「でも、私は……私のせいであなたが悪く思われるのは嫌なの。私にすごくよくしてくれているから」
「それは――」
「自分のペットだから当たり前だ」と言いかけて、アレクサンドロはやめた。ただ、自分がどうしてサナによくしてやりたいと思うのか、自分でも分からなかった。
「あのさ、散歩に行かないか」
「ええ、運動不足になっちゃうもんね」
サナは嬉しそうに笑った。
* * *
「どこへ行くの?」
アレクサンドロはサナのリードを引いて、どんどん町から離れていく。彼がはっきりどこへ行くと答えないものだから、一抹の不安が心をよぎる。
まさか、自分を捨てるつもり?
心音が早まっていく。だから出かける前に謝ったのか。そう言われれば、最近彼の様子が変だったかもしれない。彼はどんどん奥深い森の中へサナを連れて行く。
「私を、捨てるの?」
アレクサンドロがぎょっとして振り返ると、サナが今にも泣きそうな顔で自分を見ている。
「そんなんじゃないって!」
慌てて否定したアレクサンドロだったが、慌てるところが我ながら嘘くさいと思った。サナも当然嘘だと思っているらしく、大粒の涙が頬を伝っていった。
「ペットをやめたいって思ったことはあるけど、家に帰りたいって意味じゃ無いの。私はどうせ、元々一人だったから。アレクサンドロのペットになって、いろんな人たちによくしてもらえて……」
「いや、本当に……捨てるとか、そんなつもりはない」
「じゃあ、なんでこんな森の中に連れてきたの?」
「屋敷だと家族が五月蠅いし、外でも他の連中にああいう目で見られる。サナの首輪を外してやれるところは、こんなところしかない」
アレクサンドロが首輪をそっと外すと、首輪を大切そうにポケットにしまった。サナは首を軽く撫でた。捨てるつもりは無いらしいが、いつも着けている首輪が無いと、妙な感じがした。
サナの首には、首輪の日焼けあとができていた。日焼けあとをアレクサンドロが優しく撫でる。森の中、二人きりで見つめ合っていると、鼓動がどんどん高鳴っていき、気がつくと二人は唇を重ねていた。サナは軽いパニックに陥りながらも「ごめん!」と叫んで、身体を離した。
「もしかして、俺のこと好き?」
アレクサンドロが嬉しそうに尋ねてくる。好きじゃ無ければ、キスなんてしない。それはお互いにそうだろう。
「自分こそ、どうなの……?」
「俺は好きだよ。そうじゃなきゃ、首輪を外せる場所なんて探したりしない」
「私も好き」
再び二人は唇を重ねた。どちらからともなく、互いの衣服を脱がし始めた。
「こんなところじゃ、嫌か? もし、嫌なら俺の部屋で――」
「嫌じゃ無い。それにほら……ヒトも獣人も大昔はこうやって森の中で、してたはずでしょう」