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04.魚人*

その日、サナはせっかく旅行に来たのにとも思いつつ、早めに眠ることにした。かなり歩き回ったこともあり、肉体的にも疲れていた。そのせいか、横になるとすぐに眠りについた。

夜中、サナは暑くて目を覚ました。つけて寝たはずのエアコンが消えている。体を起こし、電気をつけようとするが、電気もつかない。

「停電?」

 スマホで足元を照らそうと考えたが、眠る前にどこに置いたか思い出せない。サナは足元に気を付けながら、明かりの漏れる窓の方へ行くと、カーテンを開け、窓を開けた。

汐の香りと、やや涼しい風が部屋に入ってくる。

窓から差し込む月明かりのおかげで、スマホが布団の側に置かれているのが見えた。

布団の側のスマホを拾い、時間を確認する。深夜1時だった。

昼間の男性に停電を知らせようかとも思ったが、窓を開けていれば十分涼しいのだから、こんな遅くにわざわざ起こす必要もないだろう。

その時、窓の方で物音がした。

 窓を見ると、月明かりを背に、人影が部屋に入ろうと窓枠に脚をかけているのが見えた。
サナは慌てて部屋を出ようとしたが、侵入者が部屋に入り、サナを捕まえる方が早かった。

 強い汐の香り。

 濡れた手足で布団の上に組み敷かれる。サナが叫ぼうと口を開けた瞬間、唇を唇で塞がれた。舌で無理やり口内に侵入されてしまう。口内にしょっぱい味が広がる。
暗闇に目が慣れてきたころ、サナは自分を組み敷いている者が何者かを知った。
それは間違いなく、昼間の魚人だった。
 サナは抵抗しようと魚人の体を引っ掻いてやろうとしたが、外皮は固く、爪にウロコが引っかかるだけだった。

しょっぱい舌がサナの歯列をなぞる。水かきのついた手で胸をまさぐられる。旅館の浴衣の胸元に手を挿し込まれ、冷たい海水を纏った手が肌に直接触れてくる。少しざらざらしていて気持ち悪い。

「ふ、ふぐ……」

 声を上げようとするが、口の奥まで挿し込まれた舌がそれを邪魔する。

このままではきっと犯されてしまう。そう思った瞬間、魚人が体を離した。

「明日モ、アノ岩場ニキテ」

 そう言い残すと、魚人は部屋に入ってきたときと同じくらい素早く、窓から出て行った。

サナは慌てて窓を閉めた。いつの間にか電気が復旧していたらしく、エアコンが動いている。電気をつけると、布団と畳が海水でぐっちょりと濡れていた。