「で? アレク様に本当のことを言ったの?」
休憩室でマリアがあまりものの野菜を齧りながら訊ねてきた。
「いや、言わなかった。でも、バレてるっぽい」
「ふーん。なんでバレたんだろうね? でも、主人には知っておいてもらった方がいいと思うな」
マリアはニンジンを葉まで食べつくすつもりらしかった。
「さっきからじろじろ見てなんなのよ。野菜食べてるだけでしょ?」
「でもマリア……それ、生だし葉っぱだし……」
「だから何よ。食べられるのに、捨てるなんてもったいないわ。野菜は栄養素がいっぱい詰まっているんだからね。私はストリートの野菜くずで育ったのよ」
「そうかもしれないけど、メイド長に怒られるよ……」
案の定、マリアはメイド長に見つかってこっぴどく叱られていた。
◆ ◆ ◆
休憩が終わると、私は早速アレク様に呼び出された。いつもなら喜んで行くが、今回は何となく嫌な予感がして、気が重かった。
「アレク様、サナです」
アレク様の私室に向かって、廊下から声をかける。
「ごめん、ちょっと待ってて」
私は扉の横で待つことにした。数分後、アレク様が部屋から出てきたかと思うと、私に服をわたし、それに着替えるように命じた。渡された服は、清潔ではあったが質素で地味なものだった。私は誰もいない物置で着替えると、アレク様の部屋に戻った。
アレク様もまた、似たような質素で地味な服を着ていた。
「アレク様、この服はなんですか?」
「まあ、いいからいいから。ついてきて」
そう言ってアレク様は私の手を引いた。
◆ ◆ ◆
アレク様と私は城を抜け出し、城下町にやって来た。城を出る途中、メイド長に見つかりそうになったときは肝を冷やした。マリアが上手いこと誤魔化してくれた。きっと、後で何か奢らされるだろう。
「どうして城下町へ?」
「気分転換だよ。たまにこうやって城を抜け出すんだ」
「アレク様、おひとりでいつもこんな危険なことを?」
アレク様は私の唇に人差し指を当てた。
「だめでしょ、そんな呼び方したら。ここではアレクって呼ぶこと。いいね?」
「そんな恐れ多い……」
「カップルか、新婚のように振舞った方が都合が良いんだよ。兄弟でもいいけど、僕とサナは似ていないからなぁ。あ、異母兄弟の設定にする? それなら行けるかも」
カップル……。一時とはいえ、アレク様とカップルのように振舞えるなんて。腕とか組んじゃうのか。思わず顔がにやける。
「か、カップルで!」
「ふふ、わかった。じゃ、行こうか。ちゃんと恋人らしくするんだよ」
私は恐れ多くも、アレク様の腕に自分の腕を絡ませた。心音がうるさい。アレク様は私よりも体温が高い様だった。普段から剣術の鍛錬をされているから、筋肉がそれだけあるのだろう。
「いい子だね。とりあえず、市場でも覗いてみようか」
私はこくこくと頷いた。