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《検閲済み》01

 政府が秘密裏に進めていた《検閲済み》計画が失敗した話は、俺のような一般の調査員でも知っていた。100人近いクルーを乗せた船は、何らかの原因により操縦不可能となり、どこかも分からない星に落ちた。落ちてからは通信も途絶え、クルーの生死も不明であったと聞いていたが……。

「ミル、彼女が《検閲済み》計画のメンバーの一人だった、サナ・ウルシマだ」

 目の前の裸の女が、俺をじっと見つめる。手は拘束されているが、自由に歩き回ったりすることは許可されているらしかった。もちろん、この狭い檻の中でのみだが。

「なんで……裸なんですか?」

 目のやり場に困る。

「彼女が帰還したときに着ていたスーツは、政府標準のものだった。映像記録機能がついてるだろう? だから、脱がせたんだ。ああ、そんな目で見るな。その後、ちゃんと服を与えたし、着せようともした。だが、暴れて嫌がるんだ」

「彼女から、何か聞けましたか?」

「何も。ずっと一言も話さない。それに、彼女から何か聞き出すとしたら、それは君の仕事だ」

「そうですね……でも、なんで俺なんです? 《検閲済み》計画には、莫大な金をかけてた。それに関わる調査なら、もっと優秀で、身分の高い――」

「君が適任なんだ……と言いたいところだが、もう何人も気味悪がって逃げ出してしまった。だから悪いけど、頼むよ。何か分かったら、すぐに報告してくれ」

 そう言うと、上司はさっさと檻から出て行こうとした。気味が悪いと感じているのは、上司も同じらしい。

「そうだ、それと……彼女のことは好きにして良いぞ。彼女の身分は贄だからな。何があっても、誰も文句を言わない」

 俺は愛想笑いを浮かべた。ようやく嫌なヤツが出て行った。俺は例の彼女に向き直ると、精一杯笑顔を浮かべた。

「ウルシマさん、初めまして。俺はミルです。貴女の担当だ。これから、よろしくお願いします」

 聞いていたとおり、彼女は何も話さなかった。だめか……と視線を落とすと、むき出しの胸が目に入った。白い二つの膨らみは、彼女の呼吸に合わせて僅かに波打つ。色の濃い先端部分はぷっくりとしている。……って、だめだろ! 俺は慌てて目を逸らした。

 サナの様子を横目で確認すると、彼女が微笑んでいた。触っても良い、そう言われた気がした。俺は恐る恐る両手を伸ばし、彼女の乳房を軽く揉んだ。一言も発しなかった彼女の口から、色っぽい声が漏れた。

「し、失礼します!」

 名残惜しいが乳房から手を離し、逃げるように檻を後にした。動揺していても、施錠は忘れない。たしかに彼女は気味が悪い。しかし、それ以上に魅力的だった。

 オフィスに戻ると、デスクの上にサナのものと思われるスーツと、端末がいくつか入った箱が置いてあった。早速俺は映像記録を確認しようとしたが、だめだった。予想はしていたが、破損していた。コンピュータに接続し、復元を試みる。コンピュータの表示が正しければ、これはかなり時間がかかりそうだ。他の端末も確認してみると、唯一無事だったのは個人記録用のものだけだということがわかった。

 個人記録は客観性に欠けるから、ほとんどの場合調査の対象にはならない。しかし、映像記録の復元にはまだ時間がかかるし、他の端末も壊れてしまっている以上、今回はこれも確認しなくてはならないだろう。

個人記録00001日目
エリートの坊やに言われて、仕方なく個人記録をつける。今日は出発の日。この船にはたくさんの人がいる。でも、贄は私だけ。この船でヤバいことが起きたら、みんな真っ先に私を犠牲にするってこと。最悪。エリート連中は全員、私が贄だって知っているはず。でも、他のみんなは? ケイトっていう子がすごく優しい。彼女は私を贄だって知っている? それとも、知らないから優しい?
個人記録00002日目
みんなピリピリしてる。この人数にこの船の大きさはおかしい。エリート連中は違うんだろうけど、私たちは狭い大人数部屋で、プライバシーなんて守られっこない
個人記録00003日目
あちこちで小競り合いが起きてる。食堂もトイレも風呂もベッドも、私たちに与えられたスペースは何もかも狭い。こんな状態でこれから上手くやっていけるとは思えない。エリート連中は、すぐに慣れるとしか言わない。ケイトも、同じことを言う

 俺はため息を吐いた。これでは日記だ。サナは最も身分の低い贄だというから、他の人間より劣るのは仕方が無いのかもしれない。しかし、色気は他の誰よりも優れているようだった。もう一度彼女に会いにいこうか。そんな考えが頭をよぎる。

「いやいや、会ってどうする」

 思わず独り言が漏れる。自分の最低な考えを頭から追い出す。上司の言った「彼女のことは好きにして良いぞ」という言葉を忘れようと試みたが、無理だった。

 俺は仕事に集中することにした。もう一度、コンピュータの画面を確認する。ちっとも修復は進んでいないようだった。俺は再び個人記録を読み始めた。

 もう10日分は読んだが、一向に《検閲済み》計画の内容が分からない。この計画が失敗したことは多くの人間が知っていたが、その内容はほとんど知られていない。

 サナも、知らなかったのかもしれない。下手したら、《検閲済み》計画のメンバーに含まれていることすら、分かっていなかったのかもしれない。

個人記録00012日目
何もかも最悪。船が落ちた。親友のケイトは、死んでしまった。ケイトが死んだとき、悲しくて涙が止まらなかった。私はわんわん泣いた。でも、泣いたのは私だけじゃ無かった。あのエリートのボワズ。あいつもわんわん泣きだした。びっくりして『なんであんたが泣くの?』って聞いたら、『決まっているだろう、彼女は僕の恋人だぞ!』って。嘘でしょ、ケイトもエリートだったなんて。最悪。ケイトは熟れてダメになったメカトマトみたいに潰れたし、落ちた星は気味が悪い。エリート連中もびびってる。今夜はエリート連中も、私たちのそばで眠るらしい。ここは変だから、それが正解。上手く言えないけど、とにかく嫌な予感がする

 ボワズ? ボワズって、あの新居住地調査部門のトップの? そう言えば最近彼を見ていない。それに、彼にはケイトという名の恋人……婚約者がいた。《検閲済み》計画とは、我々の新たな住み処を探索する計画のことだったのだろうか。それにしても、恋人と一緒に船に乗ったなんて妙な話だ。未知の星の探索となると、危険が伴う。普通、恋人をそんな危険な任務に連れて行くだろうか。

「……!」

 俺は視線を感じ、すぐさま振り返ったが、そこには誰も居なかった。ふと額に手を当てると、自分が随分汗をかいていることに気がついた。仕事とは言え、関わるべきでは無いことに関わっている気がする。前の調査を担当していた奴らは皆、逃げ出したという。俺も逃げ出すべきだろうか。

 だが……俺は好奇心に負けてしまった。このまま調査を続ければ、《検閲済み》計画の内容を知れるかもしれないし、どうして失敗したかも分かるだろう。気分を切り替えるためにも、俺はシャワーを浴びることにした。