兵士に捕らえられたマリアと私は、城の地下牢に閉じ込められてしまった。あれからどれくらい時間が経ったのだろう。狭くて寒いこの場所を早く出たくて仕方がなかった。
「なんで私たち、捕まったの?」
ずっと黙っていたマリアが、口を開いた。いつも活発なマリアの弱弱しい声。私たちは別々の牢に閉じ込められている。牢は通路で隔たられており、寄り添う事すらできない。
「わからない。不敬罪って言ってたから、私のせいなのかも……」
「あんたのせいじゃないと思う」
「わからないでしょ」
マリアは急に立ち上がると、「あんたのせいじゃないよ!」と叫んだ。マリアはこの状況にひどくストレスを感じているらしかった。
「ごめん……サナ、怒鳴ったりしてごめん。ここが……ああ、この場所は、最悪なんだ。ストリートに似てる。冬の、ストリート。私は子供のころ、何度も何度もこんな場所で死にかけた。たった一人で。怖いよ、サナ」
「今は私がいる」
マリアは小さく「そうだね」と呟くと、粗末な寝台に横たわり、すぐに寝息をたてはじめた。そう言われれば、マリアがよく話していた。子供のころ、お腹が空くと眠るようにしていたと言っていたっけ。お腹が空きすぎて、眠れないときはもっとひどかった時のことを思い出して、自分を慰めていたとも。私にはこれよりひどい状況の記憶がなかった。
◆ ◆ ◆
「起きろ」
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。私は、兵士に腕を掴まれて、無理やり立たされた。向かいの牢を見ると、マリアの姿がない。
「マリアは!?」
兵士は何も答えなかった。兵士に引きずられるように牢屋を出ると、連れていかれたのは、アレク様の部屋だった。
アレク様は私に、椅子へ腰かけるよう促した。私は黙って、椅子に腰かけた。アレク様はいつも通りに完璧な王子様スマイルを浮かべていた。だからこそ、彼が何を考えているのかわからなかった。
アレク様は微笑みを浮かべたまま、優雅に紅茶を飲む。兵士を下げさせることもしない。沈黙に耐えられず、私は「マリアは?」と尋ねた。
「釈放されたよ。今頃、いつも通り働いているんじゃないかな」
「よかった……」
「マリアも君の心配ばかりしていたよ。君たちの友情は、本当に素晴らしいね」
「私たちを捕えさせたのは、アレク様なんですか?」
「そうだよ。少し反省してくれるかなって思って」
「反省?」
「君は僕の言いつけを守らないし、マリアはあのバカに君の居場所を教えた。二人ともどうかしているよ。僕をこれほど不愉快にさせてどういうつもり?」
「マリアに悪気は――」
「じゃあ君は?」
アレク様に睨まれ、私は言葉に詰まった。私は……私はどうだろう。何回もアレク様にシオドア様と口を利くなと言われたのに、どうして守れなかったんだろう。心の中で、アレク様の言いつけを子供じみていると感じていたのはたしかだ。それに、破ってもばれないと思ったし、罰を受けることの程ではないと思っていた。
「悪気は、ありませんでした。ただ、城に仕える身として、王族を無視することはできません」
「バカなことを言わないでよ。僕の言いつけを無視しているくせに。それに、君が仕えているのは城じゃない。この僕だろ」
「……その通りです」
「おい、この女は牢屋に戻せ」
私は兵士に乱暴に腕を掴まれ、再び暗い地下牢に戻された。