自室で本を読んでいると、ギャレットがやってきた。
「さっきは悪かったよ」
ギャレットはそう言って、私の口に何か甘いものを放り込んだ。
「なにを……」
ギャレットは自分の口にもそれを放り込み、「砂糖菓子だよ」と言った。
「君は本気で心配してくれているのに、俺は真面目に話を聞かなかった。本当に悪かった。……少し、歩かないか」
そう言って、ギャレットは私を屋敷の庭へ連れ出した。屋敷の人たちは庭にも出たくないらしい。庭は荒れ放題だった。
「ウィティング伯は、元々、都会に屋敷を構えていたんだ。ジェス嬢は生まれたころから体が弱くてね。ジェス嬢のために、こんな田舎の森の奥に引っ越してきたんだ。当時、ジェス嬢の部屋から見えるこの庭園は、美しく手入れされていたんだよ」
「見たかったわ」
「でも今はこの有様。ウィティング伯は、どうしてここに引っ越してきたか、もう思い出せないんじゃないかな。俺もそろそろ手を引いてもいいかもしれない。悪魔らしく、十分神と人を苦しめたし」
「ギャレット……」
「これはジェス嬢の望みでもあるんだ。1、2年前からジェス嬢は解放を望んでいる。面倒だから無視していただけど、俺も飽きてきたから頃合いだと思う。人間のことも、よく分かったし」
「ちゃんとみんなに、お別れの時間をあげてよ」
ギャレットは右手の包帯を外した。露になった右手は、痛々しい傷が残っていた。
「君のお願いは何でも聞いてあげたいんだけどね。片手はこんなだし、神託を得れるような立派なエクソシストも来ている。そんな時間をあげられるかどうか。正直、今すぐにでも彼女らを解放して、どこか遠くへ行きたいよ」
「右手が治ればいいの?」
「君に治せるの?」
「治ればいいのかって、聞いているのよ」
「う、うん……もし、治ったのなら、エクソシストは問題じゃなくなると思う。でも、聖なる力で傷つけられた悪魔の傷はそう簡単に治るものじゃない」
「私を抱けばいいのよ」
◆ ◆ ◆
地獄のような日々だった。毎日毎日傷ついた男たちがやってきて、私を犯した。拒めば、ひどく痛めつけられた。ついに耐えられなくなって、逃げ出したあの日、先生からお守りをもらった。先生は、悪魔にこの不思議な力がバレれば、私はこれまで以上にひどい目に遭わされるとわかっていたのだろう。
私たちは庭園の隅に建てられた物置小屋で交わっていた。
「すごい……本当に、治っている」
ギャレットは腰を動かし続けたまま、自分の右手を見た。
「はあ、だから……いったでしょう」
「ごめん、信じてなかった。俺とやりたいなら正直に言えばいいのにって思ってたよ」
「もう、傷は治ったでしょ……終わりよ」
ギャレットは私にくちづけると、「やだ」と言った。男はいつもこうだ。慣れている。だが、嫌ではなかった。
ギャレットは何度も何度も私を突き上げ、私の耳元で悪魔らしく甘い言葉を囁いた。
「はぁ……ああ、あっ……」
「ずっと一緒に居てくれないか」
「あ、あん……か、考えておく……あっ」
「君といると楽しい」
騙されてはいけない。ギャレットはたしかに良い人だが、悪魔だ。他の女性にも同じようなことを言っているに違いない。真に受けてはいけない。
「君は?」
「あ、ぁあ……ギャレット、あなたのことは好き、よ……ああっ!」
ギャレットがいっそう深く私を突き上げた。どくどくと温かな精液が注ぎ込まれるのを感じた。私は生まれて初めて、自分の意志で交わった。ギャレットが、とても大事な存在に思えた。
「君といると飽きないんだ。幸せなんだよ。君はどう?」
達したばかりで頭がぼんやりとしていて、何か言ったはずだが、何を言ったか思い出せない。