林を抜けると、ご婦人の言う岩場があった。人影はなく、これなら船を写すことなく海を撮影できそうだ。
一通り写真を撮り、適当な岩に腰かけ、撮影した写真を確認する。一枚の写真に目が留まった。
海面に何か浮かんでいる。サナは写真をズームした。
「これ……」
写真には、魚人の頭らしきものが映り込んでいた。
思わず海に目を向ける。しかし、そこには美しい海があるだけだった。
◆ ◆ ◆
旅館に戻ると、昼間の男性が旅館の庭の花にホースで水を撒いていた。
「海にでも行ってたのか? 汐の匂いがする」
「ええ、まあ……」
「どうした? 何かあったのか?」
サナは何も言わず、カメラを男性に差し出した。男性はカメラの写真を確認すると、ほほ笑んだ。
「ここ穴場だよ。地元の人間に教えてもらったのか? 写真もよく撮れてるね」
「ここ、見て」
サナは魚人の頭らしきものが移っているところを指さした。
「なんだこれ……。魚人か?」
「海を見たら、もう誰もいなかったけど。どうしよう、魚人が追いかけてきたら……」
「おいおい、魚人が追いかけてくるってなんだよ。魚人は……海にいるものだろ? よくは知らないけどさ」
「そんなの、わからないじゃない……」
サナは今日はもう、部屋で休むことにした。