『先生、先生はどうして私を助けてくださらないんですか? もう、限界です。私は毎日毎日男どもにいいようにされて……』
私は恩師の胸を殴りつけた。
『それは――』
『天界が採択したプランだからですか? 数千年もの間、私が慰み者にされることがプランですか?』
『すまない、サナ。本当にすまない。地獄との戦争さえ終われば……』
『そればっかり!』
天界は、私にとって地獄そのものだった。恩師は……神はいつも悲しそうな表情を浮かべていた。神が、矢面に立たされ、すべての責任を取らされるだけで、プランを変更する権利すら持たない存在であることは分かっていた。神が天界のプランにいつも心を痛めていることも知っていた。けれど、先生以外に私の話を聞いてくれる人はいなかった。
『出ていきます』
『堕天するつもり?』
『ええ。もう十分プラン通りに働きました。止めないでください』
『止めはしないよ。もっと早く、僕からここを出るように言ってあげるべきだった』
『……』
『君は特別な子だ。特別ゆえに、辛いプランを用意された。本当に申し訳ない。さあ、これを持っていきなさい』
先生は、そう言って自分の首にかかっている石と同じ石を私にくれた。
『これは?』
『お守りだよ。君が幸せになれるように』
『先生、今まで申し訳ありませんでした』
『君が謝ることじゃないよ。僕が時間を稼ぐから、早く地上へ』
『先生……先生も、一緒に行きませんか?』
『ごめんね。僕が天界を離れてしまうと……わかるだろう?』
先生は悲しそうだった。いつも悲しそうだった。先生が笑ったところなんか、見たことなかった。この後、どうしたんだっけ。どうやって地上に行ったんだっけ。お守りは、どこに置いたんだっけ……。
◆ ◆ ◆
「サナ、サナ!」
目を開くと、ギャレットが心配そうに私を見つめていた。
「よかった。よかった……」
「私、死んだはず」
「ああ、そうだ。サナの先生が、助けてくれたんだよ。先生、本当にありがとう……あれ、どこに行ったんだろう」
ギャレットと一緒に周囲を見渡す。周りには廃墟しかなく、人の気配はなかった。先生が私を助けてくれたとは思わない。先生はきっと、天界のプラン通りに動いただけだ。
「君の先生は何者なんだ?」
「わからない? 神様よ」
「そうか」
ギャレットは私に軽くキスをした。何回も。
「くすぐったい」
「ごめん、嬉しくて」
「ギャレット……私、あなたのことが好きみたい」
「みたい?」
ギャレットは不満げに聞き返した。
「自信がないの。誰かを好きになったことがないの」
「俺も似たようなものさ」
ギャレットは私を強く抱きしめた。
「でも、愛おしくてたまらないんだ」