そう呟いたのは買い物に付き合わされていたネルソンだった。それに対し「いや、足りないくらいかもしれない」とアレクサンドロ。リリーは「極端にもほどがあります」とため息をついていた。
「とにかく! 着替えさせてやるよ。ほら、サナ、こっちに!」
「だから彼女はレディーだと言ったでしょう。ダメです」
リリーは再び主人をばしっと殴った。アレクサンドロはすっかり落ち込んでしまった。
「俺のペットなのに……」
サナの胸の奥がちくりと痛む。ファーロウ屋敷の人々は確かにすごくよくしてくれている。しかし、サナはどこまでいっても〝ペット〟でしか無いのだ。
* * *
身なりを整えたサナは見違えるほど綺麗になった。身につけているものが高価なこともあり、貴族の娘のように見えるほどだった。
アレクサンドロは再びサナを連れ、ガブリエラを訪ねた。
「あら! すっかり見違えたわね」
ガブリエラはにこにこしながら、サナの頭を撫でた。
「ガブリエラ、その……ヒトは他にどんなことをしたら喜ぶのか教えて欲しい」
「そうねえ……散歩に連れて行ってやると良いわ。運動不足は良くないし。後は……個体差があるからなぁ。サナちゃん、あなたはどんなことが好き?」
突然名前を呼ばれて驚くサナ。どんなことが好きと言われても……。
「具体的には思いつかないけど、アレクサンドロと一緒に居るのは楽しいかな」
アレクサンドロはその言葉に大喜びして、サナを抱きしめた。
「よかった! 俺、ずっと嫌われてるんじゃ無いかって……。これからは、いろんなところへ行こうな!」
強く抱きしめられすぎて、苦しいくらいだ。「ア、アレクサンドロ……苦しい……」とサナが言うと、アレクサンドロは「悪い悪い」と言って離してくれた。ヒトは非力だと分かっているからこそ、彼なりに力加減をしたつもりだったが、それでも苦しめてしまったらしく、アレクサンドロはまた少し落ち込んだ。
「まあ、アレクサンドロ! そんなに彼女を気に入っているなら、うちのドワイトと交尾させて子供を作らせるのはどう? きっと可愛い子が……」
「冗談じゃ無い」
ぎりぎりと音が聞こえてきそうなほど、アレクサンドロは拳を強く握りしめた。顔を真っ赤にして、ガブリエラに怒っている。
「交尾だと? 何のつもりだ、ガブリエラ」
「大事なペットの子供を欲しがるのは、当たり前のことでしょう。私は好意で……」
「いらん世話だ。邪魔したな。帰るぞ、サナ」
「う、うん……」
* * *
「私のせいで、ごめんね」
帰り道、サナはぽつりと呟いた。
「気にするな。あいつと揉めるのはこれが初めてじゃない」
「アレクサンドロは……私の子供、欲しくないの?」
アレクサンドロは俯いて少し考えてから、「分からない」と短く答えた。サナの子供が欲しいような気もする。だからこそ、ガブリエラにあんな風に怒ってしまった理由が、自分でも分からなかった。