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04.エクソシスト

「ギャレットは、いい奴みたいです」

 私がそう言うと、ジェスお嬢様は眉間にしわを寄せた。

「追い出そうって言ってなかった? 私の記憶違いかしら」

「た、たしかにそんなことも言いましたが、今はそうは思いません」

「呆れた。あの美しい顔に惚れてしまったのね」

「まさか! 違います。私はあれよりも美しい人を、30人……いや、50人は知っています」

「言い訳にしては苦しいわね。あれほど美しい人はそうはいないわ。いるとしたら、それこそ地獄か天国でしょう。確かにあなたは天使みたいだけど、神様が寂しい私にわざわざ天使を送り込んでくれるはずないわ」

 ジェスお嬢様は心の底から愉快そうに笑った。ああ、私が本物の天使だったら、ジェスお嬢様は喜んでくれただろうか。

  ◆ ◆ ◆

 ウィティング屋敷は、悪魔の住処にされてしまっているが、それ以外に恐ろしいことは起きていない。ウィティング屋敷に門番は居らず、彼らは客の相手もしない。どういうわけかウィティング屋敷の人たちは、屋敷の外に出ようとしなかった。そのため、客人の相手は私の仕事になっていた。

 ある日、エクソシストを名乗る男がやって来た。私は正面玄関の扉を少しだけ開けて、対応した。神父のような男が、人のよさそうな笑顔を浮かべて立っていた。

「私はオリヴァー・シールズ。神託を得ながら、各地を旅して悪魔を祓っています」

「そうですか、初めましてオリヴァーさん。私はサナです。ご足労いただいたのに申し訳ありませんが、当屋敷に悪魔に憑りつかれたものはいません」

「ええ、存じております。この屋敷には、悪魔そのものがいます。あなたもそれをわかっているはずです。なぜ、匿うのですか」

 私はため息を吐いた。お節介な悪魔祓いだ。遠回しに帰ってくれと言っているのがなぜわからないのか。

「悪いけど、帰ってくれないかしら。誰もエクソシストなんて呼んでないの。少なくともここでは必要としていない」

「それは皆、悪魔に操られているからです。神託があったんです。ウィティング屋敷の悪魔を殺し、あなたを助けるようにと」

 私は舌打ちをして「神がそんなことを?」と吐き捨てるように言い、オリヴァーを睨みつけた。

「神がお嫌いですか」

「さあ。少なくともあなたは嫌いよ、オリヴァーさん」

  ◆ ◆ ◆

「さっき、神託を得てこの屋敷に来たとか抜かすエクソシストが来たわ」

「それは大変だ。俺のようなちっぽけな悪魔でも、神様に見られちゃっているんだね」

 ギャレットは茶化すように言う。

「ねえ、心配だわ。あなたに傷ついてほしくない」

「君は優しいね。天使みたいだ」

「天使が地上にいるわけないでしょう。ねえ、本当に心配しているのよ」

 ギャレットは「わかったわかった」と言いながら食事を再開した。

「もし……あなたがこの屋敷を出たら、お嬢様はどうなるの?」

「もしかして、俺に逃げてもいいよって言ってくれてるの?」

 神託を得ることができる聖職者はごくわずかだ。神託を得ると言うことは、神に〝こいつは使える〟と思われているということだ。

「だって……」

「ジェス嬢は、二度と動かなくなるだろうね。魂が解放され、二度と地上に戻ってくることはない」

「そんな……」

「あれだけの魂をこの屋敷に縛り付けているんだ。神様に目をつけられてもおかしくない」

 ギャレットはワインを一口飲むと、口元を丁寧に拭った。

「悪魔に食事は不要だと思ったけど、あなたは食べたり飲んだりするわね」

「必要なことだけしていても、面白くないだろ。俺は人間に興味がある。食事も、非常に興味深い行為だ」

 そう言ってギャレットはワインを勧めてきたが、私は断った。