オリヴァーは、屋敷の中を好き勝手見て回っているようだった。ジェスお嬢様の部屋にも勝手に入ったらしく、私はさすがに頭に来た。
「オリヴァーはお嬢様に何を言ったんです? 何か不愉快なことを言われたりしませんでしたか?」
「そうねえ。〝君はもう生きていないはずだ〟と言われたわ」
「あのクソ野郎……」
私は唇を噛んだ。
「サナ、いいのよ。本当のことだから。あのエクソシストにギャレットは殺されてしまうかしら」
「それは、させません。ギャレットにも守ると約束しました」
「そう……ようやく私も天国に旅立つ時がきたのでしょうね。お父様やみんなと過ごせてよかった。あなたにも出会えたし。でも、いけないことだとわかっていた。もう終わりにしないとと思っていたの。神様はお優しいから、今まで目を瞑ってくれていたのね」
神が今まで目を瞑っていたとは思えない。ようやく最近になって、ウィティング屋敷に気が付いただけだろう。
「ねえ、サナ。天国はいいところかしら」
「わかりません」
ジェスお嬢様は悲しそうにほほ笑んだ。
「そんなにいいところじゃないのね。ありがとう、サナ。お父様を呼んで。お別れを言いたいの。あなたとギャレットはこの屋敷を出て、幸せに暮らしてね。約束よ……」
◆ ◆ ◆
私は、庭の小屋のドアを乱暴に殴りつけた。
「オリヴァー、居るんでしょう?」
「どうされました」
「あんた……お嬢様によくも……」
オリヴァーが首をかしげる。その仕草に無性に腹が立ち、私はオリヴァーの頬を思いっきり殴った。オリヴァーは相変わらずきょとんとしていたが、私は手首を捻ってしまった。
「なぜ、殴るんです」
「もうすぐ悪魔はこの屋敷を去るわ。無駄にお嬢様を傷つけないで」
「神は……悪魔を殺せとおっしゃっています」
「殺すまで帰らないってことかしら」
オリヴァーは殴られた頬をさすりながら、ゆっくりと頷いた。誰も傷つかない道を選ぶとしたら……。
「じゃあ、私を殺しなさい」
「はい?」
「私は神と天界を裏切り、地上に堕ちた天使よ。堕天使は悪魔と一緒でしょう」
「……」
オリヴァーは私の腹部を強く蹴った。小屋の外で尻もちをついた私は、オリヴァーの表情を見て背筋が凍った。彼は怒っていた。
「薄汚いあばずれめ! よくも、よくも私に触れたな……」
「私が堕天使だと言う事すら見抜けないなんて、とんだ落ちこぼれエクソシストね。悪魔は目の前よ。早く殺しなさい」
胸に焼き付くような痛みが走った。ああ、良かった。誰も傷つかなかった。私が死ぬだけで済むんだ。でも、ジェスお嬢様にお別れを言いたかった。ギャレットともっと一緒に居たか