主人公は元の世界に帰ることができるのでしょうか。
逃げたのではない。領地をもらえないなら、創れば良いだけだ。さて、どんな世界を創ろう。キーンは、人間の世界へと向かった。そこで見つけたのが――。
「え……」
サナは驚き、慌てて身体を起こした。サナが眠っていた場所は、見慣れた自室ではなく、どこかの森の中だった。
「嘘……ここ、どこ……? 今日も仕事なのに――」
混乱する頭で、状況を理解しようと必死に考える。確かに昨日は家に帰り、自室のベッドで眠ったはずだ。多少酒を飲んだが、記憶がなくなるほど飲んではいない。
「そうだ、スマホ――」
先程まで自分が眠っていたあたりをよく探してみたが、何も落ちていなかった。サナ自身も何も持っておらず、昨晩眠る前に着たパジャマを身に着けているのみだった。
「どうしよう……誰か、いませんかー?!」
返事はない。サナの声が虚しく森の中で響いただけだった。
(本当にどうしよう。昨日なにかあったっけ。……だめだ、全然思い出せない。一体ここはどこなんだろう。車の音もしないし、道路も近くにないってことだよね。はぁ……)
その時、項垂れるサナの肩を誰かが叩いた。
「!?」
振り返ると、テールグリーンのエプロンドレスを着た女性が立っていた。あどけなさの残る顔立ちをした彼女は、美しいターコイズ色の瞳をしている。艶のある黒い髪は、肩のところで切りそろえられている。
「あんた誰?」
「えっと……ウルシマ……ウルシマ サナって言います」
「はー? ウルシマサナ? 変な名前」
「いや、名前はサナで……」
黒髪の女性は舌打ちをした。
「最初から名前だけ言えばよかったじゃん。うっざ」
「ご、ごめんなさい」
顔立ちの整った女性に睨まれることがこんなにも恐ろしいことだったとは。恐怖のあまり、サナは思わず謝っていた。
「……。まぁ、いいよ。すぐ謝ってくれたし、許してあげる」
「ありがとうございます……? ところで、あなたの名前は?」
女性はニッコリと笑って「アリス」と名乗った。