ソウタとX町をいろいろと見て回り、いつの間にかすっかり日が暮れていた。
「で? 明日チェックアウトするんだっけ?」
「そういういじわる言うと、本当にチェックアウトするから」
ソウタは自分の正体を知りつつも一緒にいてくれる存在が嬉しくて仕方がなかった。
海に近いX町を歩いているだけで、髪や肌に汐の匂いが染みつく。
サナからも汐の匂いがする。サナも魚人だったらいいのに。
サナが魚人なら、地上以外にも、一緒に行きたい場所がある。美しい海を見せてあげられるのに。
だが、サナの魚人の姿を実際に想像してみると、おかしくて仕方なかった。ソウタは思わず吹き出す。
「ちょっと、どうしたの?」
「ごめん、なんでもない」
◆ ◆ ◆
旅館につくと、ソウタは旅館の裏にサナを連れて行った。そこには小さな洞窟があった。
「洞窟の奥が、海につながってる。父さんはこれを使って母さんに会いに来てた。俺も、ここから海に出るんだ」
「なんだかロマンチックね」
洞窟からぬっと魚人が顔をのぞかせるのを想像すると、少し怖いが……。
「洞窟に入ってみる?」
「せっかくだし、入ってみようかな」
洞窟の中は、想像していたよりも広かった。洞窟の奥から汐の香りがした。波の音も聞こえる。
「なんだかすごく落ち着く」
「サナも魚人なのかな」
「ふふ、魚人じゃないけど、落ち着くよ」
「魚人だったらよかったのに」