「なあ、サナ」
「……」
夕食の後片づけをしていると、シオドア様が話しかけてきた。
「おい、兄さまに俺と話すなって言われたのか?」
「……」
「……。このまま無視し続けるつもりなら、不敬罪で投獄するぞ」
「へっ!? そ、そんな……」
「俺は真剣だ」
私は唇を噛んだ。アレク様の言いつけはなるべく守りたいが、脅されては仕方がない。
「ご用は何ですか」
「だから、兄さまに俺と話すなって言われたのか?」
「はい。分かっているなら、話しかけないでもらえますか?」
シオドア様は「嘘だろ」と呟いた。
「とりあえず、兄さまの言うことは聞かなくていい。これからも俺と話せ」
「そんなことできるわけないでしょう!」
「あれ? シオドアと口を利くなって言わなかったっけ」
運悪く、アレク様がやって来た。
「申し訳ありません」
私は深々と頭を下げた。
「シオドアにも言ったよな」
「……。確かに言われました。ですが、先ほども申し上げた通り、メイドと口を利かないのは無理です」
「僕はメイドと口を利くななんて言ってないよ。サナと口を利くなって言ったんだ」
「嫌です」
シオドア様がアレク様を睨みつける。
「不愉快だ。今すぐ失せろ」
シオドア様は頭を下げると、どこかへ行ってしまった。
「サナ、どうしてシオドアと話したの?」
「申し訳ありません」
「ま、大方予想がつくけどね。話さなきゃ、投獄するとでも脅されたんじゃない?」
「ええ……」
「あいつがサナを投獄することなんてできないよ。これからは何を言われても無視しろ」
私はゆっくりと頷き、「私がバカでした。私がアレク様のメイドであるかぎり、アレク様の許可なしに投獄されるはずもないのに」と言うと、アレク様が吹き出した。
「そう言う事じゃないよ。あいつはね……ああ、やめておこう」
「?」
「でもね、サナ。今度君がシオドアと話したら、僕は君を投獄するからね。地下牢よりずっといいところに閉じ込めてあげる」
アレク様が私の耳元で囁く。
「僕に君を閉じ込めさせないでね」
「は、はい。いい子で居ます……」
「本当に可愛いね」
アレク様がかぷりと私の耳を軽く噛んだ。身体がビクンと跳ねる。
「あ……アレク様……」
「ごめん。嫌いにならないでほしいな」
「アレク様になら、何をされても嫌いになんかなりません」
アレク様は完璧な微笑を浮かべると、私にくちづけた。アレク様の舌が私の唇をこじ開け、口内に侵入してくる。アレン様の舌が私の舌に絡まり、くちゅくちゅとやらしい音を立てる。
「ふ、ぁ……ん……」
甘い声が漏れる。どうしよう。こんなことをされたら、アレク様への思いが抑えられなくなってしまう。
長いキスの後、アレク様は「これで嫌いになったら、怒るからね」と笑った。