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06.城下町

 アレク様が城下町に時々来ていると言うことは本当らしかった。彼は城下町を知り尽くしていたし、城下町の人も彼のことをよく知っていた。

「アレク、誰だい、その女の子は?」

「恋人だよ」

「そうかい、じゃあ、サービスをしておくよ」

 気さくな女主人がそう言って、ボトルを差し出してきた。私はそれをおずおずと受けとった。

「酒だよ。それもすごくキツイやつ。アレクに酷いことをされたら、それを飲んで寝ちゃいな」

「酷いことなんてしないよ」

「どうだか。このツラだろう? アレクはずいぶんモテるよ。ま、お嬢ちゃんもよく知っているだろうけど……」

 アレク様は「そうでもないよ」と笑った。アレク様がモテることなんて私だって知っている。高貴なご令嬢方のほとんどはアレク様に惚れている。だが、彼には婚約者がいて、私は仮初の恋人だ。

「ありがたく頂いておきます」

 そう言って私は笑った。

「アレク様は、偽名を使わないんですね」

「ああ、あまり意味がないと思ってね。それに考えてごらん。僕が生まれた年、国民の多くが自分の息子に〝アレク〟と名付けている。〝アレク〟と名乗っても不自然じゃない」

「町の人は案外、王子様のお顔をご存じないんですね」

「みんな、ものすごく遠くからしか僕を見れないからね」

 それもそうか。王族を庶民が間近で見れる機会なんてめったにない。

「その酒、持って帰るつもり?」

「ええ。辛いことがあったときに飲みます」

「絶対にやめておいたほうがいいと思うな。レイテ……あの女主人が作っている酒はやばいよ」

「ぐっすり眠れそうですね。アレク様にも分けましょうか?」

 アレク様は首を横に振りながら、困ったように笑った。

「僕の悩みはいつだって君のことさ。だから、酒は必要ない」