アレクサンドロは、サナに飽きたつもりなど全くなかった。自分の仲間にサナを紹介したし、紹介し終わった後、歓迎の酒も一緒に飲んだ。ただ、その後、ペットと何をすれば良いのかさっぱりだった。
アレクサンドロは自分よりヒト飼いの先輩であるガブリエラ・ディアリングをサナとともに訪ねた。
「わ、何よそのみすぼらしい子は」
ホワイトタイガーの獣人、ガブリエラは不愉快そうな表情を浮かべながら、サナのボサボサの頭を手ぐしで何とかしようとしている。
「ちょっと、アレクサンドロ。何を考えているの? これじゃ、可哀想よ」
「服のことか? 髪のことか? それとも――」
「全部よ!」
「で、でも……ヒトは何を着るんだ? 髪とかだって何で――」
「私たちと一緒よ! というか、分からなければ、その子に聞けば良いじゃ無い。貴女も貴女よ。どうして願望を言わないの? お風呂もしばらく入れてもらってないでしょう」
ガブリエラがサナを睨みつけた。思わずサナの身体が震える。ガブリエラは二足歩行だが、けして肉食獣の気迫を失っていない。
「やめろ、ガブリエラ。彼女が怯えている」
ガブリエラは不器用にサナに微笑んで見せようとしたが、うまくいかなかった。アレクサンドロのことで頭にきすぎていて、笑いたくても笑えないのだ。「くそ」と吐き捨てると、ガブリエラはサナから目を逸らした。
* * *
ガブリエラに嫌というほど説教を受けたアレクサンドロは、屋敷に帰ると早速サナを風呂に入れてやることにした。
「うそうそうそ……ちょっと待ってよ、アレクサンドロ。ガブリエラの話を聞いてなかったの!?」
サナがそう叫んだのは、風呂場でアレクサンドロが彼女の服を乱暴に引き裂いたのと同時だった。サナは露わになった乳房と股間を慌てて手で隠す。
「なんだよ」
「あなたたちと一緒なの! 男の人……雄に身体を見られたくないの!」
パブで酒を飲んだ晩と同じようにサナは顔を真っ赤にしている。アレクサンドロはきょとんとして「でも、お前のお世話をしないと」などと言う。そんな彼を誰かがバシッと殴った。立派な角の雌山羊の獣人メイド、リリー・バフォメットだった。
「坊ちゃん、サナはヒトでペットですが……レディーなのですよ。どうしてあなたはレディーの服を引き裂いたんです!?」
アレクサンドロはまだぽかんとしている。リリーは風呂場からそんな彼をさっさと追い出した。
「さあ、サナ。もう大丈夫ですよ。お風呂に入りましょう。リリーがお手伝いいたしましょう」
* * *
あんな風に誰かに身体を洗ってもらう日が来るとは。貴族や王族にでもなったような気分だった。それに久々の入浴はとても気持ちが良かった。風呂から出ると、アレクサンドロの姿が無かった。
「まったく。坊ちゃんはあなたの世話をするつもりはないようですよ。もし、良ければこれからはリリーが――」
「サナ! 戻ったぞ」
アレクサンドロとネルソンは両手にいっぱいの紙袋を持っていた。中には女性ものの衣服やアクセサリーがたくさん詰まっていた。