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09.反省

 兵士に捕らえられたマリアと私は、城の地下牢に閉じ込められてしまった。あれからどれくらい時間が経ったのだろう。狭くて寒いこの場所を早く出たくて仕方がなかった。

「なんで私たち、捕まったの?」

 ずっと黙っていたマリアが、口を開いた。いつも活発なマリアの弱弱しい声。私たちは別々の牢に閉じ込められている。牢は通路で隔たられており、寄り添う事すらできない。

「わからない。不敬罪って言ってたから、私のせいなのかも……」

「あんたのせいじゃないと思う」

「わからないでしょ」

 マリアは急に立ち上がると、「あんたのせいじゃないよ!」と叫んだ。マリアはこの状況にひどくストレスを感じているらしかった。

「ごめん……サナ、怒鳴ったりしてごめん。ここが……ああ、この場所は、最悪なんだ。ストリートに似てる。冬の、ストリート。私は子供のころ、何度も何度もこんな場所で死にかけた。たった一人で。怖いよ、サナ」

「今は私がいる」

 マリアは小さく「そうだね」と呟くと、粗末な寝台に横たわり、すぐに寝息をたてはじめた。そう言われれば、マリアがよく話していた。子供のころ、お腹が空くと眠るようにしていたと言っていたっけ。お腹が空きすぎて、眠れないときはもっとひどかった時のことを思い出して、自分を慰めていたとも。私にはこれよりひどい状況の記憶がなかった。

  ◆ ◆ ◆

「起きろ」

 いつの間にか眠ってしまっていたらしい。私は、兵士に腕を掴まれて、無理やり立たされた。向かいの牢を見ると、マリアの姿がない。

「マリアは!?」

 兵士は何も答えなかった。兵士に引きずられるように牢屋を出ると、連れていかれたのは、アレク様の部屋だった。

 アレク様は私に、椅子へ腰かけるよう促した。私は黙って、椅子に腰かけた。アレク様はいつも通りに完璧な王子様スマイルを浮かべていた。だからこそ、彼が何を考えているのかわからなかった。

 アレク様は微笑みを浮かべたまま、優雅に紅茶を飲む。兵士を下げさせることもしない。沈黙に耐えられず、私は「マリアは?」と尋ねた。

「釈放されたよ。今頃、いつも通り働いているんじゃないかな」

「よかった……」

「マリアも君の心配ばかりしていたよ。君たちの友情は、本当に素晴らしいね」

「私たちを捕えさせたのは、アレク様なんですか?」

「そうだよ。少し反省してくれるかなって思って」

「反省?」

「君は僕の言いつけを守らないし、マリアはあのバカに君の居場所を教えた。二人ともどうかしているよ。僕をこれほど不愉快にさせてどういうつもり?」

「マリアに悪気は――」

「じゃあ君は?」

 アレク様に睨まれ、私は言葉に詰まった。私は……私はどうだろう。何回もアレク様にシオドア様と口を利くなと言われたのに、どうして守れなかったんだろう。心の中で、アレク様の言いつけを子供じみていると感じていたのはたしかだ。それに、破ってもばれないと思ったし、罰を受けることの程ではないと思っていた。

「悪気は、ありませんでした。ただ、城に仕える身として、王族を無視することはできません」

「バカなことを言わないでよ。僕の言いつけを無視しているくせに。それに、君が仕えているのは城じゃない。この僕だろ」

「……その通りです」

「おい、この女は牢屋に戻せ」

 私は兵士に乱暴に腕を掴まれ、再び暗い地下牢に戻された。