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08.ウィティング屋敷の終焉②

「……!」

「どうしたんだね、ギャレット」

 ギャレットが急にあたりをきょろきょろと見回し始めた。ウィティング伯爵が心配そうに彼の肩に手を置く。ギャレットの肩に置かれたウィティング伯爵の手は透けていた。

「伯爵は聞こえなかった? 今、サナの悲鳴が聞こえた気がしたんだ」

 ベットからジェスが「何も聞こえなかったわ」と呟く。

「そうか、気のせいか……」

 ギャレットは納得がいかない様子だったが、再び魔法陣に向き直った。

「みんな、本当にいいんだね?」

 ウィティング伯爵や、使用人たちが静かに頷く。

「サナが君たちにお別れの時間をあげて欲しいって言ってたんだ。お互い言い残したことはない?」

 ウィティング伯爵や使用人たちは首を横に振った。

「ギャレット、あの子に……サナに伝えて。大好きよって。ありがとうって……」

「わかった。必ず伝えるよ」

 ジェスの目元が少し濡れているように見えたが、気のせいだろう。彼女は涙を流すことができないはずだから。

 ウィティング伯爵がギャレットの手を取った。

「ギャレット、ありがとう。本当にありがとう。10年も、素晴らしい夢を見させてくれた。君には本当に感謝している」

「俺だってあんたたちには感謝している。前払いで、きっちり支払ってくれた。じゃあね。向こうでも達者でね」

 そう言うと、ギャレットは魔法陣の一部を足で消した。ウィティング伯爵や使用人たちの姿がゆっくりと消えていった。いつの間にか、あれだけ立派だった屋敷は廃墟になっていた。壁も床もぼろぼろで、あちらこちらから日の光が差し込んでいる。風化して木製のフレームだけが残ったベットには、ジェスにそっくりな人形が横たわっていた。

「君は泣けないはずだろう?」

 ジェスにそっくりな人形の目元は、涙らしき液体で濡れていた。

  ◆ ◆ ◆

 まったく、どういう事なんだ。あのあばずれを殺した後、屋敷は廃墟になった。あのあばずれこそ、あの屋敷の悪魔だったのだろうか。とにかく、あんな穢れた土地には一分一秒も居たくなかった。風化して崩れ落ちた門扉を抜け、森の中を全速力で走る。

「いつ、僕が悪魔を殺せと言った?」

 神だ。突然目の前に神が現れた。神の姿を見るのは初めてだったが、すぐに神だとわかった。私は慌てて走るのをやめ、神に跪いた。

「はあ、はあ……あれは……あれが、殺せと言ったんです」

「お前に神託を与えた覚えもないが」

「そ、それは……。で、でも、私は悪魔を見つけ、殺すことができました」

「僕の名前を使って勝手なことをされると困るんだよ。色々あって、悪魔どもとは休戦中なのに。本当に余計なことをしてくれたね」

 神が。神がお怒りだ。神は私を守ってくれない。ほめてくださらない。すべて、すべてわかっていたことだ。

「私を殺すのですね。最後に、最後にどうか教えてください」

「何?」

「なぜ、私は親に売春宿に売り払われなければいけなかったんですか。どうして、あなたは助けてくださらなかったんですか」

 変態野郎どもにいいようにされ、毎晩私は神に助けを求めた。神は助けてくれず、お声をかけてくださることすらしなかった。

「それが天界で採択されたプランだからだよ。もういいかい、オリヴァーくん。僕の名前を勝手に使った者は罰しなければいけないんだ。許してくれ。」

 天界で採択されたプランだと? なんだよそれ。全然納得できない。

「もういいね、オリヴァーくん。さようなら」

 何て自分勝手なんだ。さすが神様だ。神の首にかけられた白い石が青白く光るのが見えた。