次の日、シオドア様がまた懲りずに話しかけてきた。
「なあ、部屋に何か甘いものを持ってきてくれないか?」
「……」
「聞こえなかったか?」
「……」
シオドア様が私の腕を掴んだ。
「昨日も言ったが、兄さまの言うことは聞かなくていい」
「……」
「ちっ……。こうなったら、お前を本当に投獄しなくちゃいけないな」
大丈夫だ。恐れることはない。私はアレク様のメイドなのだから。シオドア様が私をどうこうできるはずがない。
「本気だぞ」
シオドア様は私の腕を強く引くと、自室に私を無理やり連れ込んだ。
「おやめください! 離して!」
「兄さまもお前も、俺を甘く見過ぎだ。俺はお前を一度でも抱けるなら、どんな罰でもうける」
そう言うと、シオドア様は私にくちづけた。私の呼吸を奪い、支配するような荒々しいくちづけだった。
「ふ……はっ、や……やめっ」
シオドア様をなんとか押しのけようと私は暴れた。しかし、暴れれば暴れるほど、さらに強く押さえつけられた。
「教えろ。兄さまとはどこまでしているんだ」
「どこまでって、何のことですか?」
シオドア様はにやりと笑うと、私をベットに押し倒した。
「サナ、俺のものになれ」
「嫌です。お願いだから、やめてください……」
シオドア様は私の首元に顔を埋めた。首筋をつーっと舌で舐められる。
「っ……」
「兄さまには俺から話す。お前は何も心配しなくていい」
「そういうことじゃ……」
「わからないのか? 兄さまは、お前を本気で愛したりなどしない。知らないわけじゃないだろう。兄さまには婚約者がいるんだぞ」
「……そんなの、わかって……」
「じゃあ、わかるだろ。俺のメイドになった方が良いって」
「……」
首筋にぴりっとした痛みが走った。
「何を――?」
「別に。ただのキスマーク」
「なんてことを……。メイド長に怒られます」
「それなら、俺がメイド長に話しておく。心配するな」
そう言って、シオドア様は私の頭を撫でた。
「ごめん。こんなことしてごめん」
「シオドア様……」
「本当にごめん」
シオドア様のしたことは到底許せることではなかったけれど、肩を震わせて涙を堪える彼を責めることはできなかった。
シオドア様の部屋を出た後、私は真っ先に厨房に行った。厨房では刃物で怪我をする人が多いため、救急セットが置かれているのだ。
「こらっ! またサボってたでしょ」
仕事仲間のマリアが私の肩を軽く小突く。
「ちょ、ちょっとね……」
「やだ、それ、救急箱? 怪我したの? 見せてみて。私がやってあげる」
「だ、大丈夫だからやめてって……あ」
手でなんとかキスマークを隠そうとしたが、マリアに強引に手を引きはがされてしまった。
「何があったの?」