私はすべてをマリアに話した。彼女は無言で私の話を聞きながら、首に包帯を巻いてくれた。
「なんか大けがしたように見えるけど、何もしないよりマシよね」
「ありがとう」
「それで? シオドア様はあんたを無理やり部屋に連れ込んだの?」
「うん……」
「クソ野郎ね。他に酷いことされてない? 避妊薬が必要なら、メイド長に言わないと」
「そういうことはされてないから」
「本当に? 今度、同じようなことをされそうになったら、大きな声を出して。わかった?」
「うん」
マリアは私の肩に頭を預けると、「すごく心配」と呟いた。
「王族に手を出されて、他人から恨みを買って、着の身着のまま追い出された使用人も少なくはないのよ。本当に気をつけてね……」
確かに私が居た教会には、貴族の子供を身ごもった女たちが良く来ていた。幼馴染のリリが、「子供を捨てても、あの女の人はうんと遠い町でしか結婚できないのよ」と言っていた。望まぬ妊娠もあるだろうに、酷い話だ。そう言われれば、リリは今、どうしているだろう。
「ねえ、聞いているの?」
マリアが怒っていますと言う顔をしながら、私の肩を小突く。
「うん。ありがとうね」
「本当に、気をつけなくちゃだめだからね」
◆ ◆ ◆
「どうしたの、それ」
「へ?」
「首」
アレク様は庭園で紅茶を飲みながら、自分の首を指でつんつんと突っついた。
「あ、ああ、これですか……これは、虫に刺されてしまいまして」
「虫? 薬は塗った?」
「ええ、塗りました。ですが、かぶれて見苦しいのでこのように包帯を」
そう言って、私は首をさすった。とっさに思いついた嘘だが、バレていないだろうか。バレたところで、アレク様とシオドア様の兄弟仲がいっそう悪くなるだけかもしれないが……。
「ふうん。で、どんな虫?」
「さあ、姿は見ていないんです。気が付いたら、刺されていたみたいです」
「悪い虫だね。見つけ出して、叩き潰さないと」
アレク様が音もたてずにティーカップを置く。
「サナ、その虫はきっと、僕の弟に似ているんだろうね」
アレク様は、いつもの完璧な笑顔を浮かべた。