サナは帰り道、奇妙な声を聞いた。子どもが、低い声でボソボソとなにか言っている。一人や二人ではない。四、五人の子どもたちが、ボソボソ言っているのだ。サナは思わず自分の腕時計を見た。すでに夜の十一時を過ぎている。
「こんな時間に何しているんだろう」
こんな遅い時間まで子どもたちが外で何かをしている。心配する気持ちと、何をしているのだろうという好奇心から、サナは声が聞こえてくる公園へと向かった。
「何あれ……」
その異様な空気に、サナは声をかけることもできず、ただ見ていた。
「やったぁ!」
「よしッ!」
突然、子どもたちが喜びの声をあげた。子どもたちの輪の中央に黒い煙が上がっている。火でも使ったのだろうか。これは流石にまずいと思ったサナは、子どもたちに声をかけようと輪に駆け寄ろうとした瞬間、子どもたちは散り散りに走り去っていった。公園には、サナだけになった。
「本当に何なの……」
とにかく、大人として火の後始末をしなくては。サナはゆっくりと黒い煙に近づいた。しかし、不思議なことに火元となるようなものが見当たらない。
サナは首をかしげた。
「帰ろう……かな。火事じゃないみたいだし」
なんだか気味が悪い。一刻も早くこの場所を離れたい。サナが煙に背を向けて、ゆっくりと歩き出そうとしたその瞬間、誰かに腕を掴まれた。
「……え?」
振り返ると、黒い煙の中から白い男の腕が伸びており、それがサナの腕を掴んでいた。
「……ッ!」
サナは腕を振り払おうとしたが、無理だった。骨が軋むほどの力で掴まれている。
「誰か……ッ! 助け――んぐッ」
助けを求めるために叫び声をあげたサナの口が、煙から伸びてきた触手のようなもので塞がれる。
「ん……ん、ぐ……」
触手が口内を犯す。触手は甘ったるい粘液を纏っている。煙からは更に複数の触手が現れ、サナの身体に絡みつく。触手は服の下にも入り込み、胸や秘所を撫で回す。
「あ……ふ……んん、んッ……」
意図せず発された甘い声も、口内の触手のせいでくぐもる。人を呼べるほどの大きな声は出せないまま、サナは触手の愛撫に耐えるしかなかった。ヌルヌルしている癖に、サナをしっかりと縛り付けて離そうとしない触手。サナはタイミングを見てこの場から逃げ出すことばかり考えていたが、触手は一切の隙を見せない。
「……ぁあッ!」
愛液と触手の粘液でグチョグチョになっていた蜜壺に、サナの手首くらいの太さの触手がねじ込まれた。そして、そのまま激しいピストン運動を始めた。
「ん……ぐッ、ん、んッ、ん、ぁあッ……んんッ!」
別の触手が肉芽に吸い付く。中と外からの快感に耐えかねたサナは、絶頂を迎え、全身を痙攣させながら潮を吹いた。
「っんーーーーーーーーッ!」
サナの目からは涙が溢れた。
「ぐ……ッ、んんッ、んんん゛ーーーッ! んん゛ーーッ!!!」
何度絶頂しようと、潮を吹こうと、触手の動きは止まらない。
「んんッ、んッ、ん゛ーーッ!!」
何度も襲いくる快感。サナの意識は薄れていった。
「それは、ドウコ様だろうねぇ」
昼休み、休憩室でオカルト好きな同僚のイチヤに昨晩の経験を話すと、そんな答えが返ってきた。もちろん、黒い煙から出てきた触手については話さなかった。
「ドウコ様って、何なの?」
「童が呼ぶと書いてドウコ様。その名の通り、子どもたちが呼ぶんだよ。でも、呼ぶ時期もその理由も謎なんだ」
「ふーん」
その時、休憩室のドアが開いて、もうひとりイチヤが現れた。
「えっ」
「サナ、これからコンビニに行くんだけど、何かいる?」
「う、うん……いらない」
「オッケー」
あとから現れたイチヤは行ってしまった。先程までドウコ様の話をしていたもうひとりのイチヤに向き直る。
「……あなた、誰なの?」
イチヤは嫌な笑顔を浮かべながら、煙草に火を点けた。煙草からは、黒い煙。煙はあっという間に休憩室に充満する。
「だれ……なの……」
答えはわかっている。