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02.ご褒美は遠く

「なあ、サナ」

「……」

 夕食の後片づけをしていると、シオドア様が話しかけてきた。

「おい、兄さまに俺と話すなって言われたのか?」

「……」

「……。このまま無視し続けるつもりなら、不敬罪で投獄するぞ」

「へっ!? そ、そんな……」

「俺は真剣だ」

 私は唇を噛んだ。アレク様の言いつけはなるべく守りたいが、脅されては仕方がない。

「ご用は何ですか」

「だから、兄さまに俺と話すなって言われたのか?」

「はい。分かっているなら、話しかけないでもらえますか?」

 シオドア様は「嘘だろ」と呟いた。

「とりあえず、兄さまの言うことは聞かなくていい。これからも俺と話せ」

「そんなことできるわけないでしょう!」

「あれ? シオドアと口を利くなって言わなかったっけ」

 運悪く、アレク様がやって来た。

「申し訳ありません」

 私は深々と頭を下げた。

「シオドアにも言ったよな」

「……。確かに言われました。ですが、先ほども申し上げた通り、メイドと口を利かないのは無理です」

「僕はメイドと口を利くななんて言ってないよ。サナと口を利くなって言ったんだ」

「嫌です」

 シオドア様がアレク様を睨みつける。

「不愉快だ。今すぐ失せろ」

 シオドア様は頭を下げると、どこかへ行ってしまった。

「サナ、どうしてシオドアと話したの?」

「申し訳ありません」

「ま、大方予想がつくけどね。話さなきゃ、投獄するとでも脅されたんじゃない?」

「ええ……」

「あいつがサナを投獄することなんてできないよ。これからは何を言われても無視しろ」

 私はゆっくりと頷き、「私がバカでした。私がアレク様のメイドであるかぎり、アレク様の許可なしに投獄されるはずもないのに」と言うと、アレク様が吹き出した。

「そう言う事じゃないよ。あいつはね……ああ、やめておこう」

「?」

「でもね、サナ。今度君がシオドアと話したら、僕は君を投獄するからね。地下牢よりずっといいところに閉じ込めてあげる」

 アレク様が私の耳元で囁く。

「僕に君を閉じ込めさせないでね」

「は、はい。いい子で居ます……」

「本当に可愛いね」

 アレク様がかぷりと私の耳を軽く噛んだ。身体がビクンと跳ねる。

「あ……アレク様……」

「ごめん。嫌いにならないでほしいな」

「アレク様になら、何をされても嫌いになんかなりません」

 アレク様は完璧な微笑を浮かべると、私にくちづけた。アレク様の舌が私の唇をこじ開け、口内に侵入してくる。アレン様の舌が私の舌に絡まり、くちゅくちゅとやらしい音を立てる。

「ふ、ぁ……ん……」

 甘い声が漏れる。どうしよう。こんなことをされたら、アレク様への思いが抑えられなくなってしまう。

 長いキスの後、アレク様は「これで嫌いになったら、怒るからね」と笑った。