜かれると、白濁とした液体がどろりと出てきてシーツを濡らした。
時間とともに、サナにかけられた催眠術は解けた。フユキとは昔のように仲良くなり……いや、今はあのとき以上の関係になった。
「で? 今日はだめなの?」
「いいけど……サナの家にしない? あの後、お前が汚したベッドの処理して大変だったんだぜ」
「わざとじゃないもん」
フユキはもう、催眠術をしようとしない。理由は分からないが。サナはというと、コイン――小銭であっても、それを見るだけであそこが濡れてしまうようになった。――これも、理由は分からない。