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ミルク販売編#01*

 サナがTeacupでバイトとして働き始めてから、一週間が経とうとしていた。あの魅力的な男は、この店のオーナー兼店長だった。名前はミナト。彼の名前を知れただけでも、バイトになった甲斐があるというものだ。

 分かっていたことだが、Teacupには客が全く来ない。どうやって利益を出しているのか謎だった。ミナトは、「この店に買いに来る人だけが、お客様ではありませんから」という。きっと、オンラインショップでもやっているのだろう。商品は趣味の良いものばかりだから、人の目にさえつけば売れるはずだ。

 客が来ないから、仕事は掃除ばかりだったけれど、ミナトと話す時間がたくさんあるのは嬉しかった。最高のバイト先と言えた。相変わらず、店に入るだけでムラムラして仕方がないが、いつか慣れるだろう。

(あ、私がお客さんをお店に連れてくればいいんだ)

 アンティークランプの埃をはたきで払っているときに、気がついた。

(そうだよ、友達を連れてくれば――)

 すぐに、サナは自分には友達がいないことを思い出した。都会に憧れて、田舎から出てきて一人暮らしを始めた。大学に通っていれば、自然に友人ができるものと思っていたが、そうはならなかった。

(……せめて、夏休み前に一人くらい友達を作りたい)

 そうでなければ、こちらで過ごす間は一人だ。田舎に帰れば家族も友人もいるけれど、田舎が嫌でこちらに出てきたのだから、わざわざ帰りたいとも思わない。親とも上手くいっていないから、正直、顔を合わせるのは冠婚葬祭のみで十分だ。

(ミナトさんを誘えたらなぁ……夏休みに、ミナトさんと旅行にでも行けたらいいのに)

 何やらノートパソコンで作業をしているミナトの横顔をちらりと見る。何回見ても美しい顔立ちをしている。赤い瞳が、人間離れしたイメージをより強める。こんな男だったら懇ろになりたいと思う女は、それこそ星の数ほどいるだろう。

「俺の顔に何かついていますか?」

 ミナトがパソコンの画面から目を離さずに問う。見ていたことが、本人に気づかれていた。恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだったが、サナは「な、何でもないです」とどうにか答えられた。

 講義と講義の間の短い休み時間に、女子生徒がサナに声をかけてきた。それだけで嬉しかった。女子生徒によれば、あのミカヅキがグループ旅行を計画していて、今は人数を確認している段階なのだという。この旅行に行けば、間違いなく友だちができるかもしれない。サナは行く気満々だったのだが――。

「でね、宿泊費なんだけど、2泊3日で15万。朝食と夕飯は込みなんだけど、昼食は別なの。どこで昼食を食べるか、どこを見るかも検討中なんだけど、少なくとも20万円はかかる見込み」

(2、20万~~!? それに、少なくともってことは、もっとかかる可能性があるってこと!?)

 そんな大金、すぐには用意できない。Teacupで働く前も別のバイトをしていたけれど、ほとんど生活費に消えている。親とは折り合いが悪いから、旅行に行きたいから金を貸してくれなんてとても言えない。消費者金融も浮かんだが……。

「ウルシマさん、参加の連絡はいつでもいいからね」

 名前も知らない女生徒は、手をひらひらと振ると、去って行ってしまった。

(20万……)

 サナの頭の中は、金のことでいっぱいになってしまった。

 Teacupでのバイト中も、サナはため息ばかり吐いていた。ビスクドールの帽子の埃を丁寧に取ってやっているときも、考えるのは例の旅費のことばかり。

(20万……20万かぁ。みんなはポンと出せる金額なのかな。旅行には行きたいけれど――)

 そして、またため息を吐く。見かねたミナトが声をかけてくれた。

「どうかされましたか?」

「ミナトさん……お給料の前払いってできますか?」

 ミナトはきっぱりと「できません」と答えた後で、少ししてから「お金が必要なんですか」と聞いてきた。

「ええ、友達との旅行に……20万円必要なんです」

 正しくは友達との旅行ではなく、友達になれるかもしれない人たちとの旅行だが、わざわざ自分に友達がいないことを他人にアピールする趣味はない。ましてや、気になっている魅力的な男に、20万円すぐに用意するあてもないが、友だちができるチャンスも諦めきれないでいるなんて、馬鹿正直に話す気はさらさらない。

「そうですね……もし、あなたが俺にミルクを売ってくれるなら、それくらいで買い取ってもいいですよ」

「ミルク?」

 この男は、お使いでも頼んでいるのだろうか。牛乳を買ってくるだけで、20万円もらえる。そんなうまい話があるだろうか。もちろん、なかった。

「はい、あなたの胸から出るミルクです。この瓶いっぱいのミルクなら、それくらいの値段で買い取ります」

 そう言ってミナトがどこかから出してきた大きなガラス瓶は、ゆうに2リットルは入りそうだった。

「ぼ、母乳ってことですか? そんなの、私からは出ませんし、買い取ってどうするんですか!?」

「お金、欲しくないんですか?」

 金は欲しい。そして何より、あの妖艶な笑顔を向けられると、サナは断れなくなってしまう。サナは、胸からミルクが出るようになるらしい薬と、大きくて重いガラス瓶を受け取った。

 サナは帰宅すると、半信半疑でミナトに渡された薬を飲んだ。毒やドラッグだったらどうしようとも思った。けれど金はほしいし、本当にそんな不思議な薬があるのかという興味もあった。夜飲めば、明日の朝には出るようになるという。サナは寝支度を済ませると、いつもより早めにベッドに入った。
 次の日の朝、サナは母乳が出るようになっているか、早速試してみることにした。渡された瓶を用意し、胸をゆっくりと揉んでみる。

「ぁあッ♡」

 紅く染まった先端から、白い液体が飛び出した。胸を揉むだけでもいつもより気持ちがいいのに、液体が飛び出た瞬間、下腹部に響くような快感が走った。

 驚くことに本当に出た。厳密には母乳ではない気もするが、胸から出た白い液体は総じて母乳と言えるのかもしれない。ミナトから渡された薬は、本物だったということになる。副作用は何も聞かされなかったが、大丈夫だろうか。心配になってきた。何にせよ、まだ量が足りない。

「ん、んぅぅうッ……♡」

 勢いよく出る液体。瓶の中を、少しずつ満たしていく。しかし、一回で瓶を満たすことは無理そうだ。それでも、半分は搾れた。さらに重くなった瓶を鞄に入れると、サナは家を出た。