普通、ヒトを散歩させるときは首輪とリードを着ける。これまでサナにも、外出する際は首輪とリードを着けさせていた。アレクサンドロはそれが何となく嫌だった。綺麗になって、高価な衣服やアクセサリーを身につけているのに、首には首輪が着けられていて、飼い主がリードを持っている。
アレクサンドロはサナの首輪を外してやった。
「アレクサンドロ……どうして?」
「いらないだろ。行こう」
そう言って、アレクサンドロはベットの上に首輪とリードを投げ部屋を出た。サナは念のため、首輪とリードを持って行くことにした。上着の内ポケットにしまうと、アレクサンドロの後を追い、部屋を出た。
* * *
外に出ると、二人は獣人たちに奇異の目で見られた。
「どういうつもり? あの男、ヒトをリードなしで歩かせてる……」
「おい、あれはファーロウ家の……」
サナは首輪を自分で着けると、リードをアレクサンドロに差し出した。
「受け取って」
「嫌だ」
「お願い。これ以上、あなたが変な目で見られるのが耐えられない」
アレクサンドロは、リードを受け取るしか無かった。
* * *
散歩を終え、屋敷に戻った後もアレクサンドロはもやもやした気持ちでいた。仕事も手に着かず、イライラする。
「いらついていますねぇ」
ネルソンは書類をチェックしながら、揶揄うような語調で言った。
「だって……ヒトは俺らと一緒なんだろ? なんで首輪とリードが必要なんだよ」
「正確には、ほとんど同じ、ってところなんでしょうね。それにサナさんはアレクサンドロ様のペットじゃありませんか。ペットは首輪でつなぐもの。そうでしょう。何がご不満なんです?」
「全部。ペットっての、辞められないか。なんか、あいつが可哀想で」
「じゃあ、サナさんを解放されては?」
「そんなことしたら、サナは自分の家に帰るだろ」
「私もそう思います。皆さんそれを恐れて、首輪につないでおくのでしょうね。首輪につないでおくのも嫌だ、自分の元を離れるのも嫌だとは、我が儘ですね」
アレクサンドロは机に突っ伏した。「どうしたらいいんだ~」とうめいている。哀れな主人を面白がるネルソンは尻尾をぴんと立てた。
「外で首輪無しの状態でサナさんと過ごしたいなら、人の居ないところに行ってはいかがですか」
「例えば」
ネルソンは「こことか」と地図を広げて指さした。
* * *
「サナ、この前は悪かった」
「何のこと?」